ぼくが土田との結婚を承諾すると、早速土田が屋敷に呼び出された。土田は、老人の話を聞いたあと、ビックリしたような顔をした。
「わたしと加奈子さんとがですか?」
「そうだ。君と加奈子が結婚してくれれば、儂はもう思い残すことはない」
「加奈子さんは? 加奈子さんはいいのですか?」
土田がぼくの方を振り返っていった。
「加奈子も承知している」
ぼくはちょっと曖昧に肯く。
「そうですか。こんな可愛い人と結婚させていただけるなんて、ぼくは幸せ者です」
その言葉は嘘偽りがないように思えた。原口と話が通じていいないのではと思って青くなった。
「できれば、一日も早く結婚して欲しい」
老人が両手を合わせ嘆願した。
「そうおっしゃいましても、急には・・・・」
「神父さんを呼んで、この部屋で式を挙げましょうよ」
ぼくが横から言う。
「そうか。そうしよう。披露宴は、後日と言うことにして、ビデオでも撮ってここに持ってこよう」
「そうしてくれるか」
老人は、嬉しそうに言った。
「じゃあ、早速準備にかかります。加奈子さん、急いで、神父さんと、指輪とウエディングドレスの用意だ」
「はい」
屋敷の外に出たら、土田に原口から連絡があったかどうか聞いてみるつもりだった。ところが・・・・。
「ちょっと待ちなさい」
部屋を出ていこうとするぼくたちを老人が呼び止めた。
「指輪とウエディングドレスは、あるんだ」
「ええっ!!」
ぼくたちは一緒に振り向いて驚く。
「奈々美が結婚するときにと用意してあったものをずっと置いてあるんだ」
「それは好都合だ。じゃあ、神父さんを呼んでくるだけでいいんですね」
土田はにこにこ顔でそう言った。
「そうだ」
「じゃあ、すぐに電話で手配します」
ぼくの心配を知ってか知らずか、土田は携帯で電話し始めた。
「加奈子は、ドレスを着てみなさい」
老人が呼び鈴を押したらしく、絹代が部屋に現れた。
「あのドレスを加奈子様が着られるのですね」
そう言って、絹代は目頭を押さえた。
「早く着させなさい」
「はい。かしこまりました。さあ、お嬢様。あちらへ」
土田が原口から連絡を受けていないと、この式のことを本気に考えてしまうのではと思うと気が気ではなかったけれど、どうしようもなくて、ぼくは絹代に引っ張られて、奥にある座敷へと向かった。
畳の上に正座して待っていると、絹代が真っ白なドレスを持って現れた。
「さあ、お嬢様。着てみてください」
「はい」
着ていたワンピースとスリップを脱いで、絹代にペニスの膨らみを見られないようにしながら、ウエディングドレスを着た。まるで誂えたようにぴったりだった。
「よくお似合いですわ」
絹代が、座敷の端に置いてあった姿見のカバーを取ってぼくに向けた。自分で言うのも何だが、凄く綺麗に見えた。
「さあ、旦那様にお見せいたしましょう」
手を引かれて、老人の部屋に戻った。
「おうおう。綺麗だのう」
それだけ言って涙を流した。
「土田さんは?」
「神父を迎えに行った」
「今から式を?」
「そうだ。儂の命がいつ尽きるかもしれんからな。加奈子、異存はないだろう?」
「は、はい」
ぼくとしては、結婚式そのものよりも、土田が原田と連絡を取っているかだけが心配だった。
土田の帰りを待っている間に、絹代がぼくの髪をセットしてくれた。
「ほんとに加奈子様は、亡くなったお嬢様にそっくりです事」
絹代は、何度もそう言った。
1時間ほどして土田が帰ってきた。神父と一緒に原口が付いてきたので、ぼくはホッと安心した。
すぐに結婚の式が始まった。
「汝、土田裕一郎は、弘田加奈子を妻とし、健やかなるときも病めるときも・・・・」
テレビなどでよく耳にする言葉が神父の口から流れてきた。
「花婿は花嫁に指輪を」
神父がそう言うと、老人が手を差し伸べた。
「土田、これを」
老人が、指輪の入ったケースを土田に手渡した。ケースが開かれると、大きなダイヤが載った指輪が現れた。
土田は、その指輪を手に取って、ぼくの左のくすり指に差し込んだ。この指輪もサイズがぴったりだった。
「花嫁は花婿に指輪を」
そんなものはない。しかし、土田が慌てたようにズボンからケースを取り出した。
「これを」
