三度目の給料を貰って、二、三日たった日のことだった。午前0時に仕事を終え、制服から私服に着替えて従業員通用口からファミレスを出た。
「みっちゃん、お疲れさん」
声のした方を振り返ると、私服姿の店長が立っていた。
「あら、店長さん。今日は非番だったんじゃあ」
「ちょっと用事があって」
「用事って?」
「君に会いに来たんだ」
「わたしに?」
「そう。君に」
「わたしに何の用ですか?」
「みっちゃん、君のことが好きだ」
ぼくはギョッとした。店で働いているときは、店長はそんな素振りはまったく見せなかったし、ぼく自身は男には興味がないから、店長の気を引くようなことはやっていない。それなのに、突然こんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
「店長、冗談は止めてください」
ぼくは通りに出ようとした。
「冗談なんか言ってない」
店長はぼくの前に立ちはだかった。
「みっちゃん、好きだ」
抱きしめられてキスされた。アッと言う間の出来事だった。
「だ、だめです」
「ぼくの気持ちが分からないのか?」
「出会ってまだ3ヶ月しかたたないのに・・・・」
「時間なんて関係ない。初めて君を見たときから好きだった」
「止めてください!」
「好きなんだ!」
ぼくは店長を押しのけようとした。
「これほど言ってもダメなのか?」
「ごめんなさい。店長のことは好きです。だけど、ダメです」
ぼくは男だ。いくら好きだと言われても受け入れられない。
「お願いだよ」
「お願いだから、止めてください」
そんな言葉が店長には届かなかったのか、店長はぼくを壁に押しつけた。
「好きだ」
押さえつけられ、再びキスされた。店長の右手がぼくの乳房を捕らえた。逃げようとしたけれど、体格的にも劣るし、女性ホルモンのせいで筋力が衰えていて、力では敵わなかった。
「や、止めて!」
店長は返事をしない。手がぼくの穿いていたスカートをめくりあげ、ショーツの中に入ってきて、お尻を撫でる。その手を捕まえてショーツの中から引き出そうとしたけれど、まったく引き離せない。
「人を呼びます」
「呼ぶなら、呼んでもいい。君を手に入れるためなら、この身が滅びてもいい」
「ああ、もう止めて・・・・」
店長の手が、ショーツの前へ移動してきた。ばれてしまう・・・・。店長の手がショーツの中からスッと抜け出た。
「みっちゃん。君は・・・・」
「だからダメだって言ったでしょう?」
ぼくは、走って通りへ出た。ばれてしまった。もうあの店では働けない。通りへ出て振り返ると、茫然として立っている店長の姿が目に入った。ぼくは深々と頭を下げた。今日まで働かせて貰ったお礼のつもりだ。
こんなことになろうとは思わなかった。男から見て、ぼくはそんなに魅力的な女に見えるのだろうか? 鏡の中のぼくは確かにそんなにブスではないけれど・・・・。
翌日から、新たな仕事探しが始まった。足を棒のようにして探し回ったけれど、今度はそう簡単には見つからなかった。
とぼとぼとマンションに歩いて帰っていると、電柱に貼られた広告が目に入った。
『ニューハーフ・ヘルス、コンパニオン募集。高給保証』
高給保証という言葉に惹かれ、よっぽど応募しようと思った。だけど、そんなことをすれば、お父さんの言った通りになる。堅気の仕事を探さなければ。
一ヶ月間だけのアルバイトだけど、喫茶店の従業員の仕事を見つけた。何かしないと、マンションを追い出されるからだ。
その喫茶店は、ご主人と奥さんがやっている小さな店で、奥さんが、子宮筋腫の手術で入院している間だけアルバイトを募集していたのだった。
午前10時から午後10時まで働いて、5000円だったけど、昼食と夕食が付いていたし、他に仕事が見つからない以上、贅沢は言っておられない。退院した奥さんが体調が優れないとのことで、結局7週間働かせて貰った。
