第17章 驚きの手術結果そして結婚

 目が覚めたときには、すでに病室に戻っていた。
 「加奈子お嬢様、お目が覚めましたか?」
 大久保が優しくぼくの手を握った。ぼくは自分のことより工藤のことが心配だった。工藤が死んでしまえば、ぼくが工藤の屋敷に留まる理由がなくなるからだ。観客がいなくなれば、幕は閉じてしまう。
 「お祖父様の手術は? お祖父様はどうなったの?」
 「旦那様の手術も大成功です」
 『も』と言うことは、ぼくの手術もうまくいったと言うことだ。
 「ホント。よかった」
 このとき、ぼくはあることに気がついた。肝臓移植は、少なくとも8時間はかかると言われていた。手術は大成功だという大久保の言葉を信じれば、工藤の手術はもう終わっていることになる。そうすると、ぼくの手術もかなりの時間がかかったことになるのだが・・・・。
 枕元に時計があった。
 「11時!?」
 午後11時だった。
 「わたしが手術室に入ってから14時間もたっている! ちょっとした手術だって言ったのに、いったいわたしに何の手術をしたの?」
 「それは追々お話しします」
 大久保をじっと見つめたけれど、何も言ってくれそうもなかった。
 「それでは、旦那様の様子を窺って参りますので、失礼いたします」
 大久保は丁寧に頭を下げて出ていった。

 ぼくの体にいったいどんな手術が行われたのか、じっと考えてみた。喉の痛みは、麻酔の管を通したせいだろう。腋の痛みは? 目だたないけれど、腋には新たな傷があった。胸の膨らみは変わっていない。ぼくは小首を傾げた。胸を触ってみると、少し柔らかくなったような気がした。・・・・わからない。
 「そう言えば・・・・」
 下半身が痺れたように何も感じないのだ。スタンドに取り付けられた注射器に、『塩モヒ』と書かれてあった。
 「モヒと言うのは、確かモルヒネのことだよな。それで痛くないんだ。ぼくの下半身に何かがなされたことは確かだけど、いったい何をしたって言うんだろう? ちょっと見た目は、絶対女に見えるし作り物だけどちゃんと膣もある。おかしいな・・・・」
 訳がわからないまま、ぼくは術後の疲れのせいか眠り込んでしまった。

 翌朝、目を覚ましたのは午前7時前だった。検温に来た看護婦に起こされたのだ。痛みはまったくと言ってなかった。
 しばらくして、ぼくの手術を担当したドクターがやってきた。
 「おはよう。眠れたかな?」
 「はい。よく眠りました」
 「痛みはないかな?」
 「まったく痛くありません」
 「痛み止めがよく効いているようだな」
 ドクターは、痛み止めの残量を点検していた。
 「朝早くから申し訳ありません」
 「仕事だからね。心配しないでいいよ。ちょっと傷を見せてもらっていいかな?」
 「はい」
 ドクターはナースコールを押して看護婦を呼んだ。
 「膝を立てて、足を開いてもらっていいかな?」
 「はい」
 やっぱり、ぼくの股間に何かをしたようだ。いったい何をしたんだろうか? 今のぼくにもし追加するものがあるとすれば、・・・・処女膜を作った? ・・・・そうかも知れないと思った。それならちょっとした手術だ。14時間もたっていたけれど、ずっと眠っていただけかもしれない。
 「いい状態だ。来週には退院できるだろう」
 「ありがとうございました」
 一週間の入院で退院できるのだから、ぼくの考えは正しいと思った。

 手術して三日目におしっこの管が抜かれて、歩くことが許可された。歩いてみたけれど、腰が重く、奇妙な違和感に捕らわれた。
 「ホントに処女膜を作っただけかな?」
 疑問が再び沸いてきた。
 「あれ?」
 おかしいと気付いたのは、トイレに入って、ビデで洗ったあとに拭こうとしたときだ。拭いた手の方も、拭かれた局部も、何かが違うと頭に伝えてきた。
 ぼくはトイレから出ると、持ってきていたバッグの中から小さな鏡を取りだして、股間を覗いてみた。
 「全然違う・・・・」
 全然違うというのは、言い過ぎかもしれない。ただ、印象がまったく違うのは確かだった。
 「そうか。形を整える形成手術をしたんだ。処女膜らしいものもある。これなら、性転換しただなんて気付かれないな」
 大久保が自信たっぷりにお任せくださいと言ったときのことを思い出した。
 「なるほど、こういう事だったんだ」
 ぼくはほくそ笑んだ。

