第4章 最適な人物とは

 魂が抜け出てしまって、あと数ヶ月の命と診断されている俺の最愛の女性・裕子。他人の魂を移して蘇らせる術を教えて貰った俺は、裕子の魂と共鳴する女性たちの中で、裕子に相応しい女性を捜したのだが適当な女性は見つからなかった。いや、何人かはいたのだが、俺がその女性になるのには問題が多い女性ばかりだった。
 (裕子の魂と共鳴する女性をもう何人か見つけて貰おう)
 それでダメなら、村田彰子に決めるつもりだった。

 俺は、あの老婆に電話した。
 《うまくいったのかね?》
 「いまくいったんですけど、裕子に相応しい女性がいなくて。もう一度、他の女性を捜して貰えませんか?」
 《日本人はあれだけですよ》
 「あとは外人だけですか?」
 《そうです》
 「外国人でもいいですから、日本語を理解できる女性はいないでしょうか?」
 《無理なことをおっしゃいますね》
 「だめってことですね?」
 《男性は? 男性は調べてみたのですか?》
 「男はダメですよ。裕子に男の魂を入れるなんて」
 《ダメかどうかやってみましたか?》
 「初めからやっていませんよ」
 《男性でも、女性の身体に適合するヒトもいると思いますよ。それに、男性だったら、あなた自身が裕子さんと結ばれる可能性があるでしょう?》
 そのことは、裕子に女性の魂を移した場合に俺が女にならなければならないと気がついたときにわかっていたことだ。
 「それはそうでしょうけど・・・・」
 《男の人格を持った裕子さんとは、つきあえないと?》
 「あ、まあ・・・・」
 その通りだ。おかまとつきあうような気がする。
 《だけど、女性の身体になれば、人格もそれなりに変化すると思いますけど》
 「そうでしょうか?」
 《試してみなさい。試してみる価値はあるでしょう》
 「そうですね。やるだけやってみましょう。ダメなら、諦めます」
 そうは言ったものの諦められるはずはなかった。一応5人の男たちを試してみた上で、俺は村田彰子に決めるつもりでいた。

 明治生まれの川上匠、71才の川北駿治はともかくダメだと思ってまず外した。10才の森本大介は恐らく裕子になったとしたらパニックになってしまうだろうことが想像されたので外した。
 (残るは2人だな。大屋猛21才。佐竹雄一16才。年令からすると、佐竹雄一だけど・・・・。ま、名簿順にやってみよう。あれ? ちょっと待てよ)
 俺が大屋猛になるとする。大屋猛は裕子になる。裕子は寝たきり。人工呼吸器をかけられている。大屋猛史が女の身体になってやっていけるかどうか何て判定できないのだ。
 (確かめられないじゃないか)
 俺はもう一度老婆に電話した。
 《ああ、それだったら大丈夫よ。この前教えてあげた人たちなら、間に何人でも入れるのよ》
 「はあ? どういう意味ですか?」
 《目的の男性にあなたが入るでしょう?》
 「はい」
 《その男性の魂が、別の女性に入るようにするのね》
 「はあ」
 《その女性の魂が裕子さんに入るようにすればいいわけ》
 「具体的にはどうすれば?」
 《目的の男性、目的の女性、そして裕子さんの名前を念じながら呪文を唱えればいいのよ。順番を間違えないようにね》
 「わかりました。何度もありがとうございました」

