「佳奈、いつまで寝てるんだ。腹が減った。飯を作ってくれ」
そんな声に目を覚ますと、布団の傍らに清が座って、煙草を吸っていた。
よし、5年前に戻った。作戦実行だ。前回と同じように、清と別れる方向で行動することにする。
「なあ、何してんだよ。早く作ってくれよ。腹減ってたまらんよ」
「清、まるで赤ちゃんみたいね。ちょっと待って。すぐに食事を作るから」
「頼むぜ。徹夜で働いていたから、腹減ってるんだ」
「はい、はい、分かりました」
これまでは、食事はいいよ。一発やろうだったのに、今回は素直すぎるなと思う。まあ、いいか。枝葉末節はどうでもいい。清とは音便に別れることができればいいのだ。
「あっ、そうだ。今日お店を休むって店長に言うのを忘れてた。康子に電話するから・・・・。ちょっと待ってね」
「早くしろよ。腹減ってもてないよ」
わたしは、トースターにパンを放り込んでから、康子に電話した。
「康子、わたし。今日、ちょっと急用ができて、休まなければならなくなったの。店長に休むって、連絡してくれないかしら?」
「いいわよ。明日は出て来るんでしょうね。明日から売り出しだからね。来てくれないと困っちゃうからね」
「分かってる、分かってる。じゃあ、頼んだわよ」
「佳奈、急用って、何なの?」
康子は何て詮索好きなんだろう。さっさと電話を切ればいいのに・・・・。
「ただの急用よ。分かってるでしょう?」
「ああ、あの急用ね。分かったわ。せいぜい頑張るのよ」
「うん。清、今年最後の休みだからね」
「やりすぎて、明日は、腰が立たないなんて言わないでよ」
「そうなったら、助けてよね」
「やだよ。そんなにしなけりゃいいでしょ」
「だって、清、強いんだもの。嫌だって言っても、無理矢理なんだから・・・・」
「はい、はい。分かりました。助けてあげるから、来るだけは来るのよ」
「分かってるって」
「店長には上手く言っとくわ。じゃあね、佳奈」
焼き上がったトーストにマーガリンを塗り、皿に載せてテーブルに置くと、清はものも言わずに頬張り始めた。
「清、ウインナー焼いて、炒り卵を作るから、ちょっと待ちなさいよ」
「早く作れよ。パン、もうないのか」
「ほんと、清は子供なんだから」
ウインナーをフライパンで焼き、炒り卵を作ってやると、清は、あっという間に平らげてしまった。まるで餓鬼だなと思う。
わたしも紅茶を飲みながら、トーストを囓った。
「佳奈! 腹ごしらえがすんだら、早速、しようか?」
「してもいいけど、食料を仕入れておかないと。何にもないよ」
「その前に一発いこう。なあ、いいだろう? 食料の仕入れは、そのあとだ」
「分かったわ。お皿片づけるから、ちょっと待ってね」
断れば、清は機嫌が悪くなってしまう。せっかく機嫌がいいのだから、わたしは清の要求に応じることにした。
「佳奈! 早く来いよ」
「薬飲んでおくから、待って」
わたしは引き出しの薬箱からピルを取り出して飲んだ。子供は産まない。金輪際産まないのだ。
清がわたしの中で果てたあと、わたしは天井を見上げながら、ぼんやりと考えた。以前も考えたが、佳奈に日記を残しておかなければならない。1999年12月17日になったとき、5年間の記憶のない佳奈が、迷わないために。
ファミレスでの昼食。セックス三昧の一日。もう何度経験しただろうか?
