第3章 デビュー

 いつものように、いつものおにぎりとカップ入りの味噌汁の朝食を取った。いつもなら、露木がやってくるのに、今朝は早苗が袋を抱えてやってきた。
 「さあ、着替えてもらうわよ。まず、ベッドの中に入って」
 「ベッドの中にですか? どうして?」
 「いいから、言われた通りにしなさい!」
 訳がわからずぼくは肩を竦めてベッドの中に入った。
 「目を瞑って。・・・・はい、起きて。こちらの袋から下着を取り出して着るのよ」
 何がなにやら分からなかった。言われるままに、ベッドから抜け出して、ベッドの足元に置かれた袋の中のものをベッドの上に広げた。
 (やっぱり女物だ・・・・)
 「ランニングとトランクスを両方とも脱いでから着るのよ」
 「両方ともって、裸になってから着るんですか?」
 「そうよ。早く、言うとおりにしなさい」
 (どうもよく分からない)
 ぼくは言われるままに全裸になってから、小さなパンティー、ショーツと表現するんだそうだが、入るのかなと思われるような小さなパンティーを引き上げた。
 「次はブラをして」
 パンティーと同色のブラジャーを持ち上げると、かなり重かった。カップの部分に何か入っているようだ。触ってみると、乳房のように柔らかかった。
 「シリコン製の人工乳房が入っているのよ。つけ方は、昨日教えたでしょう?」
 ぼくは教えられた通りに、ブラジャーのホックを腹の前で止めると、グルッと半回転させ、カップを胸の高さに持ち上げてから、ストラップという肩紐に腕を通した。ホントはストラップを腕に通して、カップを胸に当ててから後ろ手にホックを留めるのだそうだけれど、体が固くてそうできなかったのだ。
 「それでいいわ。次は、スリップね。頭からかぶりなさい」
 さらさらのスリップを頭からかぶった。レースの部分が膝元にすとんと落ちた。スリップの肌触りは、掛け値なしに気持ちがよかった。
 (女の下着って結構気持ちがいいんだな。このさらさらした感触が何とも言えないや)
 ちょっと勃起しそうになった。
 「もうひとつの袋に、今日の衣装が入っているわ」
 袋を開けてみた。
 (セーラー服!?)
 オーソドックスな紺のセーラー服が中に入っていた。ぼくは、早苗を振り返った。早苗は、小首を傾げてにっこりと笑った。これを着ろという合図だ。
 ぼくは、スカートをはき、セーラー服を頭からかぶった。昨日サイズを測っていたせいか、ぴったりだった。
 「ブラッシングして、髪の毛を整えなさい。終わったら、ネクタイをして」
 乱れた髪を整え、白のネクタイを結んだ。
 「ルーズソックスをはいたら、次はお化粧よ。今日は、女子高生だから、薄化粧にするのよ」
 ルーズソックスをはいて、ドレッサーに向かった。セーラー服のスカートはかなり短く、ふとももが露わになっていた。だけど、ずっと裸でいたから、これでも恥ずかしくはなかった。
 (スカートをはいているのはちょっと恥ずかしいけど・・・・)
 化粧を始めて、ふと鏡の向こうにいる釘宮の姿が目に入った。釘宮は、手に何かを持ってぼくを見ていた。
 (あれは?)
 ぼくは振り返った。釘宮が持っていたのは、ビデオカメラだった。
 「何してんだ! ビデオなんか撮って・・・・」
 「あら? 記念にビデオを撮ってあげてるのよ」
 そんな早苗の言葉に、新たな脅迫の材料にするためだろうと言う言葉を飲み込んだ。
 「ただの記念のビデオよ」
 もう一度早苗が言う。
 (嘘決まっている)
 だけど、ぼくは化粧を続けるしかなかった。
 (昨日、露木がご褒美だといって、トランクスとランニングシャツをくれたけど、あれは着替えから撮影するためのものだったんだ。だから、早苗がベッドの中に入るように言ったんだ。くそ!!)
 何をするにしてもぼくは思慮が足りない。ホントにぼくは馬鹿だ。何度そう思ったことだろうか?