ぼくはケースを取り出し、シルバーの指輪を土田の左のくすり指にはめ込んだ。
「花婿は花嫁にキスを」
キスと言われてどぎまぎしたけれど、土田が老人に向かって反対側の目を瞑ってウインクしてきたので、やむなく応じることにした。ここまで来て躊躇うわけにはいかない。
土田がぼくの唇に軽くキスした。なんだこれくらいのキスなのかと躊躇した自分を笑ってしまった。
「ふたりは永遠のちぎりを結びました。二人に幸せあれ」
神父が宣言した。この間、原口は、カメラを持ってぱちりぱちりと写真を撮っていた。
「婚姻届にサインを」
ぼくと土田は、婚姻届にサインした。立会人として、原口と絹代がサインした。その婚姻届を見て、老人は涙を流していた。
「これでいい。これでいい。これでいつでも死ねる・・・・」
いつまでも涙を流す老人を見ながら、土田との間に解決しなければならない問題はあるけれど、少なくとも老人を満足させられたと、ぼくは嬉しい気分を味わっていた。
「婚姻届を出して、新婚旅行へ行ってきなさい」
老人が言い出した。
「新婚旅行?」
ぼくは驚く。
「さっき、加奈子さんがドレスを着ている間に予約しておいたんだ」
「でも、お祖父様を置いては行けないわ」
「イヤ、加奈子。行って来なさい。儂はおまえが帰ってるまでは死なない。おまえが産む子供の顔を見ることは出来ないだろうが、その兆しだけは知りたいんだ。儂の願いを聞いて、行って来てくれ」
ぼくは原口の顔を見た。原口は、うんと肯いた。
「分かりました。お祖父様の言うとおりにします」
慌ただしく旅行の準備が行われ、夕方には、ぼくと土田は新婚旅行へ旅立つことになった。
「じゃあ、行って参ります。帰ってくるまで、元気でいてらしてね」
「ああ。吉報を待っている」
嬉しそうに手を振る老人を残して、ぼくたちは原口の車に乗った。
車が屋敷の外に出てから、ぼくは原口に尋ねた。
「原口さん。例の件は?」
「加奈子さん。いったい何の件だ?」
土田が横から口を挟んだ。原口は黙ったまま車を運転していた。
「ぼく、嬉しいんだ。加奈子さんみたいな美人と結婚できて」
「土田さん。実は・・・・」
「何? 実は何なんですか?」
「あのう・・・・」
原口は、何も言わない。
「ねえ、原口さん?」
「ははは。土田君、もう苛めるのは止めよう」
「そうですね」
土田も原口と一緒になって笑い始めた。
「いやあ、加奈子さんの股間に、ぼくと同じものがぶら下がっているなんて信じられませんよ」
その言葉を聞いて、どれくらい安心したことだろう。
「知ってて、知らない振りをしていたのね」
「悪い、悪い。でも、会長に悟られないためなんだ。知らない振りをしていて、すまなかった」
「いえ、もういいです。分かっていてくだされば別に」
「しかし、ほんとに加奈子さんは男なんですか?」
「え、ええ」
「見せて・・・・なんて願いは聞いてもらえませんよね」
「も、もちろんです」
ぼくは顔を赤くした。
「あのう、原口さん?」
「なんだ?」
「これからどうするんですか? 新婚旅行に行った振りをして、何日か後にあの屋敷に戻るんですか?」
「いや。このまま新婚旅行へ行って貰う」
「ええっ!?」
「行く先はアメリカのディズニーランドだ。一ヶ月半も、ほとんど監禁生活みたいな生活を送らせたんだ。その代償と言っては何だが、向こうで楽しんでくれ」
「でも、その間にあの人が・・・・」
「ご老体は、まだまだ死なんよ。君が帰ってくるまできっと待っている。人間、希望がある間は死なないものだ」
「ホントですね」
「ああ、わたしが保証する」
原口の保証など、宛にはならないけれど、本場のディズニーランドに行けると言うことで、ぼくは後先のことも考えずにアメリカへ渡ることにした。
成田から、空路アメリカへ向かった。誰もぼくたちのことを新婚さんだと信じて疑わない。
スチュワーデスからも、奥様などと呼ばれて、ぼくは結構悦に入っていた。
「わあ、ここが本場のディズニーランドね」
時差ぼけも何のその、ぼくはディズニーランドの中を駆け回った。
「加奈子さん、まるで子供みたいだな」
「まだ10代ですもの」
「そうか。そうだったね」
「裕一郎さん?」
