「ちょっと気分転換に外に行って来るわ。あなたは、部屋から出ないで、中にいてね」
そう言い残して、諸岡瞳はアパートを出ていきました。警察に連絡でもするのではと思いましたが、そんなことをするのなら、もっと前にやっているだろうと考え直しました。
諸岡瞳の読んでいた本は、飯島愛の「プラトニック・セックス」でした。彼女が読んでいた部分にしおりを挟んで、最初から読み始めました。『女なんて、いいこと、ないわよ』と言う諸岡瞳の言葉がわかるような気がしました。
「でも、やっぱりわたしは女になりたい・・・・」
その気持ちに変わりはありませんでした。
午後6時前になって、ようやく彼女が帰ってきました。
「どこ行ってたの?」
「うん? ちょっと買い物してきた」
彼女の手には、ユニクロの袋がぶら下げられていました。
「何を買ったの?」
「普段着よ」
そう言いながら、諸岡瞳は、袋の中からいくつか衣類を取りだしてタンスの中に納めていました。
「そう・・・・。夕食、どうするの?」
「外には食べに行くわけにはいかない。出前はふたり分は頼めない。だとすると、作るしかないわね」
「出前をふたり分頼んじゃいけないの?」
「ドアのところから部屋の中が丸見えなのよ。双子みたいなわたしたちがいたら、ビックリしちゃうでしょう?」
「わたしかあなたが陰に隠れていたら?」
「ふたり分頼むのよ。部屋の中にふたりいないとおかしいわよ」
「そうか。それもそうよね」
「じゃあ、作りましょう」
わたしがホテルからの帰りにデパートの地下で買ってきたものを使って、夕食を作りました。
「これ、わたしの得意料理なの」
肉じゃががアッという間にできました。
「米のとぎ汁を使うと安いお肉でも柔らかくなるのよ」
「へえ・・・・」
肉じゃがの他に冷や奴、キュウリの酢の物がテーブルの上に並びました。
「今日はこれで我慢して」
「充分だわ」
女装を始める以前から、わたしもほとんど自炊なのですが、諸岡瞳の作った料理は、わたしが作るものより味が濃いようです。その味を覚えようとして思わず苦笑しました。もはや覚える必要はないのですから。
「後片づけしている間にお風呂に入って」
汚れた皿を下げながら、諸岡瞳が言います。
「わたしが洗いますから、瞳さんが先に入って」
「わたしはいいわよ。あなたの方がお客さんなんだから、遠慮しないで先に入って」
どうしようか迷いましたが、好意に甘えることにしました。
「じゃあ、お先に」
「着ているものは、洗濯機に放り込んでおいて。下着とパジャマはすぐに用意するからね」
「すみません」
言われたとおりに、着ていたものを洗濯機に放り込んで、浴室に入りました。シャワーキャップをかぶり、洗顔クリームで化粧を落とし、体を洗ってからバスに入りました。
急に疲れが出たような気がしました。その日一日、ずっと緊張していたのですから、それも当たり前かもしれません。
「下着、ここに置くわよ」
「ありがとう」
浴室から出て、バスタオルで体を拭きながら、床に置かれた脱衣籠の中を覗くと、小さく畳まれたショーツしか入っていません。パジャマも貸してくれると言ったのにと思いながら、ショーツをはいてバスタオルを胸の高さに巻いて浴室を出ました。
「わたしも入ってくるわ。後でパジャマを出すからお肌の手入れをしていて」
そう言い残して、諸岡瞳は浴室へ消えていきました。わたしは、鏡の前に座り込みます。諸岡瞳がドレッサー代わりに使っているのは、長さが2メートル弱のチェストです。真ん中にテレビ、右側にステレオコンポ、そして左側に半円形の鏡が置かれています。その鏡の前に化粧品が所狭しと並べられていました。チェストの左側にある3段の引き出しの中にも化粧品の類が納められているようです。
わたしは、乳液を手にとって顔に塗り広げ、入念にマッサージしました。女性ホルモンの注射を受けるようになってから、肌のきめが細かくなったような気がします。
ガチャリと音がしました。諸岡瞳が浴室から出てきたようです。しばらくして、やはりバスタオルを胸に巻いた諸岡瞳がわたしのそばにやってきました。
「化粧を落としても、わたしによく似ているのね」
そんな言葉を確認するまでもなく、何かの化粧品で見た双子のようにわたしたちの顔が鏡に並んで映っていました。
「瞳さん! 何するのよ」
諸岡瞳が、後ろからわたしの胸を両手で包んだのでした。彼女の胸の膨らみを背中に感じます。