 工藤の見舞いに行った。工藤はまだICUにいたから、紙でできた帽子をかぶり、ガウンを着て、ICUの中に入った。
 「お祖父様、元気そう」
 手術前まで、黒ずんで黄ばんでいた顔色がピンク色になっていた。
 「光子がここでわたしを支えていてくれるんだ」
 ちょっと涙ぐみながら、工藤は腹を押さえて言った。
 「これで、100まで大丈夫ね」
 「ああ。ほんとに、おまえの産んだ子供の結婚式に出られそうだよ」
 ぼくはにっこり微笑んで見せたけど、内心は困っていた。工藤の命はせいぜい半年だと聞かされていたから、花嫁姿さえ見せておけばいいと思っていたのに・・・・。

 一週間後、ぼくは退院した。エステの帰りの病院へ寄って工藤に会い、屋敷に戻って真一と食事をしながら話をする。そんな日々が続いた。
 工藤の回復は目覚ましく、術後一ヶ月目に退院することになった。
 「お祖父様、退院おめでとう」
 「ありがとう。さあ、わたしの手術で加奈子の結婚式が遅れたから早く準備をしよう」
 「かしこまりました」
 大久保は、中断していた準備を再開した。

 工藤の退院祝いが行われた夜、ベッドに入ってからぼくはぼくの体に起こった異変を発見して驚きの声を上げた。
 「何が起こったの?」
 はき換えたばかりのショーツが血液で汚れ、シーツまで濡らしていたのだ。
 「どうしよう・・・・」
 手術のせいだとすれば、大久保に相談すべきだろうけれど、大久保に見て貰うのは恥ずかしい。ぼくが手術をしたことを知らない佐藤や復帰した木村に相談するわけにもいかず、ぼくはおろおろしていた。
 結局、大久保に相談して、医者に診て貰おうと決心して、内線の3番を押した。
 「大久保。すぐにわたしの部屋に来て」
 「何のご用でしょうか?」
 「とにかくすぐ来て」
 10分ほどして、一緒に祝い酒を飲んだ大久保がほろ酔い加減でやってきた。
 「加奈子お嬢様、いかがしましたか?」
 「大変なの。手術したところがどうかなったみたい」
 「どうかなったと言いますと?」
 「・・・・どこからか血が出ているみたいなの」
 「血が・・・・、はあ、そうですか。そうですか」
 大久保は、笑顔を満面に浮かべた。
 「何が嬉しいのよ。こんなに血が出て、どうかなったらどうするのよ」
 「どうもなりませんよ。加奈子お嬢様」
 「どうもならないってことはないでしょう?」
 「大丈夫です。木村を呼びますから、始末して貰いましょう」
 「木村じゃだめよ。お医者を呼ばなきゃ」
 「木村で十分です。すぐに替えの下着と生理用品を持ってこさせますから」
 「はあ? 生理用品?」
 「そうですよ」
 「生理用品って、わたしが生理になるはずがないでしょう?」
 「なるのです」
 大久保は平然として答えた。
 「どう言うこと? 説明して」
 「先月加奈子お嬢様がお受けになった手術ですが、加奈子お嬢様はどんな手術をお受けになったと思われますか?」
 「どんな手術って・・・・、形を整えたんじゃあ」
 「形は完全に女になっていたでしょう。しかし、形を整えたというのはちょっと違います」
 「違うって言うと?」
 「脳死になった光子お嬢様の肝臓が旦那様に移植されましたね」
 「ええ」
 「心臓、腎臓、角膜も他の人たちに提供されました」
 「だからどうだって言うのよ」
 「光子お嬢様の女の部分がすべて加奈子お嬢様に移植されました」
 「ええっ!!」
 「子宮や卵巣はもちろんのこと、膣を初めとして外陰部の大陰唇、小陰唇、クリトリスも光子お嬢様のものと置き換えられました。もちろん神経もちゃんと繋いで貰っていますから、感覚もきちんとあるはずです」
 幻暈がした。
 「信じられないわ」
 「信じられなくても、事実なのです」
 「拒絶反応は? 移植したら、一生免疫抑制剤を飲まなきゃならないんでしょう? わたし、免疫抑制剤は飲んでいないわ」
 「飲まなくてもいいような工夫が行われました」
 「どんな工夫なの?」
 「これは最近日本人の医者が発明した方法なのです。移植に先立って、免疫抑制剤を2週間ほど飲んでから、臓器とともにドナーから採取した骨髄の中にある幹細胞を移植するのです。そうすると、」
 「そうすると?」
 「移植した臓器に対して拒絶反応が起こらなくなるのです」
 「ほんとに?」
 「加奈子お嬢様に拒絶反応が起こっていないのが証拠です」
 「信じられない・・・・」
 「旦那様も同じ処置をお受けになっておられます。だから、旦那様も免疫抑制剤は飲んでおられません」
 「医学ってすごいのね」
 「はい。長生きするものでございます」
 「・・・・生理があるって事は、わたし、子供を産めるって事なの?」
 「その通りでございます」
 ぼくは唖然とした。ぼくの体に子宮も卵巣も移植され、ぼくは完璧に女になったことになる。
 「加奈子お嬢様に移植された子宮と卵巣は、光子お嬢様のものですから、産まれた子供は旦那様と血がつながっていることになります」
 「そうか。そうよね」
 見方を変えれば、ぼくは完全に工藤家の孫娘になってしまったと言うことだ。