翌日午後8時、シカゴに電話した。過去に起こったことは、やっておかねばならない。10数回目に聡子が出た。
「もしもし」
「もしもし、三ヶ尻でございます」
眠そうな聡子の声だ。わたしは急いで電話を切った。これでよし。次は2時間後に電話するのだ。
午後10時。もう一度、ダイヤルする。今度はすぐに出た。何も変わりはない。順調に進んでいる。
「もしもし、三ヶ尻さん?」
「はいそうですけれど、あなた、どなた?」
「ご主人をお願いします」
「あなた、誰ですか? 主人に何の用ですか?」
「とにかくご主人をお願いします。怪しいものではありません」
「お名前が言えないのなら切ります」
「名前は・・・・」
そこまで言って、わたしは電話を切った。順調、順調。わたしは、ほくそ笑んだ。
何度か経験したものと変わりのない生活が始まった。予定通り、わたしは清の方が出て行くように仕向けている。
前回と同じように、夜遅くなって帰ってくる清を待たずに、疲れたからと言って、先に寝てしまう。『清、ごめんね。今日はとっても疲れているの。先に寝るわ。明日はうんとサービスするからね』のメモも忘れずに置いておく。清が帰ってきたとき、眠っていなくても、寝た振りをして絶対に起きない。
日曜日の夕方からのセックスデーも、前回同様、3,4回に一回は体調が悪いと言って、断ることにした。今回の清は、意外に素直だ。わたしが、いやだといえば、諦めて寝てしまう。
うまくいかないかもしれないなと思ったが、清は、やっぱりいらいらし始めた。イライラが募って、わたしに些細なことで暴力を振るうようになってきた。わたしは、その度にアパートを逃げ出して、康子の世話になった。これも予定通りだ。予定通りだが、逃げ出す回数が前回に比べて減ったような気がする。
数日すると、清はわたしを連れ戻しに来た。清が早く康子と懇ろにならないかなと思いながら、一日一日を過ごした。
1996年の冬が来たのに、清は別れ話を持ち出さない。上手く別れられないのだろうか? 不安になってきた。しかし、1997年の春、予定より遅く、清が別れ話を持ち出してきた。ほっとした。
「佳奈、俺たちもう別れよう」
「えっ!? どうして?」
わたしは、とぼけてみせた。
「おれたち、このまま一緒にいてもうまくいかないと思うんだ。だから・・・・」
「誰か他にいい人ができたのね」
今回も、それが康子だと言うことは間違いなかった。
「そう言う訳じゃないんだが・・・・」
「康子でしょう?」
「あ、いや」
「相手が康子なら許してあげるわ。ふたりとも幸せになって欲しいから、わたしが身を引くわ」
「すまないな」
清は、それ以上何も言わないでアパートを出ていった。うまくいった。日記には、清が、康子とできて、仕方なく別れたと書いて置いた。今でも清を愛しているとも書いた。佳奈を悪者にしたくないからだ。
わたしは、生活費を稼ぐため、いつものスナックで働き始めた。男たちが、わたし目当てにやってくるが、今回は、品行方正の佳奈でいくつもりだから、誘いには乗らなかった。
1997年12月。小夜子が三ヶ尻昭夫を誘惑した日が近い。わたしは、三ヶ尻昭夫の新患日に合わせて、市民病院を訪れた。次の計画のため、三ヶ尻昭夫と顔見知りになっておく必要があるからだ。
「大友佳奈さん、診察室1番へどうぞ」
わたしは、三ヶ尻昭夫、自分自身の前の椅子に腰を下ろした。三ヶ尻昭夫は、わたしが書いた問診表を見ながら尋ねた。
「どっちが痛いのかな?」
「右のおっぱいが痛いんですけど・・・・」
「いつも痛いの?」
「いつもは生理の前だけなんですけど、今度は、生理が終わっても痛いんです。ガンじゃないんですか?」
こんな会話は、いつも外来でしていた。若い女の子の、こう言う訴えは多い。ほんとは痛くなんてないのだが、三ヶ尻昭夫の診察を受けるためには、嘘をつかなければならない。しかし、痛みは、数字にならないから、痛くなくても痛いと言えば、医者を騙せるのだ。
「こんなことは、初めてなの?」
「はい、初めてです。だから心配になって・・・・」
三ヶ尻昭夫は、わたしの乳房のレントゲン写真をじっと見つめてから言った。
