第3章 最適な女性を求めて

 俺の最愛の女性・裕子は死に瀕していた。何故か魂が先に抜けてしまったらしい。俺はある老婆から、裕子に他人の魂を移し蘇らせる術を教えてもらった。
 裕子に他人の魂を移すためには、俺自身の魂を使ってその他人の魂を追い出す必要があり、追い出したあと、俺はその他人にならなければならないのだが、そんなことは問題ではなかった。ともかく裕子さえ蘇ればいいのだ。問題は、裕子になる相手が裕子に、美しく純粋な裕子に相応しいかどうかだ。それを確かめなければならない。

 俺は、紙切れに書かれた名簿をジッと眺めた。
 (藤本絵里が同年齢で一番いいように思えるけれど・・・・)
 俺は老婆の言葉を思い出した。
 (俺が相手の魂を追い出してそいつになったとしても、その気になれば、元に戻るって言ってな。つまり、一時的にそいつになって素性を調べられるって訳だ。調べた上で、裕子に相応しくなければ、別の女を調べればいいんだ。よし、試してみよう)
 俺は、裕子の写真を机の上に置き、藤本絵里と大きく書いた紙をそのそばに置いて、ふたつが重なるように念じながら、呪文を唱えた。
 5分、10分、時計の針が進んでいった。しかし、何事も起こらなかった。
 「どうしてだ!」
 30分たった。やはり何も起こらなかった。
 「くそう! 嘘っぱちだったのか!! 2万も使ったのに」
 魂をぽんぽん動かすなんて信じた俺が馬鹿だったと後悔した。

 裕子の顔を見に行った。裕子の顔は一段とやせ衰え、もう裕子じゃないように見えた。何もしてやれない自分を呪った。こんな仕打ちをした神様を呪った。神様を天から引きづりおろして、この手でぶん殴ってやりたいと思った。

 どうしても諦めきれなかった。俺はあの老婆に電話した。文句を言ってやろうと思ったのだ。そうしなければ、怒りの持って行きようがなかったのだ。
 「あんな嘘っぱちを言って。馬鹿な俺の笑っているんだろう?」
 そんな俺の言葉に、老婆は落ち着いていた。
 《集中しなさい。雑念があったらだめです》
 確信に満ちたその言葉に、俺は怒りを静めて聞いた。
 「ホントにできるんですか?」
 《その疑いが妨げになっているのです。必ずやれると信じなさい。まず信じることから始めなさい》
 老婆の言葉には説明できない説得力があった。今度は、できそうな気がした。できなくてももう一度やってみようと思った。もはや残された道はまったくなかったからだ。