 化粧が終わった頃、露木がやってきた。
 「おうおう。立派な女子高生になったな」
 ぼくは項垂れる。
 「もっと楽しそうな顔をしろよ。さあ、行くぞ」
 (どこに?)
 なんて聞いても仕方がない。ぼくの行き先は、歌舞伎町にあるニューハーフヘルス『菊の花』しかないのだ。

 露木と釘宮につれられて、階段を下りていった。事務所には、数人の男たちがいて、なにやら書類を書いたりしていた。女装したぼくを見て、冷やかしでもされるのだろうと思っていたのに、男たちはぼくの姿をちらりと見ただけで、何事もなかったように仕事を進めていた。
 (ぼくが男だと気がつかなかったのだろうか? 確かに結構上手く女子高生に化けられてはいるけれど・・・・)
 男たちの態度に釈然としないまま、ぼくは露木たちと一緒にベンツに乗り込んだ。

 (あれ?)
 車の外の風景がどうもおかしいのに気がついたのは、走り始めてかなりたった頃だ。
 (新宿に向かっているんじゃない。いったい、どこに行くんだろう?)
 しばらく走ってベンツが横付けされたのは、青山の一角にあるマンションだった。
 「ここで何するの?」
 「行けば分かる」
 何故かわからないけど、露木はちょっと機嫌が悪そうな声でそう答えた。エレベーターを上って、そのマンションの一室に入った。
 「靴を脱いであがれ」
 その言葉も不機嫌さが滲んでいた。スニーカーを脱いで部屋にあがると、かなり大きなフローリングの部屋があって、その真中にダブルベッドが置かれていた。それだけじゃなかった。ベッドから離れたところに、ライトや数台の大型のビデオカメラが設置されていたのだ。
 (こ、これは・・・・)
 逃げ出そうとするぼくを、露木が抱きとめた。
 「お察しの通りだ。おまえのデビューは、AV出演だ」
 「い、いやだ!!」
 じたばたするぼくを、露木が張り倒した。
 「いやだ? いやだなんて言ってもいいのか? これをおまえの郷里や大学にばら撒くぞ」
 ぼくの目の前に差し出されたのは、ぼくが化粧をして、露木のペニスに舌を這わせたり、くわえ込んでいる場面の写真だった。
 「いつのまに・・・・」
 露木がにやりと笑った。釘宮が、こっそり撮ったに違いなかった。
 「さあ、どうする?」
 (AVなんかに出れば、ますます逃げ出せなくなる。だけど、こんな写真をばら撒かれたら・・・・。それに今朝撮られたビデオもある)
 「俺が教えたとおりにすればいいんだ。それから、終わったら、この写真とネガはおまえにくれてやる。それに、今日の撮影の出演料もきちんと出してやるからな。借金が減るんだ。頑張れよ」
 そう言って、露木はぼくをベッドの方へ押しやった。