 方法はわかった。ふたりだけだからすぐに片が付くと、俺は夕食をすませると早速準備に掛かった。
 (相手の女性は名簿順にしよう。大屋猛、麻生夏希、裕子。これでいいな。さてと・・・・)
 呪文を念じようとして、はたと俺は気がついた。
 (女の身体になった男が、うまく女に適応できるかどうかどうやって調べればいいんだ? 栃木まで行って確かめるわけにはいかないぞ)
 俺は考え込んだ。
 (豊岡ならそれほど遠くはないけれど・・・・。しかし、どうやって調べるんだ? 覗きか? 高いマンションだったら調べようがないなあ)
 俺は困り果てた。1時間ほど考えて、いいアイデアを思いついた。
 (よし! これだ。これだ)
 俺は麻生夏希と裕子だけを心に念じて呪文を唱えた。フッと身体が浮いた。俺は麻生夏希になっていた。
 力が戻ってくるのを待って起きあがった。股間から電動のディルドーが抜け出てきた。
 (男を作れよ。男を)
 そんなことを考えながら、俺はタンスの中を探った。
 (確か、ここにあったと思うけど・・・・。あった!)
 俺はビデオカメラを手にしていた。俺のアイデアはこうだ。見えない位置にビデオカメラをセットする。そうしてから、今度は大屋猛を麻生夏希にする。何時間かあとに、もう一度俺が麻生夏希になってビデオを再生してみるのだ。大屋猛がどんな行動をするかわかるはずだ。
 ビデオカメラをセットして俺はすぐに元に戻り、大屋猛の中に入り込んで大屋猛の魂を麻生夏希の中に押しやった。
 (大屋猛は、ダメだ)
 ビデオを見る前に俺はそんな結論を出した。大屋猛になったとき、俺は女にペニスをしゃぶられていた。ペニスをしゃぶりながら俺の顔を見た女は、お世辞にも美人とは言えなかった。
 「どうして萎えちゃったのよ!」
 (おまえの顔を見ていたら萎えたんだ)
 何てことは言えるわけがない。
 「強いだけが取り柄なんだから、頑張ってよ!!」
 そんなことを言われても勃たないものは勃たない。
 「もう! 今日は小遣いはあげないからね」
 女は怒ってひとりでやり始めた。大屋猛は、女のヒモらしい。それがわかって、俺はすぐに逃げ出したのだった。
 念のため、麻生夏希になって隠していたビデオを取り出してビデオを再生してみた。大屋猛は女になったことが相当にショックだったらしく、ビデオの初めから最後までずっと泣き続けていた。ヒモは女を喜ばすのが仕事。泣くのも無理はないと思った。
 (寝たきりの裕子になってしまったら、闘病どころか、すぐに自殺しかねない。やっぱり大屋猛はだめだ。さあ、最後のひとりだ。佐竹雄一は高校1年生だな。ヒモと言うことはないだろう。果たして女に適応できるかな? 期待はしていないが・・・・)
 俺は、ビデオをセットし直して、いったん俺に戻った。
 (もうすぐ夜が明けるなあ。今晩にした方がいいかな? イヤ、裕子の状態を見ると、早くした方がいい)
 俺はすぐさま佐竹雄一の中に入り込み、佐竹雄一の魂を麻生夏希の中に弾き出してやった。

 佐竹雄一の家庭は、まずまずの経済状態のようだ。一戸建ての二階の南側に雄一の部屋があった。
 手足が動き出してから、俺はまず雄一の顔を拝んでみた。
 (いい男じゃないか)
 鏡の中の雄一が、満足そうな目で俺を見ていた。
 (さて、次だ)
 6畳の広さの雄一の部屋の中を調べて回った。机の中と鞄の中を探ってみた。プリントが何枚か出てきた。課題らしいプリントの出来具合は80パーセントくらい。期末考査の成績は、平均がやはり80点弱だった。恐らく中の上と言った成績だろう。
 学生服や私服をチェックしてみた。極端に乱れた服はないようだ。つまり、品行はいい方だろうと想像できる。
 (あまり真面目すぎるのもなあ)
 そう思ったけれど、ベッドの下に隠してあったエロ本を見つけ出して、俺はほくそ笑んだ。
 (ごく普通の高校生って訳だ。女にもてそうだし、俺が成り代わるには最適と言っていい。問題は、雄一が女として適応できるかどうかだ)

 階下で物音がし始めた。恐らく雄一の母親が朝食の準備を始めたのだろう。時計は1時間時を進めていた。
 (そろそろ、いいだろうな)
 俺は俺に戻り、さらに麻生夏希になった。麻生夏希の部屋にセットしておいたビデオを取り出して巻き戻して再生してみた。
 全裸の麻生夏希(魂は佐竹雄一)がベッドの上に横たわっていた。
 (また裸だよ。夏希って女はつくづく好きなやつだな)
 部屋の中に電子音が鳴り響き、夏希(雄一)が飛び上がるようにして目を覚ました。
 (うまい具合に目覚まし時計が鳴ったよ)
 ぶるぶると震えてから、夏希(雄一)は、ハッとしたように全身を手で触って調べ始めた。
 (さあ、どう行動するかな?)
 夏希(雄一)はキョロキョロと部屋の中を見回してから、立ち上がってドレッサーの鏡を覗き込んでいる。
 顔を手でなぞり、スクッと背を伸ばし腰に手を当てて身体を左右に振って、満足そうな笑顔を見せた。雄一は、夏希のスタイルの良さに感激しているようだ。
 それから夏希(雄一)は、ベッドの下に散乱したパジャマや下着を手にとってジッと眺めていた。それらをベッドの足元に放り投げてから、突然股間に手をやった。
 (なにやるつもりだ?)
 夏希(雄一)は股間をなぞった指をジッと見つめ、クンクンと鼻で嗅いでみている。
 (ははあ。オナニーしたときに出た愛液を嗅いでいるんだ)
 夏希(雄一)は思い直したように、部屋の中をキョロキョロと調べ始め、枕元に置かれていたバッグを見つけた。
 バッグの中から定期券を取りだしてジッと見つめている。どうやら名前を確認しているようだ。
 それから、夏希(雄一)は、何もせずにベッドの中に潜り込んでしまった。目をつぶって身動きしない。眠ってしまったようだ。
 俺は雄一の行動が理解できなかった。しかし、ビデオが最後にさしかかろうとしたとき、雄一は女になった夢を見ていると思ったのではと言う考えに思い至った。
 (だからベッドの中に入ったんだ。そうに違いない)