 夕食をすませて部屋に戻り、裕子の写真を机の上に置き、藤本絵里の名前をもう一度書いた。呪文を心の中で念じた。
 呪文を念じながら、藤本絵里になっている自分を想像した。そうして、人工呼吸器を取り付けられて身動きできずにいる藤本絵里を想像した。
 (突然あんな状態になったら、何を思うだろう? 困惑するだろうな?)
 そんなことを想像していると、フッと身体が浮いたような気がした。すぐに体重が戻ってきた。
 (あれ?)
 目の前の景色が変わった。俺は椅子に座って机の上を見ていたはずだ。ところが今は、俺はベッドの上に仰向けになった状態で天井を見ていた。天井に取り付けられた蛍光灯は、俺に部屋のものとはまったく違ったものだった。
 (うまく行ったのか?)
 身体を動かそうとしたけれど、俺の魂が身体にまだ馴染んでいないらしく、手足は痺れたように動かなかった。俺が俺でないのは確かなようだから、しばらく待つことにした。
 目だけを動かして壁に掛けられている時計を見た。午後8時過ぎだった。5分ほどしてゆっくりと手足の感覚が戻ってきた。左手は胸の上にあった。柔らかな膨らみを感じる。手の甲に何かヒモのような圧迫感があった。今はそれがなんなのかわからない。右手は? 右手はショーツの中にあって中指が女の敏感なところに触れていた。
 (ええっ!)
 俺は驚いて起きあがった。肩に掛かるくらいに伸びた茶色に染まった髪の毛が揺れている。左手の甲に掛かっていたのはブラジャーだった。右手の中指には白く光る粘液が付いている。俺は慌ててシーツでその粘液をこすり取った。
 (オナニーの真っ最中みたいだな。参った。まだ宵の口だというのにオナニーなんてやって。こんなことをする女は、裕子としては相応しくないんだけどな。でも、たまたまかもしれないから、もう少し調べてみよう)
 俺は腰を浮かして、少しズリ下げられているショーツを引き上げ、ブラジャーもちゃんとした位置に戻してからベッドから抜け出た。
 部屋の中を見回す。足元にハンガーのようなものがあり、セーラー服が掛かっていた。オーソドックスな二本の白い線の入ったセーラー服だ。俺はポケットの中を探って生徒手帳を取り出した。
 (藤本絵里。間違いない)
 ふと姿見を見た。狐目の結構可愛い娘だ。ちょっと厚めの唇が何とも怪しい雰囲気を醸し出している。鏡に向かってキスするように唇をとがらしてみた。裕子と同じ17才には見えない大人の色気があった。
 身体を左右に振ってスタイルを確かめてみた。まだ幼いけれど、スタイルも悪くない。出るべきところは出ているし、絞まっているべきところも絞まっている。特に足が綺麗なのは気に入った。
 (この子にならなってもいいな)
 そう思いながらハッと気がついた。
 (女になったら、裕子と恋愛できない。こんな簡単なことに気がつかなかったなんて)
 自分の馬鹿さ加減に呆れてしまった。
 (しかし・・・・。裕子を生き返らせるためには仕方がないのかも。まずは裕子を生き返らせることが先決だ)
 俺は、机のそばに置かれた薄っぺらな鞄を開いてみた。一冊のノートと鉛筆ケースが入っていた。ノートには落書きだけが雑然と書かれていた。
 (なんだよ。これは・・・・)
 鞄の中にテストの用紙が入っていた。広げてみて俺はガックリときた。
 (一桁かよ)
 英語7点。国語9点。数学0点だった。机の中を調べてみた。同じような点数の答案用紙が入っていた。
 (ダメだダメだ。俺がこの女になるのには容姿は合格だけど、この女を裕子にするのは不合格だ。オナニーはするし、頭の中が空っぽだ。田舎の高校生なのに茶髪にするような女を裕子にするわけにはいかない。もし裕子になったら、あの美貌だ。男を引っかけて回るに違いない)
 俺はベッドに戻って、俺の顔を思い浮かべて元に戻れと念じた。フッと浮いた感じがして、俺は俺に戻っていた。
 (戻るのは以外と簡単なんだな)
 そう思いながら、俺は藤本絵里の右手の感覚を思い出していた。
 (裕子のもあんな感じなんだろうか?)
 俺は慌てて頭を振った。
 (こんなことを考えちゃいけないんだ)