「レントゲンには異常がないから、心配ないけど、一応診察しよう。上を全部脱いで、ベッドに仰向けに休んで」
わたしは、ジャケットとブラウスを脱いで、ベッドに横になった。
「ブラジャーを取らないと、診察できないよ」
「取らないとやっぱりダメですか」
わたしはそう言って、恥ずかしそうにブラジャーをはずし、両手で胸を隠した。
「手をのけないと診察できないよ」
「でも・・・・」
まずまずの演技だろう。医者は、極端に恥ずかしがる患者や、逆にあまりにもあっけらかんとしている患者を覚えるものだ。ふつうに脱いで、ふつうにしている患者は覚えない。
「心配ないね」
三ヶ尻昭夫は、わたしの乳房をまるで無生物を触るように、しかし入念に診察して言った。
「先生、ガンじゃないんですね」
「大丈夫だよ。乳腺症といって、女の子は生理の前と後には、胸がよく痛むんだよ。君みたいに、生理の前しか痛まない人が、生理のあとにも痛むとびっくりして診察に来る人が、けっこう多いよ。気にしない方がいいよ」
「よかった」
わたしは、わたしのできる最大限の笑顔を三ヶ尻昭夫に向けた。こういう時、わたしは少し俯いていたものだ。特に、佳奈のような美人の笑顔には。
わたしは服を着て、もう一度、三ヶ尻昭夫の方を向いて、だめ押しをした。
「先生、おいくつですか?」
「えっ! ぼくかい? 38だよ」
「わあ、若いんですね。医長って書いてあるから、もっといってるのかと思っちゃった」
「それって、見かけが老けてるってことかい?」
「あら、そう言うことになっちゃいますか? ごめなさい」
そう言って、わたしはぺろっと舌を出した。三ヶ尻昭夫は、こういう女性に弱い。それは、わたし自身がよく知っている。
これで、大友佳奈を印象づけられただろう。次は、小夜子が、三ヶ尻昭夫を誘う邪魔をすればいいだろう。
問題の日、わたしは用事ができたからと、スナックを休んで、忘年会が行われた割烹の近くで、三ヶ尻昭夫が出てくるのを待った。
確かあの日は、午後9時過ぎに万歳三唱が行われて、お開きになったはずだ。今、午後9時丁度、そろそろ、風邪気味で体調が悪い三ヶ尻昭夫が出てくる。
10分ほどして、割烹の玄関に、三ヶ尻昭夫の顔が見えた。コートの襟を立て、タクシーの停まっている表通りに向かって歩き始めた。
わたしは、あとを追って歩き始めた。振り向いて割烹の玄関の方を見ると、小夜子が出てきて、キョロキョロしていた。早くしなければ・・・・。
「先生、三ヶ尻先生じゃ、ありませんか?」
わたしは、うつむき加減で、元気なく歩く三ヶ尻昭夫に声をかけた。三ヶ尻昭夫は、活きの悪い鯖のような目でわたしを見た。
「ああ、そうですが、どなたでしたか?」
「先週、おちちを見ていただいた大友です。大友佳奈です」
三ヶ尻昭夫は、わたしの方を振り向いて、じっと顔を見た。
「ああ、良く覚えているよ。で、その後どうかな?」
「先生のお蔭で、すっかり痛みが取れました。ありがとうございました」
「そう、それは良かった。じゃあ、また悪いときには病院へ来てくれ」
「ええ、またお願いします」
ちらりと後ろを見てみると、小夜子が、少し離れた場所で、わたしたちの話しが終わるのを待っている様子だ。このまま、別れるわけにはいかない。わたしは、タクシーを呼び止めた。
「先生、どちらまでですか? ご加減が悪いようですから、ご一緒しましょうか?」
「いや、いいよ」
小夜子が、急ぎ足で近づいてくる。このまま、小夜子に乗り込まれたら元の木阿弥だ。
「先生、そう言わないで、ご一緒しますから」
わたしは、三ヶ尻昭夫に続いて強引にタクシーに乗り込んだ。走り出したタクシーの中から後ろを振り向いてみると、呆然と立ちつくす小夜子の姿が目に入った。うまくいった。
「どちらまで?」
「ああ、御領町までお願いします」
三ヶ尻昭夫は、すでにタクシーの中で眠り込んでいる。風邪薬に、酒だ。眠いはずだ。それに、この時期忙しくて、疲れ切っていたからなと思い出した。
走るタクシーの中で、ふと考えた。今日は、上手く小夜子のもくろみを阻止できたが、小夜子には、まだチャンスがある。その度毎に、こうやって邪魔することはできない。どうしようか?