 雄一は、大屋猛のように塞ぎ込むことはなかった。女の身体に驚いていたが、どうもうまくなれてくれそうだ。俺はもう一度やって確かめてみることにした。
 (何度も麻生夏希の身体を使うわけにはいかないな)
 そう考えた俺は、今度は名簿の二番目にある藤本絵里を使うことにした。
 (ビデオがあったかな?)
 藤本絵里の部屋の中にはビデオはなかったような気がした。しかし、ビデオなど今時の家庭には必ずあるものだ。父親か母親に頼めば貸してくれるだろうと俺は判断した。

 午後9時過ぎ、俺は藤本絵里になった。俺は机に向かっていた。勉強しているのかと思ったら、どうやらファッションのデザインを考えているらしく、ノートに女の絵が描かれていた。
 (絵里のヤツ、デザイナーにでもなるつもりらしいな)
 俺は机から離れて、ドアを開いて階下へと降りていった。階下では、絵里の父親らしい白髪交じりの中年男性がビールを飲みながら、野球放送を見ていた。
 「お父さん?」
 俺が声をかけると、男は振り向いた。
 「何だ? 絵里?」
 「ビデオカメラを借りたいんだけど」
 「ビデオカメラを? 何に使うんだ?」
 (もしかすると絵里の痴態が写るかもしれないなあ)
 そんなことを想像しながら、俺は答えた。
 「文化祭の準備に使うの」
 「文化祭は一ヶ月以上先じゃなかったのか? 今頃から準備するのか?」
 「ちょっとね」
 「いいよ。貸してやる。壊すなよ」
 「わかってるわ」
 絵里の父親は、娘に頼まれて嬉しいのか、いそいそと奥の部屋に行って、ビデオカメラを持って戻ってきた。
 「壊すなよ」
 「わかってるって」
 絵里の父親がちょっと首を傾げたようだった。恐らく俺の対応の仕方がいつもと違っていたからだろう。しかし、この際そんなことはどうでもいいことだ。俺は絵里の父親に精一杯の笑顔でありがとうと言ってビデオを部屋に持ってあがった。
 ビデオをセットしていると、絵里の父親が突然ドアを開けた。
 「使い方、わかるか?」
 「わかるわよ。女の子の部屋を勝手に覗かないで!」
 そう言うと、絵里の父親はすごすごと階段を下っていった。
 (これでもう顔を出すことはないな)
 俺はほくそ笑んで、見えないところにビデオををセットすると俺に戻った。

 直ちに雄一を絵里にすべく、俺は雄一となった。雄一は机に向かって課題のプリントをやっていたようだ。どうしようかちょっと迷ったけれど、課題をやってやることにした。高校1年生の問題など、簡単なものだった。
 (驚くだろうな)
 課題が終わった頃、1時間がたっていた。俺は俺に戻り、すぐさま絵里の身体に飛び込んだ。
 俺は床の上に倒れていた。首と腰が痛い。
 (?)
 股間に妙な違和感を覚えた。
 (雄一のやつ、オナニーしたな)
 ビデオを見なくてもはっきりとそれがわかった。しかし、俺はビデオを確かめることにした。
 俺が絵里から抜け出た場面から絵里の姿が映っていた。
 (これは、まだ絵里自身だよな)
 絵里は、スクッと立ち上がってドアに鍵をかけ、カーテンに隙間がないか確かめている。
 (おやおや、オナニーでもするつもりのようだ。そうか。雄一は、オナニーの真っ最中の絵里の中に飛び込んだのか)
 俺はにやにやしながら画面を見ていた。俺の想像通り、絵里はパジャマを脱ぎ始め、下着も取り除いて全裸になってドレッサーの前に座った。
 乳房を揉みながら、クリトリスあたりを指でなぞっている。やらせでないそんなビデオを見たことがなかったので、俺は興奮したが、今の俺は絵里だから勃起するものがない。ただ、濡れている股間がさらに濡れてくるのを感じていた。
 (女もこんなビデオを見ると興奮するんだな)
 ちょっと意外だった。絵里の手がばたりと落ち頭ががくっと前にたれた。しばらくして絵里は頭を上げてキョロキョロとしている。どうやら、雄一と入れ替わったようだ。
 絵里(雄一)は、真正面にあった鏡を覗き込んで、顔を左右に振ってみている。ついで、スツールから立ち上がって、机に上に置いてあった生徒手帳を開いている。
 それから生徒手帳を机の上に戻すと、絵里(雄一)は鏡の前に戻ってもう一度身体をなめ回すように見ていた。
 そして、にやりと笑ってから、乳房に手をかけ揉み始めた。
 (女を楽しむつもりのようだ。・・・・裕子になったとき、こんなことはしてほしくないけど。ま、人工呼吸器を取り付けられているから、やろうにもやれないだろうけど)
 絵里(雄一)は小さく口を開いて喘ぎ声をあげ、椅子にぺたりと座り込んでしまった。そうしてから、踵をスツールにあげるようにして足をM型に開き、股間を覗き込んで、指を這わせ始めた。しばらくして、絵里(雄一)の指が深い穴に沈んだようだ。絵里(雄一)は顎をあげて喘ぎ始めた。右手が忙しなく動き、左手が乳房から離れて股間へと向かった。左手はどうやらクリトリスを攻撃しているようだ。
 階下にいる両親に聞こえるのではないかと言うほどの絶叫をあげて、絵里(雄一)はスツールの上から床の上に崩れ落ちていった。
 (だから首と腰が痛むんだな)
 ビデオを消去してから、俺は俺に戻った。