「いいから、じっとしていて」
彼女は、わたしが巻いていたバスタオルを取り除くと、わたしの胸をそのまま優しく撫で続けました。
「本物なの?」
「いえ。シリコン入りです」
「そう? まるで本物ね」
彼女は、わたしの胸を揉み続け、乳首を指で摘みました。
「感じる?」
「・・・・ええ」
自分で触っても感じないのに、他人に触られると感じるのが不思議でなりません。
「瞳さん!!」
彼女の右手が胸から離れて、わたしの股間へ降りてきたのでした。わたしは、あわてて膝を閉じて、それ以上の進入を拒みました。でも、彼女はわたしの抵抗に逆らって手をこじ入れてきました。
「へえ、ほんとにあるのね。信じられない・・・・」
ショーツの上から、女にはないわたしの膨らみを撫でます。
「感じている割に、勃起していないみたいね」
「・・・・止めてください」
「黙ってさせないと、殺人未遂で警察に突き出すわよ」
それまでとは打って変わった口調で、彼女がそう言います。そんな風に言われると、彼女のなすがままにされざるを得ませんでした。開くとまではいきませんでしたが、閉じていた膝の力を抜きました。
彼女の手がとうとうショーツの中に入ってきました。
「ほら! 足を開いて!」
仕方なく、わたしは閉じていた膝を開きました。彼女は、わたしのペニスと睾丸を包み込むように撫で続けました。
「うん、もう・・・・」
突然彼女は、苛立ったようにわたしを床の上に押し倒しました。そして、アッという間にわたしのショーツを剥ぎ取りました。
「どうして? どうして勃たないの?」
わたしの恥ずかしい部分が、皎々としている蛍光灯の明かりに晒されました。わたしは、慌てて股間を隠すように俯せになろうとしました。
「あら? 何が恥ずかしいの? 小さいから? それとも、包茎だから?」
わたしのペニスは、女性ホルモンのせいで、かなり萎縮していました。でも、だから恥ずかしいと言うことではないのです。女だって、それなりの関係でなければ、他人には見せたりはしないでしょう。
「それって、男の自尊心の現れでしょう?」
彼女が畳みかけます。そう言われれば、そうなのかもしれません。男としての意識は捨てたつもりなのに、わたしの心の中には、まだその意識が残っていて、小さくて包茎であるわたしの自身の持ち物を恥ずかしく思ったのかもしれません。
彼女はわたしを再び仰向けにしました。そうしてから、わたしの小さなペニスを銜え込んだのです。指を使って包皮を剥き、舌を這わせてきました。強く吸われるのを感じます。
「ぜんぜんね。あなた、インポなの?」
そう言いながら、ペニスを激しくしごきました。しごきながら、わたしの乳首に吸い付いてきます。
突然、わたしの中に何かが生まれました。股間にそれまでと違った感覚が生じました。
「やっと勃ってきたわ」
彼女の口からそれを聞かなくてもそれを自覚できました。彼女はさらに強くしごきました。
「そろそろ大丈夫ね」
彼女は、空いていた左手で彼女自身のショーツを降ろしました。
「ひ、瞳さん! いったい何を!」
「あなたには、ペニスがある。わたしには、ヴァギナがある。することはひとつでしょう?」
予想はしていました。でも、ほんとにしようとするとは思っていませんでした。彼女は、勃起したわたしのペニスを握って、彼女の中に誘導しました。
「入ったわ」
彼女はわたしの腰の上に跨っています。わたしを見下げるようにしてにっこりと笑いました。
「自分自身に犯されているみたい。ああ、感じる・・・・」
そう言ったとたん、柔らかく締め付けてくるのを感じました。不規則な収縮が続きました。
彼女は、わたしの胸の上に両手を置いて腰を上下させます。
「ねえ、衝いて。早く・・・・」
言われるままに、わたしは腰を突き上げました。
「ああ、いいっ! もっと、もっと衝いて!」
彼女は髪を振り乱し、自身の胸の隆起を揉みます。しばらくして、彼女はわたしの上に倒れ込んできました。わたしの胸と彼女の胸が突き当たりました。
「正常位で・・・・」
わたしは体を入れ替えました。彼女は、足をわたしの腰に巻き付けます。
「早く。早く衝いてよ」
言われるままに、わたしは腰を動かし続けます。彼女はわたしの腰に回していた足をはずして、膝を立てたような姿勢になったり、足を伸ばしたりします。
「今度は後ろから・・・・」