その喫茶店のご主人の紹介で、近くにあるコンビニに職を得た。精一杯働いて、マンション代と食費ですべてが消えた。それでもぼくは一人でこうして立派に生きていることに満足していた。
コンビニで働き初めて2ヶ月ほどしたとき、いつものように出勤すると店が閉まっていた。
「あれ? 今日、休むって言ってなかったのに・・・・」
そう思いながら、ドアをがたがたやっていると、後ろから声を掛けられた。
「おい、姉ちゃん。あんた、ここの従業員かい?」
「は、はい。そうですけど・・・・」
一見して人相の悪い男だった。
「ここの親父がどこにいるか知らないか?」
「さあ、わたし、雇われているだけですから」
「隠すとためにならんぞ」
「隠すって、わたし、ここのご主人に会ったこともないです」
「そうか。じゃあ、仕方ないな。おい、行くぞ」
男は、もう一人のやはりやくざ風の男と一緒に立ち去っていった。ぼくは、紹介して貰った喫茶店へ顔を出した。
「夜逃げしたらしいよ」
「夜逃げですか?」
「ああ、やくざ相手の賭け麻雀に負けたらしい。ちょっとやそっとでは返せない額らしいんだ」
「そうなんですか・・・・」
「馬鹿なことをしたもんだ」
「あああ。また仕事がなくなっちゃった」
「あんた、働きもんだから、うちで雇ってやりたいけど、うちも厳しいからねえ」
「いえ、いいんです。それじゃあ、失礼します」
『ニューハーフ・ヘルス、コンパニオン募集。高給保証』の広告を思い出していた。セックス産業だと言うことは分かっていた。水商売の方にすれば、体を売るなんてことはなかっただろうに、あとで思えば、どうしてそんなことをする気になったのか分からない。ともかくぼくは、広告に書かれていた電話番号をプッシュしていた。翌日、面接を受けることになった。
電話で目印を教えられ、たどり着いた建物は綺麗なビルだった。
「ごめんください」
受付に顔を出すと、蝶ネクタイをした背の高い30半ばくらいの男がぼくを見た。
「ここは男性専用だよ。君のような女の子の来るところじゃないよ」
「あ、いえ。昨日電話したものですが・・・・」
「昨日電話した?」
「コンパニオンの面接の件で」
「えっ!? 君がそうなのか?」
「は、はい」
「いやあ、本物の女だと思ったよ。さあ、入って。裏の事務所に行こう」
カウンターの横を通って裏の事務所に案内された。
「さあ、座って。名前は何という?」
「本林美智子です」
いつもの偽名を使った。
「本名じゃないよね」
「ええ。本名が必要ですか?」
「イヤ、いい。声も女の子らしい声だが・・・・、喉仏も出ていないようだが、ホントに男なのか?」
「はい」
「そうか。ま、あとで見せて貰うことにして、男性経験は何人くらいだ?」
「男性経験って、あのう・・・・、男性とはセックスしたことはないです」
「なに? したことがないのか?」
「はい」
「女とは?」
「昔、一人だけ」
「ほう・・・・、。男とやったことがなくて、やれるのか?」
「何をやったらいいんですか?」
「要するに、女として、男に奉仕するんだ」
「男に奉仕・・・・」
「キス。フェラチオ。アナルファックなどなどだ」
キスはともかくとして、フェラチオ、アナルファックという言葉を聞いて、ペニスをしごいて射精させてやるだけの仕事だと思っていたぼくは、かなり動揺した。
「君は結構可愛いし、すぐに人気が出るだろう。上手く行けば、月に100万は軽く稼げるよ」
100万という言葉に心が動かされた。
「やります」
「そうか。フェラチオをやったことはないんだろう?」
「は、はい」
「やって貰ったことは?」
「あります」
「素人がやるのと、こういう店でやるのとはちょっと違うが、そうだな。俺がコーチしてやろう」
「あなたがですか?」
「いやか?」
「いえ、仕事のためというのなら」