 時計はまだ午後9時前だった。まだまだ行けると思った俺は、次の標的を準備した。紙切れに書かれている一番最初の名前を大きく書いた。
 (麻生夏希、22才・・・・。五つくらいなら許容範囲かな? ま、ともかく彼女になってみよう)
 裕子、麻生夏希の名前を頭に思い浮かべながら呪文を念じた。
 (くそ! うまく行かないな)
 呪文を念じること10回目、最初と同じように身体が浮いた感じがした。
 (よし!)
 俺はやはりベッドの上にいて天井を見ていた。手足も藤本絵里の時と同じように動かない。藤本絵里の時と違うのは、胸に手を当てたり、あそこに指をやったりはしておらず、手足を伸ばした状態で寝ていることだ。
 妙なことをやっていないようだが、問題は肌に覚える感覚だ。肌に何の圧力も感じないのだ。毛布や・・・・下着さえも。
 (この女。全裸で寝ているみたいだぞ。まさか男が部屋の中にいないだろうな。手足に力が入らないから、男がやってきたら抵抗もできないぞ)
 女の身体で男に犯されるんじゃないかと思うと、俺は戦々恐々としていた。
 (よかった。動き出した)
 両手を何度か握りしめてみてから、俺はベッドの上に起きあがった。突き出た乳房に続いて、淡い陰毛に覆われた恥骨が目に入った。
 (参ったな。やっぱり全裸だ)
 俺は部屋の中を見回した。男の気配はないようだ。
 (男とセックスしていたわけではないようだ。じゃあ、どうして全裸なんだ?)
 疑問はすぐに解けた。右手の中指と薬指がビットリと粘液で覆われていて、陰毛から内股が気持ち悪いほど濡れていたからだ。
 (オナニーが終わった直後だったみたいだな。それにしても気持ちが悪い)
 ティッシュで拭いたくらいでは綺麗になりそうもなかった。俺はバスルームへと向かった。シャワーを浴びるつもりだった。
 (オナニーして気持ちよかったのに、突然身体の自由がきかず人工呼吸されて、ビックリしているだろうな。それに、元に戻ったらいつの間にかシャワーを浴びて綺麗になっているんだから)
 俺はおかしくなって思わず笑みを浮かべた。
 (ハア、気持ちいい)
 ちょっと熱めのシャワーはホントに気持ちよかった。シャワーを浴びながら身体を撫で回してみた。意図的じゃなくてもシャワーを浴びるのだから身体を撫で回すことになるのだが。
 乳房はまずまずの大きさだ。乳首がつんと上を向いていて形もいいようだ。ウエストも締まっている。下腹がちょっとだけ出ているのが欠点かも知れない。ヒップの形もいいようだ。
 乳房を触っているとき、乳首に手が触れた。ビクッとした電撃に似た刺激が身体を走った。
 (女の乳首って、こんなに感じるの?)
 ボディーソープの付いた手で、両方の乳首をそっと触りながら乳房を揉んでみた。
 (ああ、いい感じだ・・・・)
 右手が自然に股間に降りていった。乳首よりさらに激しい刺激が身体を走り抜けていった。俺は止められなくなった。襞を分けて、下にある秘陰へと指を進入させていった。
 (ああ、堪らない・・・・)
 俺は指を二本にして、激しく出し入れし始めた。
 「ああっ! はあっ!! ああうっ!!」
 頭の中が真っ白になった。
 (行っちゃた。・・・・こんなことしててもいいんだろうか?)
 俺はシャワーを止めて外に出て身体を拭いた。鏡に全身を映してみた。
 (22才にしては童顔だけど、こいつも美人だね。手で感じたとおりにスタイルもいい。・・・・行きやすいし)
 俺は身体を斜にしたりして、麻生夏希の身体を観察した。
 (藤本絵里より麻生夏希の方がいいような気がするが・・・・。それにしても、こんなに美人でスタイルもいいのに、オナニーするなんて、男はいないのか?)
 俺はバスタオルを胸の高さに巻いてから部屋の中を調べ始めた。ベッドの下の散乱したワンピースや下着、パンストに紛れてショルダーバッグがあった。
 開いてみた。口紅とコンパクト、ハンカチ、ティッシュ、新しいパンスト、定期券などが入っていた。定期券には麻生夏希の名前があった。
 (藤本絵里は高知だったし、この麻生夏希は栃木だ。呪文だけで、よくもまあ、こう正確に飛んでこられるものだ)
 感心しながら、俺はさらに調べを進めた。藤本絵里の部屋の中を調べたときもそうだったけれど、ものすごく悪いことをしているような気がしていた。
 タンスに入っている下着は大人しいものばかりで、つり下げられているワンピースやスーツもそれなりのものばかりだ。
 (22で男がいなければ、オナニーくらいするだろう。感じやすいこの身体も気に入ったし、この女でいかも)
 そう思いながらもさらに調べを進めていった。ドレッサーの引き出しに預金通帳が入っていた。
 預金通帳の中を見て、俺は驚きに目を丸くした。なんと毎月80万もの入金があるのだ。預金残高、1000万を超えていた。
 (給料なのか? 22の女にしてはあまりにも高額だな? 怪しすぎる、この女・・・・。いったい何をやってるんだ?)
 麻生夏希の仕事を示すものが部屋の中には見あたらなかった。
 この女は止めた方がいい。そんな予感がした。俺は元に戻ることにした。