さっと俯せになると腰を上げました。わたしは彼女の中に入れようとしましたが、うまくいきません。焦っていると、少し萎えてきました。それを察した彼女は、わたしを彼女の中に再び導きました。
「さあ、衝いて!」
わたしは彼女の腰を両手で抱いて、再び腰を動かし始めました。こうしていると、わたしのペニスが彼女のヴァギナの中に入っているのがよく見えます。出し入れするたびに、クチュクチュといやらしい音がして、ミルク色の粘液があふれ出てきました。
ふと横を見ると、口を半開きにして喘ぐ彼女の顔が鏡に映っていました。その顔は、今のわたしの顔と同じです。
わたしは、わたし自身が男に犯されている妄想を抱きました。そんな妄想が浮かんできたとたん、萎え気味だったペニスが固くなってきて、昇ってくるのを感じました。
「あ、いい。いいわ。もう・・・・、もう、行って。お願い・・・・」
彼女も達しようとしているようでした。その言葉をわたし自身が漏らしたかのように言い聞かせながら、わたしは腰を動かし続けました。
「ううっ!」
「ああっ!!」
わたしたちはほとんど同時に行きました。彼女は、浮かせていた腰を下ろして俯せになり、わたしはその上に重なるように覆い被さりました。
「ダメ! まだ抜けないで」
抜けだそうとしたのに、そう言われてわたしはそのまま彼女の上に重なっていました。
「ううん・・・・」
彼女が小さな溜息をつくたびに、柔らかく締め付けられます。彼女はまだ感じているようです。しばらくすると、萎えてしまったらしく、自然に抜け出てしまいました。
「久しぶりに良かった」
仰向けになったわたしに彼女が抱きついてきました。
「あなたは?」
「あ、うん。よかった」
そんな風に、わたしはちょっと気のない返事をしました。
「良くなかったの?」
彼女がわたしの顔をのぞき込んできました。
「そんなことないわよ。よかったわよ」
「ほんとに? なんか気のない返事だけど」
「・・・・よかったんだけど、される方がずっと良かった」
「あ、そう言う意味。なるほどねえ。どんな風に違うの?」
「どんな風にって言われても・・・・。そうね。達した瞬間は同じかな? でも、男は、アッという間に去っていくって言う感じ」
「長続きしないってことね」
「そう。女としてするセックスは、なかなか昇らないけど、頂上付近が長いから、気持ちよさが持続するの」
「それはわかるわ。へえ、男って、そんなに短いの」
「初めてやってみて、それがよくわかったわ」
「初めて? 初めてだったの?」
彼女はホントに驚いたような表情を見せました。それはそうでしょう。たとえニューハーフだとしても、28にもなって童貞だなんて、信じられないことでしょうから。
「え、ええ」
わたしは、ちょっと顔を赤らめました。
「そうか。それでぎこちなかったのね。へえ、童貞をいただいたって訳か・・・・」
彼女は、わたしの横顔を見ながら、満足そうにしていました。
床の上からベッドに移動し、裸のまま抱き合って眠りました。冬だけど、部屋の中は暖房が利いていて寒さは感じませんでした。
夜中に目が覚めました。時計を見ると、午前2時過ぎでした。そっと起き出して、トイレで用を足しました。いつものように座って小便し、ティッシュでペニスの先を拭きました。少し痛みを覚えました。彼女に強く締め付けられたせいでした。
ベッドに戻ると、ベッドの上の諸岡瞳が寝返りを打ちました。その横にそっと滑り込みます。そうしてから、わたしの体と諸岡瞳の体を比べてみました。
身長は、わたしの方がわずかに高いはずです。でも実際に身長計で計らなければ、わたしたちの背の違いには誰も気がつかないでしょう。
胸の大きさ、ウエストはほぼ同じです。ヒップは、彼女の方が少し大きいでしょう。でも、見た目はそんなに変わりません。足の長さ、靴のサイズもほぼ同じです。わたしと彼女は双子以上によく似ています。一部を除いて。
そうです。彼女にはヴァギナがあり、わたしにはペニスと睾丸がある。違いはそれだけです。・・・・大きな違いですけど。
「ああ、どうして女に生まれなかったんだろう。こんなもの取ってしまいたい」
わたしは、ペニスと睾丸を握りしめました。でも、それは勇気のいることです。今のわたしは、まだ後戻りができますが、取ってしまえば、決して後戻りできなくなるのです。
「性転換でも、すぐに女性としての戸籍が得られるのなら、すぐにでも手術を受けるのに・・・・」
でも、それは叶わぬ夢です。