「なかなかいい根性だ。・・・・そうだな。一通りやってみるか。ちょっと待ってろ」
男は、店の方へ出ていった。
「おい。どこか部屋は空いてるか?」
「3号室が空いてます」
「ちょっと借りるぞ」
男が戻ってきた。
「3号室へ移ろう。あ、俺の名前は、北崎だ」
「北崎さんですね。店長さんですか?」
「雇われだがね」
ちょっと肩をすくめて、北崎は受付を通り抜けて3号室へ向かった。ぼくもその後を付いていく。
「源氏名は、美智子でいいかな?」
「はい、結構です」
「お客が来たら、まずはご挨拶だ。いらっしゃいませ、美智子ですと自己紹介する。相手も名前を言うかもしれんが、常連はともかく、大抵はその場限りの偽名だ。ただ顔と名前を覚えていれば、二度目に来たときに話しがしやすいな」
「分かりました」
「お客にはシャワーを浴びて貰う」
「どうして?」
「うちは生フェラが原則だからだ。おまえが洗ってなくてもいいって言うのなら別だがな」
「わ、分かりました」
「上着を取ってやって服を脱がせ、シャワーに行っている間に、服を畳んでおく。さあ、やってみろ」
北崎は服を脱ぎ始めた。ぼくはそれを受け取って、綺麗に畳んだ。
「それでいい。じゃあ、シャワーを浴びてくる」
北崎は、ぼくにコーチすると言ったけど、ホントにフェラチオをさせるつもりのようだ。やっぱり止めようかなと思ったけれど、100万という言葉が、ぼくを逃げ出すことから押しとどめていた。
5分ほどして出てきたけれど、洗ったところは陰部だけのようだ。まあ、それだけで充分な気もする。
「さあ、今からは、俺たちは恋人同士だ。いいな」
「はい」
「キスは、最初は軽く、乗ってきたら、ディープキスだ」
ぼくは頷いて、唇を合わせた。相手を男だと思わなければいい。そう思っていた。
「舌を吸え。そうだ。上手いぞ」
差し入れられた舌を吸った。ディープキスというのは好きだ。舌の感触が何とも言えない。
「今度はおまえが舌を入れろ。舌を絡めるだけじゃなくて、上顎や歯茎も舐め回すんだ。そうだ。いいぞ」
キスしながら、北崎はぼくの服を脱がせていった。ブラウスを剥ぎ取られ、スカートを脱がされた。
ブラジャーをずらすと、乳首に吸い付いてきた。
「可愛い乳首だ。もう少し乳がでかいといいが、まあ、いいだろう」
乳房が大きくなって、こんな風に愛撫されたことがなかった。少し感じていた。
「ホントにペニスが有るんだな」
そう言いながら、パンストの上から、ぼくのペニスを優しく撫でる。勃起はしていないけれど、少し固さが増してきたような気がした。
「お客がおまえのペニスを銜えるかもしれないが、勝手にさせておけよ」
「わたしのペニスを銜えるんですか?」
「そうだ。まあ、女のクリトリスを舐めているのを同じようなものさ」
そう言うと、北崎はぼくのはいていたパンストとショーツを下ろしてベッドの上に寝かせると、ペニスを銜えて舐め始めた。
ひとしきり舐め回したあと、北崎は立て膝になった。
「さあ、今度はおまえの番だ。しっかり銜えるんだぞ」
自分以外のペニスを初めて見た。それは雄々しく天を向いていた。
「歯を立てるなよ。唇をすぼめるようにして銜えるんだ。そうだ。上手いじゃないか。頭を動かして。そうそう。次は舌を使って、ペニス全体をまんべんなく舐め回す。いいぞ、いいぞ」
コーチしていると言うより、楽しんでいるという感じだ。
「袋も舐めるといい。玉を口の中に含んで転がす。ううっ! たまらん。・・・・痛がるお客もいるから、反応を見ながらやるんだぞ」
「はい」
「何度でも、お客がいいと言うまで繰り返す。フェラで終わりのお客には、銜えたまま、しっかり頭を動かして、手でしごいてやりながら出して貰う。やってみろ」
言われた通りにやってみた。北崎のペニスが急激に膨らんできた。どうしようと思うまもなく、ぼくの口の中に熱い粘液が注ぎ込まれてきた。