「何だい?」
「加奈子さんって言うのは止めてよ。加奈子でいいわ」
「わかった。じゃあ、ぼくのことも裕一郎でいいよ」
「裕一郎だなんて言いにくいわ」
「じゃあ、裕ちゃんてのはどう?」
「裕ちゃんね。そう呼ぶことにするわ」
アメリカのディズニーランドも結構人が多かったけれど、日本のディズニーランドほどの混雑はなかった。30分も待てば、どんな人気のアトラクションも経験できた。
閉園時間まで遊び回って、ホテルにチェックインした。
「ああ、疲れた」
「さすがに10代だな」
「10代でも、もう限界・・・・」
豪華なディナーの間、ぼくは半分うとうとしながら食事を口に運んでいた。
「さあ、部屋へ行こう」
「ええ」
土田ががちゃがちゃと部屋の鍵を開けてくれて、中に入ると、日本のホテルでは考えられないほど広い部屋だった。
「わたし、もう寝る」
ベッドに行こうとすると、土田が制した。
「汗くらい流さなきゃ。それに服を着たまま寝るつもりかい?」
「そうね」
言われるとおりだから、ぼくはシャワールームへと向かった。
「覗いちゃだめよ」
「わかってるよ」
そう返事してくれたけど、入ってくるんじゃないかと気にしながらシャワーを浴びた。体を拭いて新しい下着に着替え、ネグリジェを着た。寝間着のたぐいはそれしか入っていなかったから、それを着るしかなかったのだ。
バスルームを出ると、土田がにっこり笑ってぼくに近づいてきた。
「綺麗だ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。わたし、女じゃないんだよ。わかってるでしょう?」
「わかってるけど、今の君はホントに可愛いよ。ほんとに付いてるのか?」
土田がぼくの股間を見つめた。
「確かめないときがすまないんだったら、見せてあげるわよ」
ぼくはネグリジェの裾を持ち上げて、膨らんだ股間を見せた。
「ホントにあるんだね」
「これでわかった?」
「詰め物じゃないだろうね」
「そんなに言うのなら触ってみる?」
触られるのは恥ずかしかったし、そんなことはさせたくはなかったけれど、行きがかり上、そう言わざるを得なかった。
「そこまではいいよ」
そう答えてくれて安心した。
「だけど、・・・・よかったら、キスさせてくれないか?」
「ええっ!!」
「ぼくたちは新婚の夫婦と言うことになってるんだ。キスくらいいいだろう?」
「わたしは女じゃないのに変な人ね」
「ぼくは君が女だと思っているから」
女を演じる演技の延長として、男とキスしてみるのもいいかなと判断して応じることにした。
「そう言うのならいいわ」
「じゃあ」
土田はぼくを抱き寄せて、唇を合わせてきた。なんだかふんわりとしたいい気分になってしまった。だけどその気分の良さもすぐに消されてしまった。土田が舌を入れてきたのだ。振り払おうと手を突っ張ったけれど、土田の強い力で抱きしめられていて敵わなかった。
土田は執拗に舌を入れてくる。どうしても離してくれないので、ぼくはまあいいかと言うように気持ちになって、力を抜いて口を開いた。
ディープキスというのは気持ちがいい。土田の舌のざらざらとした感じが何とも言えない。ぼくは自分が男で、男相手にキスしていることなど忘れて、気がついたときには一生懸命土田の舌を吸っていた。
長いキスのあと、土田はぼくをベッドに押し倒して、胸に手をかけた。
「ちょっと、ちょっと止めてよ。土田さんったら! 止めて!!」
ぼくは両手を振り回し、足をバタバタさせて抵抗した。土田は諦めてぼくの体から手を離した。
「胸を揉むくらいいいだろう?」
「これ以上はだめ。これ以上したら、あなたはわたしを冒すことになるわ。ホモになってしまうわよ。それでもいいの?」
「・・・・そうだな。じゃあ、諦めるよ」
そう言い残して、ベッドルームから出ていった。ぼくはホッとする。ホッとすると、時差ぼけとディズニーランドを走り回った疲れがどっと出て、ぼくはアッという間に眠りに引き込まれていった。
まだ半分意識があるうちに、寝ている間に肛門を冒されやしないかと心配になったけれど、その心配よりも眠たさが勝って、ぼくは完全に眠り込んでしまった。