考えた末に、ひとつの結論を出した。このまま、わたしのマンションへ、三ヶ尻昭夫を連れて行って、関係を持つ。何でも話せるようになったら、聡子にマゾっ気があることをそれとなく教えてやる。そして、聡子が坂田に相談する前に別れるのだ。またやり直しになるかも知れないけれど、今はそれが最良の方法だと思う。
運転手に指示して行く先を変更し、わたしのマンションの前まで誘導した。このマンションへ越してきたのは、ひと月前だ。少し余裕ができたからこのマンションへ越してきたのだ。三ヶ尻昭夫を誘うことになろうとは思わなかったが、好都合だ。
「あなた、着いたわよ」
わたしは、さも自分の夫のような素振りで、三ヶ尻昭夫を起こそうとした。まったく起きる気配はない。
「運転手さん、すみませんけど、部屋まで一緒に連れていって貰えませんか?」
わたしは、料金に千円札を二枚上乗せして手渡しながら、そう頼んだ。
「よろしいですよ」
運転手とわたしで、三ヶ尻昭夫を抱えて、エレベーターに乗せ、部屋まで運んで、ソファーに寝かせた。
「運転手さん、ありがとう。これ、あとで飲んで」
わたしは、缶ビールを二本紙袋に包んで手渡した。
「すみませんねえ」
運転手は嬉しそうな顔をして降りていった。わたしたちが夫婦でないことは当然察しているだろうが、ちょっとした口止め料と言ったところだ。
三ヶ尻昭夫は、ソファーの上でごうごうと鼾をかいて眠っている。わたしはシャワーを浴びることにした。あの時も、小夜子がバスルームから出てくるまで、わたしは眠っていた。しばらくは起きないだろう。
シャワーを浴びて出て行くと、丁度三ヶ尻昭夫が目を覚ましたところだった。部屋の中をキョロキョロと見回している。
「こ、ここはどこだ?」
「わたしのマンションよ」
三ヶ尻昭夫は、ビックリした顔でわたしを見た。三ヶ尻昭夫は首を傾げている。わたしが誰なのか必死に思い出そうとしているようだった。
「君は? 君は・・・・」
「大友佳奈。先ほど話したのに、もうお忘れになったんですか?」
「大友佳奈。ああ、先週病院に来た患者さんだったね」
「先生、タクシーの中で眠り込んでしまって、行く先が分からないから、ここへお連れしたんです」
「それは申し訳なかった。タクシーを呼んでくれるかな」
「もう、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。迷惑をかけてしまって」
三ヶ尻昭夫は、わたしを見ないで下を向いたままそう言った。三ヶ尻昭夫は、結構はにかみ屋だ。わたし、大友佳奈は、バスタオル一枚の格好で、三ヶ尻昭夫の前に立っている。濡れた髪の毛、露わになっている肩、両足。バスタオルの下に、何も身につけていないことは一目瞭然だ。そんな姿を、まともに見れるはずがないのだ。わたしは、タクシーの中で考えた作戦を実行に移した。
「先生、わたしみたいな女は、嫌いですか?」
三ヶ尻昭夫は、目を見開いてわたしを見た。
「いや、君は美人だと思うが・・・・」
「わたし、先生のこと好きになったんです。抱いてください」
そう言って、わたしはバスタオルを取ると、三ヶ尻昭夫に抱きついた。
「こ、困るよ」
「お願い、先生」
わたしは、強引に唇を重ね、三ヶ尻昭夫の股間に手を滑らせた。そこはすでに雄々しくせり上がっていた。わたしは、有無を言わせず、ズボンのチャックをおろすと、ペニスを引き出して、むしゃぶりついた。このあたりのテクニックは、最初のループの時に娼婦で鍛えてあるから、大丈夫だ。三ヶ尻昭夫はもう抵抗せず、わたしの為すがままにされていた。ここまで来て逃げ出す男なんて、そうざらにはいないだろう。
「ほんとに、いいのか?」
「勿論よ。先生、ベッドに行きましょう」
三ヶ尻昭夫は、服を脱ぐと、わたしの待つベッドへ入ってきた。わたしの胸を、そして、股間に顔を埋めた。
自分では結構上手いと思っていたのに、坂田が言ったように、確かに三ヶ尻昭夫は、ちょっとテクニックが劣るなと思う。これもわたしが教授してやらないといけない。
「コンドームは?」
「大丈夫よ。わたし、ピルを飲んでいるから」
自分自身に抱かれるなんて、妙な気分なのだが、他の男に抱かれるよりは随分抵抗がない。と言うよりは、自分自身に抱かれることで、わたしは随分興奮していたようだ。今の三ヶ尻昭夫のテクニックでは達しないと思っていたのに、わたしは、ほとんど失神寸前になるくらい感じてしまった。
「ごめんなさい、先生。無理矢理わたしを抱かせたりして」