「みんな同じ臭いがするんだ」
そう思いながら、ぼくは注ぎ込まれた粘液をごくりと飲み込んで、ペニスに残った粘液も舐め尽くした。
「飲み込まなくて、ティッシュに吐き出してもいいんだぞ」
北崎がぼくの顔をじっと見ていった。
「わたしの彼女は、いつも飲み込んでいましたから」
「そりゃ恋人同士ならな」
「お客さんと恋人同士を演じるんでしょう?」
「ま、そうだが、無理はしなくてもいい。・・・・飲み込んで貰うと気分はいいがな」
北崎はにやりと笑った。
「アナルファックをやったことがないのなら、無理だろうな」
「はい。ちょっと・・・・」
「アナルファックもそのうちやってもらわんといかんが、まずはフェラまででデビューと言うことにしような」
「はい」
「でだな・・・・」
「まだ何か?」
「アナルファックになれるために、今日から訓練しておこう」
「何をするんですか?」
「急に大きなペニスが入ると、痛むし、切れて出血する。だから、小さなものから入れる練習をするんだ」
ぼくは大きく息を吸った。
「分かりました。何でもやります」
「じゃあ、まず、浣腸してこい」
「浣腸ですか!?」
「直腸を綺麗にしておかなきゃな」
「あ、なるほど」
「これの使い方は知ってるな」
イチジク浣腸を取りだしてぼくに見せた。
「はい」
やったことはないけど、やり方は何となく分かる。
「できるだけ我慢してから排便するんだ。あとはウオシュレットで綺麗に洗ってこい」
「はい」
トイレに行って言われた通りに浣腸して洗った。
「綺麗になったか?」
「なったと思います」
「アナルファックをやるときは、必ず浣腸しておくんだぞ」
「はい」
「さてと、パンティーを脱いで、そこに仰向けになれ」
パンティーを脱ぐと、ぼくは真っ裸だ。ちょっと恥ずかしいけど、ベッドの上に仰向けになった。
「膝を立てて開いて、足を開いて。・・・・恥ずかしがってどうするんだ!」
「すみません」
顔が赤くなるのを感じた。
「足を持ち上げて、睾丸とペニスを手で腹の方へやれ」
手で隠すと恥ずかしさが幾分和らいだ。
「力を抜いてじっとしていろよ」
北崎の指がぼくの肛門に触れた。何かべとりとしたものが指先に付いているようだ。指が肛門を優しく愛撫し始めた。気持ち悪いだろうと思っていたのに、何とも言えないいい気持ちがした。
指先が入ってきた。痛みは感じなかった。ゆっくり出し入れしながら、次第に奥深くまで入ってきた。
「痛くないか?」
「大丈夫です」
「ここはどうだ?」
「ああっ!」
頭のてっぺんにガンと刺激が届いてきた。
「気持ちがいいだろう?」
「は、はい」
「ここは前立腺だ。ここをマッサージしてやると、大抵の男は感じる。フェラの時にやってやってもいいんだ」
ぼくは快感のあまり、返事ができなかった。
「あ・・・・。あうん・・・・」
「おまえはいい声をしている。きっと人気者になるだろう」
北崎の出し入れする指にぼくは完全に自己を失っていた。北崎の指が引き抜かれたとき、まだ入れていてよと言いたい気分だった。
「もう少し太いものでも大丈夫のようだな。これはどうかな」
冷たいものがあてがわれ、ゆっくりと入ってきた。
「痛い! 痛いです」
「そうだろうな。・・・・こいつを貸しておくから、帰って練習しろ。痛くなくなったら、一段階太いものを貸してやる」
手渡されたのは、先が丸くなった白い棒だった。
「これは?」
「シリコンでできた拡張棒だ。これはジェリーだ。たっぷり付けてからゆっくり入れるんだぞ」
「分かりました」
「じゃあ、明日は午後4時半に出勤してくれ。他のコンパニオンに紹介する」
「よろしくお願いします」
ジェリーとシリコン棒をバッグに入れ、服を着て店を出た。
「ホントに、こんなことしてもいいんだろうか?」
そう思ったのはちょっとの間だった。月100万。北崎の言葉がぼくの頭の中を占領していた。