 (次は26才か・・・・)
 名簿を見て、俺は小さく溜息をついた。下の方に二十歳の女がいるけれど、俺は順番に確かめていくことにした。年令が行っていても、裕子に相応しい女がいないとも限らないと思ったからだ。
 松永紀世美の名前を大きく書いて呪文を念じた。今度は3回目で、あのフワッとした感覚がやってきた。
 (だんだんよくなる法華の太鼓)
 などと有頂天になっている場合じゃなかった。俺の目の前に男の顔があった。男は赤ら顔のずいぶん年の男で、前頭部には毛らしい毛が見えず、耳のあたりに白髪交じりの毛がわずかに見えた。俺の両脇に両手をつき、ニヤニヤしていた。
 俺には例によって感覚がなかったのだが、その感覚が戻ってくるのが恐ろしかった。すでにわかっていたことだが、この松永紀世美はセックスの真っ最中なのだ。
 手足の感覚よりも先に、男によって突き上げられる快感が俺を襲ってきた。
 (何てことだ!)
 松永紀世美は恐らくクライマックス寸前だったようだ。俺はあまりの快感に声を挙げていた。
 「ああうっ!!」
 脳天まで突き抜ける快感に俺は気を失った。

 気がついた。元に戻っているのかと思ったのに、俺は男に貫かれたままベッドの上で腰を振り続けていた。
 (女の快感ってすごいなあ。このままこうしていたい)
 そんなことを思いながら、裕子のことを思った。
 (こんな快感を知っている松永紀世美。裕子になったら、すぐに男をくわえ込むんじゃないだろうか? ダメだ、ダメだ。それに目の前にいる男。どう見たって、松永紀世美の夫とは思えない。不倫か? 売春か?)
 「どうしたんだ? 紀世美?」
 脂臭い息で男が俺に尋ねてきた。
 「何でもないわ」
 俺はそう答えた。
 (親しそうな口ぶりだ。と言うことは行きずりの売春ではないと言うことだ)
 「どうした? 心ここにあらずという感じだな」
 「そう?」
 「まさか、男ができたんじゃないだろうな?」
 「違うわ」
 俺は話を合わせる。
 「紀世美が望むものなら何でも買ってやる。だから、浮気などするなよ」
 「ええ」
 「わたしの可愛い紀世美。離さないからな」
 男は俺にキスするとベッドから抜け出てバスルームへと消えていった。男が俺の身体の中から抜け出るとき、何とも言えない妙な感覚がした。
 俺は枕元にあったティッシュで股間を拭った。あの独特の臭いが鼻を突いた。
 (気持ちよかったけれど、俺が松永紀世美になったら、あの男とセックスしなければならない。あんな男とは金輪際イヤだ!!)
 俺は、元に戻ることにした。

 俺は名簿を眺めた。
 (木下美歌は35才。結婚しているだろうな。イヤ、結婚していないかも。結婚していなければ、松永紀世美のように不倫しているかも。しかし、結婚も不倫も売春もしていないかも)
 確かめざるを得なかった。

 木下美歌の身体に入り込んだとき、やっぱり男ととセックスの最中で、俺は女として二度目の絶頂を経験した。
 ことが終わって眠り込んだ男を起こさないように、そっとベッドを抜け出して俺はちょっとビックリした。
 (お腹が大きい)
 木下美歌は妊娠中だった。部屋の雰囲気からすると普通の民家だ。となると、男はどうやら木下美歌の夫らしいと想像できた。
 (妊娠中か・・・・)
 鏡を覗いてみると、木下美歌はかなりの美人だ。
 (女として男に抱かれるのはちょっと問題があるけれど、夫らしい男はかなりいい男で、松永紀世美の相手よりは我慢できそうだ。こんな美人にならなってもいいけれど、・・・・妊娠中じゃあなあ)
 そう思いながら、隣の部屋を覗いてみて、俺はさらにビックリした。そこには布団が並べられていて、子どもがずらりと並んでいた。数えてみると、5人もいた。
 (お腹の子どもが生まれたら、6人になってしまう!)
 ひとりでも我慢できそうもなかったのに、6人なんてとんでもなかった。俺は木下美歌から逃げ出して元に戻った。