 大久保がぼくの部屋を出て言ってから、しばらくして木村がやってきた。
 「あらあら、加奈子お嬢様。粗相をされるなんて、少しお酒をお召し過ぎたのでは」
 そう言いながら、シーツを取り替え、サニタリーと生理用品をぼくに手渡した。生理用品など付けたことのないぼくは、困ってしまったけれど、木村がちょっと小首を傾げながらやってくれた。やり方が分かったので、次の日からは自分で取り替えた。
 それにしても生理なんてイヤなものだ。女になって、化粧したり、綺麗な服を着るのはむしろ楽しいけれど、これだけは何とかならないかと思った。

 工藤勝正は、完全に体調を取り戻したけれど、予定通りに真一に跡を継がせて、自分は引退するつもりだ。引退と言っても口は出すだろうから、いわゆる院政を敷くと言ったところだろう。
 ぼくと真一の結婚式は、予定より遅れて2ヶ月後に行われた。ぼくは、有名なデザイナーがデザインした日本に、いや世界にひとつしかないというプリンセスラインの豪華なウエディングドレスを着て式に臨んだ。
 ぼくはかなり興奮して上がっていて、片言の日本語をしゃべる神父の言葉のほとんどが耳に入らなかった。ただ、促されて『はい』とだけ答え、真一にキスされたことだけを覚えている。
 披露宴は、政財界の有力者を大勢集めて盛大に行われた。有名なタレントも何人か来ていて、工藤の交際範囲の広さというか、実力のほどを見せつけられたような気がした。
 披露宴が終わっても、さらに次の披露宴があった。この披露宴には、最初に披露宴に招待しきれなかった会社の部課長や真一の同僚たちが出席していた。

 ふたつの披露宴が終わったときには、午後7時を回っていた。
 「ああ、疲れたわ」
 「加奈子お嬢様。これからが本番でございます」
 骨折が治って復帰した木村が、ぼくの着替えを手伝いながら言った。
 「そうだったわね」
 言われるまでもなく、ぼくには新婚初夜の儀式が待っていた。土田と何度もセックスしているから、どんな感じかは分かっているつもりだけど、外陰部も腟も以前とは違う。さらに子宮さえもあるのだ。それがぼくの感覚や情動にどんな影響を及ぼすか予想が付かない。
 「加奈子お嬢様。そんなに心配されなくてもよろしゅうございます」
 ぼくが不安そうにしているのが分かったようで、木村がそっと言った。
 「加奈子お嬢様は、何もなさらず、ただ猿渡様の為すがままにされていればよろしいのです。殿方を喜ばす手管はいろいろとございますが、それは新婚旅行から帰られましてから、ゆっくり教えて差し上げます」
 「ありがとう、木村」
 「それでは、入浴されて体を綺麗にされてください」
 バスタブには、バラの香料がほんのりと漂っていた。ゆっくりお湯に浸かってから、体を入念に洗い、バスルームの外に出た。
 「こちらへどうぞ」
 木村に促されるままにベッドに行った。
 「バスタオルを取って、ベッドに」
 「裸のままここで待つの?」
 「そんなことは加奈子お嬢様のなされることではありません」
 「じゃあ、何故?」
 「お疲れでしょうから、マッサージして差し上げます」
 「ああ、そうだったの」
 ぼくは、バスタオルを取ってベッドの上にうつぶせになった。木村がぼくの体をマッサージし始めた。首から肩、腰からお尻、足に至るまで全身をマッサージしてくれた。あまりの心地よさに、疲れも手伝ってぼくは眠り込んでしまった。

 「加奈子お嬢様。そろそろお起きになられて、着替えられてください」
 そんな声に目を覚ましたのは、午後10時前だった。
 「そろそろ猿渡様がお戻りになります。さあ、下着を身につけて、ネグリジェを」
 ぼくは手渡された、シンプルだけどシルク製のかなり上等な下着を身につけた。ネグリジェも下着も同じ白だった。あんまり透けていなくて、色気も何もないものだった。
 「お似合いですよ。それでは、わたくしはこれで失礼いたします」
 「ありがとう」
 「加奈子お嬢様?」
 「はい?」
 「猿渡様にすべてを任せるのですよ」
 「わかったわ」
 木村は、にっこり笑って頭を下げると部屋を出ていった。