 裕子がオナニーをやっている場面など想像できない。けれど、絵里(雄一)がオナニーにふけっている場面を見てからと言うもの、裕子がオナニーをしている夢を見るようになった。
 (違う! 違う!! 裕子はオナニーなんてしない!)
 しかし、考えても見れば、裕子のような女性は例外なのかもしれない。まったくオナニーをしたことのない女性などそう多いとは思えないのだ。
 雄一でなくても、裕子の中に入った人間がオナニーをまったくしないなどとは考えられないのだ。浪費癖がなければ、麻生夏希でもいい。頭が空っぽでよければ、藤本絵里でもいい。不倫なんて俺がしなければいいのだから、松永紀世美でもいい。
 しかし、雄一の身体を借りるようになってからは、俺自身は男でなければならないと思い始めていた。ほかに候補はいないのだ。雄一しかないのだ。
 俺は、麻生夏希になった雄一、藤本絵里になった雄一を思い出した。雄一は、驚いてはいたものの、女の身体になったことにそれほど違和感を覚えていないように見受けられた。
 (雄一なら裕子としてやっていけそうだ)
 そうは思ったけれど、もう一度確かめてみることにした。

 松永紀世美はビデオカメラを持っていた。俺は、いつものようにビデオカメラをセットするために松永紀世美となった。
 松永紀世美となった瞬間、俺は股間で蠕く生き物の虜になってしまった。それは生きてはいない。電池で動くディルドーだ。
 (堪らない・・・・・)
 けれど、その誘惑に打ち勝ってディルドーを引抜き、ビデオカメラをセットした。ディルドーを元の位置に差し込んでから俺に戻り、雄一を松永紀世美の身体の中に飛ばした。
 30分後、俺は尿意を催してトイレに立った。
 (雄一のペニスは俺のより大きいな)
 小便しながら、ふと俺の部屋に鍵をかけたかなと思った。今の俺の身体は魂が抜けた状態で、裕子と同じだ。家族に見つかったらとんでもないことになる。俺は、すぐさま俺に戻った。
 鍵はかかっていた。
 (ちょっと短すぎたかな?)
 そうは思ったけれど、もう一度雄一を松永紀世美にするのは問題があると判断して、松永紀世美の部屋にセットしてあるビデオを確認するために、俺は松永紀世美となった。
 俺が抜け出たあとの松永紀世美は、ちょっと首を傾げながら抜け出てしまったディルドーを手にとって再び腟の中に挿入して喘ぎ始めた。
 すぐに手が止まり、キョロキョロし始めた。雄一と入れ替わったのだ。紀世美(雄一)はディルドーを取り出して立ち上がって、あちこちと探し回り、免許証らしきものを見つけて、ジッと見つめていた。
 それからドレッサーの前に立って、身体を鏡に映して調べていた。紀世美(雄一)は、ベッドの端に腰掛けて考え込んでいる。夢を見ているのではなく、ホントに女になっていることを自覚しているようだ。
 しばらくして紀世美の携帯を取りだして、どこかへ電話していた。どこへかけたか? 雄一の考えそうな場所は、雄一自身の携帯だ。
 (そう言えば、トイレに入ったとき、携帯らしきメロディーが流れていたっけ)
 さて次はどうするんだろうと思っていると、紀世美(雄一)は、ディルドーを手にとって慰め始めた。
 (やっぱり最後はそれか)
 俺はちょっとあきれてビデオのスイッチを切った。