 北村まどかは幼稚園児。どう考えても裕子の身体に送り込むのは無理があった。混乱し、泣きわめいてどうしようもなくなるのは目に見えていた。

 村田彰子は15才だから、問題はなさそうだと判断して呪文を唱えた。あのフワッとした感じのあと、俺は女の子らしい可愛らしい部屋の中にいた。きちんとパジャマを着てベッドの中にいた。
 (この子は変なことはしていないようだ)
 安心して起きあがろうとした。
 (あれ?)
 両手には力が入るのだが、両足はまったく動かなかった。布団をはぐってみて、村田彰子の足の細さに驚いた。骨に皮が付いているだけと言うのは大袈裟だけど、まさにそんな感じなのだ。
 (小児麻痺なのか?)
 病名はともかく、両足が不自由なことは明らかだった。ベッドのそばにある机の上に置いてあった小さな鏡を手に取って顔を見てみた。
 (ほう。この子も美人だな)
 机の前の本棚にアルバムらしきものがあった。不自由な体を動かして、やっとの事でそのアルバムを手にして開いてみた。
 笑顔の村田彰子が写っていた。彼女の周りには友人たちらしい女の子が一杯写っていた。どの写真も同じだ。
 (明るくて、友人が多いようだ。足が不自由でなかったら、いいのにな)
 彼女にとっては、裕子になることは幸運だろうけれど、俺自身の問題がある。不自由な暮らしはしたくなかった。
 (可哀相だけど、パスだ。次は明智美里20才。この子ならいいかも)

 俺は明智美里の名前を大きく書いて呪文を念じた。もう一発で術をやれるようになっていた。
 例によってフワッとした感じがしたあと、俺は明智美里になっていた。鏡で容姿を確かめた。
 (ホントに綺麗な子ばかりだな)
 幼稚園児の北村まどかもずいぶん可愛い子だった。木下美歌だって、ひとりの男のものにしておくには勿体ないほどの美人だった。
 (裕子の魂と共鳴する女たちだからな。しかし、裕子と違って性的にちょっと発展家が多いみたいだけど)
 例によって、俺は明智美里の素性を調査し始めた。
 (横浜市立大学の2回生か。へえ、大したもんだ)
 アルバムや手紙を調べてみたけれど、男の陰はないようだ。ふと気がついて、コンピューターの中を覗いてみた。メールの中にも、男からのものはなかった。
 (この女だな)
 明智美里なら、裕子として立派に生きてくれるだろう。俺もこの女としてなら何とかやっていけそうな気がするし、社会人ではなくて学生ならやりやすい。女になれるまでは、男を避けていればいいのだ。
 そう思いながら、部屋の中を見回していて気がついた。
 (グッチ、プラダ、ルイ・ビトン。ブランドものばかりだ・・・・)
 服やバッグはもちろんのこと、下着だって安物らしいものはひとつもなかった。化粧品はすべて外国製だったし、よくよく見てみれば、部屋の調度品もちょっと手が出ないほどのものだった。
 (恐らく親が金持ちなんだろう。明智美里になる俺はいいけれど、裕子になるにはちょっと問題だな)
 裕子のうちはそれほど裕福ではない。裕子にかかる医療費で四苦八苦していた。これほどの贅沢に慣れた明智美里が裕子になったら、とんでもないことになりそうな気がした。
 追い打ちをかけるような電話がすぐそのあとに入った。
 「美里? パパだよ」
 中年男性の声だった。声の響きからすると、実の父親でないことは明らかだった。
 「遅くなったけど、今から行くよ」
 (実家が金持ちじゃなくて、愛人か何かをやっているのだ。こんな女は、願い下げだ)
 俺は、元に戻ることにした。

 (75才か・・・・。これは絶対に無理だ・・・・)
 残る7人についても俺は術を使って、それらの女になってみて調べてみた。
 (ダメだ。ダメだ。ダメだ)
 俺はもう完全に諦めていた。裕子に相応しい女が見つかって、しかも俺がその女になってもうまく生きていけるなんて条件をクリアできる女がいなかった。
 (裕子のためだけを思って、俺が我慢すればいいのかも知れないけれど・・・・)
 小児麻痺の村田彰子の顔が浮かんだ。
 (彼女が最適だろうけど・・・・)