 真一が部屋に戻ってきたのは、それから15分ほどたった頃だった。
 「ただいま」
 「お帰りなさい」
 ホテルの部屋なのに、こんな挨拶でいいのかなと思った。
 「待たせたね」
 「ううん。ちょっとだけよ」
 「そう? シャワー、浴びてくるよ」
 「ええ」
 ぼくは真一のスーツの上着を脱がせてやり、ハンガーにかけた。振り向くと、真一はズボンも下着もすべて脱ぎ捨てて、股間のものをぶらぶらさせながら、ぼくの方へ近づいてきた。ぼくはちょっと恥ずかしそうな顔をして下を向いた。ホントに恥ずかしかった訳じゃない。初めて男のものを見たというよな振りをした方がいいと思ったからだ。
 真一は、すれ違いざまにぼくの頬に軽くキスすると、ぼくのそばを通り抜けてバスルームへと向かっていった。ぼくはシャワーの音を聞きながら、脱ぎ捨てられたズボンと下着を畳んだ。

 10分ほどして、バスタオルを腰に巻いた真一がバスルームから出てきた。ぼくは、ベッドの端に腰掛けて、体を小さくして下を向いていた。真一はぼくに近づいてきて手を引いた。真一に抱きしめられ、乞われるままに唇を合わせた。真一の右手がネグリジェの上からぼくの左の胸をまさぐり始めた。その時、真一の股間が盛り上がってきたのを、ぼくは太股で感じていた。
 ぼくはディープキスが好きなんだけど、真一はぼくの唇を何度か嘗めただけで止めてしまった。
 「ベッドへ行こう」
 手を引かれてベッドに入った。真一は再びキスしながら、ネグリジェをまくり上げてブラジャーをずらしぼくの胸を揉んだ。唇は合わせていたけれど、やっぱり舌は入れてこなかった。
 真一の唇が離れ、ぼくの右の乳首へと移動した。それから、真一の右手がぼくの股間へと移ってきた。乳首をコロコロと弄びながら、ショーツの上から優しく撫でる。心地よさが、体全体に広がってきた。
 真一の手がショーツの中に入ってきて、襞の中央を指の腹でなぞっていった。その指の腹がクリトリスに触ると、ぼくはビクッと体を痙攀させた。
 「痛い?」
 「ちょっとだけ。でも大丈夫よ」
 真一は、指をゆっくりと動かす。そうするうちに、ぼくは自分が濡れてきたことを悟った。
 真一の指が遠慮がちに腟の中に入ってきた。2、3度出し入れしたあと指が離れ、ぼくのはいていたショーツを脱がせにかかった。ぼくは腰を浮かせてそれに応えた。
 「もう少し足を広げてたててくれないか?」
 「はい」
 真一は、ぼくと結合しようとしていた。ぼくは考えた。今まで一度も関係がなくて、新婚初夜に初めて結ばれるわけだから、クンニやフラチオをやったりするのはおかしいんだろうと。
 真一は、ぼくの顔を嬉しそうに見つめながら入ってきた。数ヶ月ぶりのペニスの受け入れはちょっと痛かった。
 「痛いのか?」
 ぼくはちょっと顔をしかめたのに気付いて真一は聞いてきた。
 「ううん。大丈夫」
 そう答えると、真一は、腰を動かし始めた。痛みはすぐに去っていき、切ないような快感が沸いてきた。以前とは何か違う感覚がした。しばらくして、それが何故かわかった。それは子宮の存在だ。子宮が突き上げられるたびにこれまで感じたことのない快感が沸いてくるのだ。
 処女なのに感じていいのだろうかと思っているぼくの心とは裏腹に、ぼくの口から小さな喘ぎ声が漏れてきた。何度か声を出さないように試みたけれどダメだった。
 「ああ、あああん。ああ・・・・。うん・・・・」
 ぼくは真一を抱きしめて真一の動きに合わせて腰を振った。
 「か・な・こ。・・・・行くよ」
 ぼくはウンウンと頷いた。真一の動きが止まり、ぼくの中でペニスがビクビクと痙攀するのを感じた。その瞬間に、ぼくも体を硬直させて仰け反った。
 「う・・・・・ん」
 真一の重みを快く感じていたけれど、気がついたときには、真一はぼくの横で寝息を掻いていた。ぼくも気付かぬうちに眠っていたようだった。
 ぼくは、真一の体にすがりついて眠った。