第4章 帰宅して

 「ただいま」
 ぼくは力無く玄関のドアを開けた。
 「お帰り、千春。まだ元に戻らないのね」
 「見ての通りだよ」
 「困ったわね」
 「ああ、困ってるよ」
 ぼくは鞄をソファーに放り出して、上着を脱いだ。
 「明日には元に戻るかしら?」
 「予想も付かない。明日になってみないと分からないよ」
 「それもそうね。お風呂入る? それとも、食事にする?」
 「先に風呂に入ってこよう」
 「じゃあ、上がったら、すぐに食事できるようにして置くわ」
 「いつもすまんね」
 「主婦の仕事ですもの」
 菜穂子はにっこり笑って、キッチンへ消えていった。菜穂子、君だけが頼りだよ。

 上着を抱えてベッドルームへ行き、スーツとワイシャツを脱ぎ、さらにランニングシャツを脱いでサラシを取った。胸の圧迫感が取れて、随分楽になった。ふうと溜息が漏れた。
 菜穂子が大きなおっぱいだと言ったけど、あらためてこうして見ると、ほんとにデカパイだ。女の姉妹がいないから分からないけど、母も結構大きかったから、ぼくが女に生まれていれば、こんなふうに大きくなるんだろうなと思った。
 そう思いながら、今はぼくは女なんだなと思い直す。遺伝的には、こんなに大きいのは当たり前なんだ。
 いつもはトランクス一丁でバスルームに向かうけど、裸の胸が恥ずかしい。ランニングシャツをもう一度着てからバスルールへ行った。

 脱衣籠の下着を脱いで中に入った。湯温は丁度いいくらい。さっと体を流して湯船の中に入る。お湯の中で大きなおっぱいが揺れていた。ほんと信じられないよ。このおっぱいが菜穂子に付いていたら嬉しいのになと思う。
 湯船から出て、体を洗うとき、胸はともかくあそこはどこまで洗ったらいいのか分からなかった。菜穂子に聞くわけにもいかず、適当に洗って置いた。

 バスルームを出ると、着替えが置いてない。体を拭きながら菜穂子を呼んだ。
 「菜穂子! 着替えを持ってきてくれ」
 「はい。ちょっと待って」
 しばらくごそごそしてから、菜穂子がバスルームへやって来た。
 「はい。これ」
 菜穂子が手にした下着をぼくはじっと見つめる。
 「早く着なさいよ」
 「・・・・これ。菜穂子のだろう?」
 菜穂子に手渡された小さなピンク色の下着を見つめる。
 「わたしが着るために買ってたんだけど、新品だから」
 「新品だからって、こんなもの着られないよ。いつものやつを出してよ」
 「その体に、トランクスはおかしいわよ」
 「だって・・・・」
 「ショーツの方がいいって。さあ、早く着て」
 「でもさあ・・・・」
 「下着で外に出るわけじゃないでしょう? 誰に見せるわけでもないんだから、それでいいの。女は女用の下着を身につけた方がいいの」
 そう言い残すと、菜穂子はキッチンへ行ってしまった。ぼくは、手渡された下着をもう一度じっと見つめた。
 仕方ないか。今のぼくにはこれの方が相応しい。
 ビニールの入れ物に入った新品のパンティーを取り出した。菜穂子はショーツって言ったな。コットン製のMサイズのものだ。両足を通して引き上げる。ふん。結構いいじゃないか。トランクスより、ずっと穿き心地が良い。女は、女の下着か。確かに菜穂子の言うとおりだ。
 「どう? トランクスより、そっちの方がいいでしょう?」
 ぼくが穿き終わるのを待っていたかのように菜穂子が声をかけてきた。
 「あ、うん。そうだね」
 「キャミはランニングと変わらないから、抵抗はないでしょう?」
 ランニングシャツと変わらないと言ったって、キャミソールなんて・・・・。白地だけど、小さな花柄が一杯。
 ま、いいか。
 キャミソールを着て、鏡を覗いてみた。風呂上がりのいい女が鏡の中に写っていた。髪型がいまいちだなと思って、前髪を降ろしてみた。へえ。タクシーの運ちゃんが言ってたけど、ほんとぼくって美人だなとうっとり鏡を眺めていた。
 「何してるの? できたわよ」
 自分で自分の姿に陶酔するなんて信じられない。髪に櫛を通していつもの髪型にして、パジャマを着てダイニングへ行った。