これは、あの時、小夜子がわたしに言った言葉だなと思い出す。
「君みたいな美人に誘われるなんて思いも寄らなかったよ」
「先生に最初にお目に掛かったときに、わたし、先生に一目惚れしてしまったんです。まさか、今日、こんなことになるとは思ってもみませんでしたけど、わたし、嬉しいです」
わたしはもう一度、三ヶ尻昭夫の股間へ顔を埋めた。あの時、小夜子を相手に二回できた。小夜子より若く、美人の今のわたしと、もう一度できないはずはない。
一度やってしまったから、罪悪感がなくなったらしく、三ヶ尻昭夫は、積極的にわたしを責めた。わたしは、すでに教授を始めている。そこが感じる、そこがいいと、教えてやるのだ。
「先生、ご迷惑でなかったら、また会ってくださいますか?」
帰り支度を始めた三ヶ尻昭夫に向かって、わたしはそう声をかけた。普段、人形相手のような無味乾燥な聡子とのセックスだ。絶対、乗ってくると確信していた。
「彼氏はいないのか?」
「いたら、こんな真似はしません」
「わたしには、妻がいるんだよ」
「分かっています。週に一度、いえ、月に一度でもいいんです。お願いです」
「分かった。時間が取れたら、電話しよう。番号を教えてくれるか?」
「はい」
その日以来、わたしは時々、三ヶ尻昭夫とベッドを共にした。わたしは、教えるとはなしに、女がどうすれば喜ぶか、教え込んだ。
三ヶ尻昭夫のベッドテクニックが随分上達した頃、わたしは、聡子にマゾっ気があることを、それとなく教えようとした。
「ねえ、先生。セックスするときは、いつも部屋の中は暗くするんですね」
「当たり前だろう」
「どうして?」
「明るいと、恥ずかしいだろう?」
「わたしは、明るいところで、相手に見られてるって思うと、凄く興奮しちゃうんだけどね」
「へえ、そうなの? 聡子は絶対嫌がるだろうな・・・・」
「嫌がってるのに、無理矢理って言うのも、結構興奮するものよ」
「へえ、そういうものかね」
「そう、女は、苛めてもらう方がよけいに感じるものなのよ。汗まみれで、シャワーを浴びたいのに、無理矢理と言うのもいいわね」
「それは、ぼくもやってみたいが・・・・」
三ヶ尻昭夫の機嫌が悪いとき、聡子がいつもと違って声を上げることに気がついただろうか? 三ヶ尻昭夫の様子を窺っていると、そのことに気がついたようだ。
「一度してみたらいいわよ」
「チャンスがあったら、やってみるか」
三ヶ尻昭夫は、天井をぼんやりと見ている。わたしではなく、聡子にそれを試そうと考えているようだった。作戦はうまくいっている。間違いない。
「佳奈、電気つけてもいいか?」
「恥ずかしいわ」
「見られるのがいいんだろう?」
「そんなこと言ったかな?」
「佳奈のすべてを見てみたいな」
「止めて、止めて」
わたしは、嫌がるポーズをして誘った。三ヶ尻昭夫も興奮しているようだ。勿論わたしも。
三ヶ尻昭夫は、聡子のその部分を、明るいところで見たことがない。見たい見たいと思いながら、聡子がそれを許さないと思いこんでいた。今日のわたしの言葉を聞いて、三ヶ尻昭夫は、数日中にも自宅でやってみるだろう。うまくいけばいいが・・・・。
そろそろ、聡子は坂田に相談に行く時期が迫っていた。もう別れなければならないと思うのに、わたしは、三ヶ尻昭夫にのめり込んでいた。自分自身を好きになる。これは、ナルシズムなのだろうなと思う。
ある日、スナックからの帰り道、坂田を見かけた。女と一緒だ。誰だろうと思ってつけてみると、女は何と、小夜子だった。信じられなかった。坂田は三宅町にある小夜子のマンションへ入っていった。
小夜子は、あの時、わたしが好きだと言ったが、佳奈に三ヶ尻昭夫を取られて、坂田に乗り換えたに違いない。小夜子のわたしに対する気持ちは、その程度のものだったのだ。わたしは悲しくなった。
しかし、少し安心もした。坂田が、小夜子と付き合っていると言うことは、聡子と付きあう暇などないはずだ。
ところが、その考えは甘かった。
坂田が小夜子と付き合っているのを知って、わたしは安心したように、三ヶ尻昭夫との不倫を楽しんでいた。聡子は、どこからか三ヶ尻昭夫が不倫していることを知って、やはり坂田に相談したようだ。そして、関係ができてしまった。坂田も聡子も、三ヶ尻の相手がわたしだとは知らずに、わたしの働くスナックで、待ち合わせをしたのだ。前回と同じように・・・・。
三ヶ尻昭夫との不倫を早く切り上げるべきだった。そう思ったが、すでに遅かった。また、間違えてしまった。やり直すしかない。