「佳奈、いつまで寝てるんだ。腹が減った。飯を作ってくれ」
そんな声に目を覚ますと、布団の傍らに清が座って、煙草を吸っていた。
やはり5年前に戻った。わたしの産んだ子どもは誰ひとりとしていない。わたしは、涙を流した。
「どうしたんだ?」
「なんでもない」
「何でもないってことはないだろう?」
「うるさいわね。何でもないって言ってるでしょう!」
「なにい。人が心配してやってりゃ、いい気になりやがって」
清の手が飛んできた。頬に痛みが走る。わたしは、やけになっていた。
「やったわね」
わたしは、清と取っ組み合いの喧嘩を始めた。しかし、体格で勝る清に敵うはずもなかった。最後には、一方的に清に殴られた。
「何が気にいらねえんだ。なあ、佳奈。愛してるって言ってるだろう?」
清はわたしのブラジャーをずらして、乳房にむしゃぶりついてきた。
「止めて! 止めてよ。あんたなんかとしたくない」
「このアマ! 男ができたな。白状しろ」
「違う、違う」
「じゃあ、何故だ」
清は、わたしをバシバシと殴り続ける。
「わたしは、佳奈じゃない。佳奈じゃないのよ」
「何馬鹿言ってんだよ。おまえが佳奈じゃなかったら、誰だって言うんだ」
清に言っても仕方がなかったのだ。こんなことを言っても、誰も信じては貰えないのだ。気が狂ったと言われるだけだ。
清は、わたしのショーツを剥ぎ取ると、無理矢理わたしを犯した。もうイヤだ。このまま死んでしまいたい。
清は、わたしの横でグウグウ鼾をかいて眠っている。わたしは決心した。死ねば、こんな不条理なループから抜け出せる。
わたしは、そっと布団を抜け出して、台所へ向かった。手にした包丁で左の手首を思い切り切った。躊躇いはなかった。真っ赤な血が、ドクドクと溢れ出てきた。わたしはタンスに凭れて、手首から血が流れ出てくるのを、じっと見ていた。
これでいいんだ。わたしは、あの時死んだんだ。そう思えば、栄光の未来も何もかも惜しくはなくなる。
両足が真っ赤な血で濡れる頃、わたしは意識を失った。