 「パジャマも女物の方がいいかな?」
 「いいよ。買うお金が勿体ないよ。明日には元に戻りそうな気がするから」
 「そうね。・・・・でも元に戻らなかったら、可愛いの、買ってあげるからね」
 悪戯っぽい目をして菜穂子がぼくに言った。
 「馬鹿言わないでくれよ」
 「すけすけのネグリジェにしてあげようか?」
 「止めてくれよ。もう・・・・」
 菜穂子はぺろっと舌を出す。
 「そんな顔すると、千春、可愛いわ」
 「菜穂子、おまえは、サドか?」
 「そうみたい。千春の困った顔がわたしには刺激的」
 「君がそんな女だとは知らなかった」
 「あら? いつものことだけど、気がつかなかったの?」
 それはそうかなと納得する。菜穂子は、ぼくの名前を知らない人たちの前で、大きな声で千春と呼び捨てにして、ぼくが顔を赤らめるのをニコニコして見ていた。
 男物の服でも、ピンクのセーターや女物の様な柄の入ったものを買ってきてぼくに着せては、ぼくを恥ずかしがらせた。そんな菜穂子が好きなんだから、仕方ないけど・・・・。ぼくはちょっとマゾっ気があるのかなと思う。

 明日になって目が醒めたら、ほんとに元に戻るんだろうか? 不安が一杯で、目の前のテレビも上の空で見ていた。
 その間に、菜穂子は夕食の片づけをして、明日の朝食の準備を終え、バスルームへ消えていった。
 不安と緊張で、今晩は眠れそうもない。ぼくは、なけなしのブランデーを取り出して、グラスに注いでちびりちびりとやり始めた。
 ぼくは飲み事以外ではほとんど酒を飲まない。だから、少しの酒でも酔ってしまう。グラスに三分の一くらいしか入れなかったのに、菜穂子がバスルームから出てくる頃には、顔を真っ赤にしていた。女になっても、酒は強くはならないようだ。
 「あっ! ずるうい。ひとりで飲んで」
 「菜穂子も飲んだら?」
 「飲む、飲む。一杯注いで!」
 菜穂子はぼくと違って酒はもの凄く強い。晩酌はしないけど、飲む機会があると、無茶苦茶飲む。正月にぼくの実家へ連れていくと、母と一緒になって一升びんを空けてしまう。それも一本じゃないのだ。ふたりで、二本は軽いのだ。それでもって、酔いつぶれるかと言えば、まったくそんなことはない。ちょっと頬が赤くなる程度なのだ。ぼくを含め、杉本家の男連中は、みんな酒に弱いので、そんなふたりを眺めていることになるのだ。
 グラスの半分注いでやったブランデーをアッと言う間に飲み干して、さらに半分注ぎ足した。
 「そのブランデー、高いんだから、あんまりがぶがぶ飲むなよ」
 「あら? 栓を開けてしまったら、早く飲んだ方がいいんじゃないの?」
 「それはそうだけど、黙ってたら、今夜全部飲みあげてしましそうだから」
 「そうね。じゃあ、半分までにしておくわ」
 「半分!!」
 ぼくはあんぐりと口を開けた。半分ねえ。
 「酔った千春も可愛いわ」
 突然の菜穂子のお言葉に、ぼくは動揺する。
 「もう。止めてくれよな」
 「ふふふ」
 そんなちょっと小悪魔のような顔の菜穂子は可愛い。ぼくは思わず菜穂子にキスしてしまった。
 「愛してるわ」
 「ぼくも」
 でも今日はぼく、男じゃないから菜穂子を満足させてあげられないなと唇を合わせながらぼんやり考えていた。

 「酔っちゃった。ぼく、先に寝るから」
 「いいわよ。わたし、見たい番組があるから」
 あれから、少しだけ注ぎ足して、全部でグラス半分くらい飲んだだろうか? ぼくは完全に酔ってしまっていた。
 ベッドに入ると、アッと言う間に眠り込んでしまった。

 夢を見た。今日の夢は悪夢じゃなくて、・・・・いい夢だ、・・・・ろう。
 一面のお花畑。可愛い花がいっぱいで、ぼくははしゃぎ廻って、そのお花畑の中を走り回っていた。ぼくは、・・・・ぼくは、可愛いワンピースを着ていた。肩が露わになるようなドレスのような服だ。胸はこぼれるほど大きく見えたし、広がったスカートから覗く足は細くて綺麗だった。
 どうしてこんな夢を見るんだろう。そうか、ぼくは女になってたんだっけ。
 しばらくして、白馬に乗った王子様が現れた。白馬に乗った王子様!? まるで女の子の見る夢のようだよ。ぼく・・・・女の子だよね。
 顔はよく分からないけど、とても素敵な王子様だ。ぼくは白馬の後ろに乗せられて、お城へ連れて行かれた。
 すごく広いベッドが部屋の真ん中にデンと据えられていた。ぼくは抱きかかえられて、そのベッドに寝かされた。体が50センチも沈むような、ふわふわのベッドだった。
 キスされて、ぼくはうっとりとなる。着ていたドレスを脱がされていった。王子様がぼくのおっぱいに手をかけた。
 女に見えるけど、ぼくは男だ! そう叫んだら、夢から覚めた。

 目が醒めたら、ぼくのおっぱいを誰かが触っていた。誰かと言っても部屋の中には菜穂子しかいない。菜穂子がぼくのおっぱいを揉んでいるのだ。だから、妙な夢を見たのだ。
 「菜穂子。止めてくれよ」
 「大きいのね。羨ましい」
 「もういいから、止めてくれ」
 ぼくは菜穂子の手を振り払った。
 「いいじゃないの」
 「だめ」
 「今朝、ちょっとしか見せてくれなかったでしょう? ・・・・ちゃんと見てみたいわ」
 「えっ!?」
 「胸もあそこも」
 「恥ずかしいよ」
 「あら? わたしたち夫婦でしょう? 恥ずかしがることないわよ」
 「そりゃ、そうだけど・・・・」
 「早くう」
 素面の時の菜穂子でさえ、一度言い出したら聞かない。ましてや酔った菜穂子は我が儘放題なのだ。
 「分かったよ」
 ぼくはパジャマを脱いだ。菜穂子の同じように脱ぎ始める。
 「菜穂子、おまえも脱ぐのか?」
 「その方が、千春も恥ずかしくないでしょう?」
 「ま、そうだね」
 下着も取って裸で抱き合った。
 「ほんと大きいわ。わたしの倍はありそう」
 菜穂子は自称Bカップだけど、ほんとはAのようだ。可愛らしいおっぱいだ。それに比べてぼくのおっぱいは怖いほど大きい。そのおっぱいに、菜穂子が舌を這わせ始めた。
 「菜穂子・・・・」
 「どう? 感じる?」
 「・・・・」
 何とも言えない快感が湧いてきた。乳首を刺激されているはずなのに、体中にその刺激が広がっていくのだ。
 「立ってる。立ってる」
 「何? 立ってるって」
 「乳首が立ってるのよ。千春感じてるんでしょう?」
 「あ、うん」
 菜穂子は、丁寧に丁寧に乳首を中心に舌を這わせた。そうしているうちに、指がぼくの股間に降りてきた。ぼくは思わず腰を引いた。
 「だめだよ」
 「いいから、いいから」
 ぼくの意向を無視して、ぼくの固く閉じた足の間に指を押し通してくる。
 「恥ずかしくないから、ねえ、力を抜いて、ねえ」
 仕方なく、ぼくは力を抜いて足を少し広げた。
 「千春。濡れてるわよ」
 そう言われて、酔いが戻ってきたように顔がカッと熱くなった。そう言われなくても何となくその部分が熱くなってきているのが分かっていた。濡れている。濡れている。恥ずかしい!!
 脳天に突き刺さるような刺激があった。菜穂子の指先が、ぼくの敏感な部分に触れたのだ。女ってのは、こんな風に感じるものなんだ。へええ。
 菜穂子はぼくを攻め続ける。クリトリスを軽く撫でたり、強く押したり。さらに舌でころころと転がしたり、跳ね上げたり。その最中にぼくは行ったような気がした。息が止まるような、そんな気がして、一瞬意識がなくなったのだ。
 ハッと気がつくと、菜穂子がぼくの中に指を入れていた。クリトリスを別の指で刺激しながら、ゆっくりと指を出し入れする。
 「指が千切れそうなくらい腟がしまってるわ」
 そう言われた瞬間、また行ってしまった。
 「千春。あなたは完全な女よ。しかも、感度良好よ」
 菜穂子はまだぼくを攻めている。ぼくは快感で意識朦朧となってしまった。
 「ねえ、千春。今度はあなたがやって」
 「だめ。もう動けない・・・・」
 「自分だけ行って。わたしはどうすればいいのよ」
 「とにかくもうだめ。体が言うことを利かないよ」
 「仕方ないわね。今日は許してあげるわ。明日はお返ししてね」
 「分かったよ」
 うとうととしていると、ブーンという機械の音が聞こえてきた。菜穂子の荒い息遣いも聞こえてくる。菜穂子がバイブレーターを使っているようだ。いつの間に買ったんだろう。そう思いながら、ぼくはそのまま眠りに落ちた。