 相手は露木ではなかった。腹の出た40くらいの男だ。ぼくが女でも、抱かれたくはないタイプだ。
 「明子! しっかり気を入れてやれよ。仕上がり具合がよかったら、出演料を割増してやるからな」
 どうせやるなら、出演料をたくさんもらった方がいいのかもしれない。ぼくは、意を決して、男優に近づいていった。
 ベッドの端に腰掛けて、男をじっと見た。
 (女子高生はともかくとして、ぼくは女に見えるだろう。この男優、自分の目の前にいる相手が男だと知っているんだろうか?)
 男優がぼくの方に手を回してキスしてきた。ぼくもそれに応えた。この男優はタバコを吸わないらしい。露木と違ってヤニ臭くなかった。
 しばらくして、男優はぼくをベッドに押し倒して、セーラー服の上から人工乳房を揉みながら、耳や首筋に舌を這わせた。
 (乳房が偽者と分かってやっているところを見ると、この男優、ぼくが男だと分かってやっている)
 ゾクッと鳥肌が立った。スカートがめくりあげられて、ショーツの上からペニスを触られた。ぼくは思わず体を堅くした。
 「腰を振って、感じたって言う演技をしろ!」
 監督らしい男が指示を出す。ぼくはそれに従って腰を動かした。
 「ほう、うまいじゃないか。こいつ、なかなか見所があるぞ」
 監督が露木のそう言うのが聞こえた。ショーツが下げられ、ぼくのペニスが露わになった。撮影が始まったときには、緊張して勃起していなかったのに、ゆるゆると撫で回されて、少し堅くなっていた。
 男優がぼくのペニスを舐めまわし始めた。ぼくのペニスはもうかなり勃起していた。
 「気持ちいいって言う表情をしろ」
 実際に気持ちよかった。フェラチオされるって、気持ちがいいものだと思った。
 「攻守交替だ。おい、明子。スカートを脱いでしまえ」
 「上は?」
 「上はまだ脱がなくていい」
 ぼくはスカートを脱いだ。ルーズソックスははいているけれど、下半身だけが裸になったことになる。
 「お返しにフェラチオをやってやるんだ」
 監督に言われるままに、ぼくは男優のはいているズボンのベルトを緩めて、ズボンを下ろした。かなりでかいペニスが下がっていた。ぼくは目を丸くした。
 (すごい。こんなの見たことがない。ぼくのペニスの倍はありそうだ)
 手で握ってみると、少し固くはなっていた。撮影と言うことで、男優も緊張して勃起していないのだろうと思った。
 ぼくは、監督の言われるままに両手で握って、舌を這わせ始めた。露木のコーチを思い出し、舐めまわしくわえ込んで舌を使った。
 男優のペニスは、かなり大きいけれど、ぼくはその根元まで飲み込んでいた。
 「す、すげえ。も、もう、堪えられねえ・・・・」
 男優のペニスが硬度を増してきた。
 「か、監督! 行きそうです!」
 「そのままいってしまえ!」
 監督の指示を待つまでもなく、男優はぼくの喉の奥ではじけた。ぼくは、のどの奥でそれをすべて受け止め、ごくりと飲み込んだ。
 「すみません。こいつがあんまり上手いもんで・・・・」
 男優が頭を掻きながら言った。
 「いや、なかなかいい。傑作ができるぞ。露木、こりゃ、ホントに掘り出し物だぞ。さあ、休憩だ」

 撮影スタッフは缶コーヒーを飲み始めた。ぼくにはコーヒーをくれないようだ。露木をじっと見ていると、それが分かったらしく、ぼくに近寄ってきて、缶コーヒーを手渡した。
 「飲み終わったら、トイレに行け」
 「トイレですか?」
 「そうだ」
 小便もしたくなっていた。それを察してくれたと思っていた。ところがそうじゃなかった。缶コーヒーを飲み終えて、トイレに行こうとすると、露木がついてきた。
 「これを使え」
 露木が手にしていたものは、イチジク浣腸だった。
 「こ、これって・・・・」
 「これは教えてないが、教えられなくても分かるだろう。おまえは、監督の言う通りにしていればいい」
 ニューハーフが男の相手をするのは、キスやフェラだけではない。それは知っていた。キスとフェラだけですむかもしれないと思っていたのは、やっぱり間違いだった。
 ぼくは手渡されたイチジク浣腸をじっと見つめた。
 「さあ、早くしろ。おまえの準備ができたら、撮影再開なんだ」
(はあ・・・・。仕方がない)
 トイレに入って浣腸し、ウォシュレットで肛門を洗ってから外に出た。
 「女優さんが来たぞ。撮影再開だ」
 ベッドの上に戻ると、カメラが回り始めた。男優が、ぼくのセーラー服を脱がせ、シリコンの人工乳房入りのブラだけにした。それから、ぼくのペニスを舐めまわす。
 「うつ伏せにしろ」
 ぼくはうつ伏せにされた。男優が、背中から尻の方へ舌を這わせ、さらにぼくの肛門にまで舌を這わせる。
 (感じる・・・・)
 そんなことを思っちゃいけないんだろうけど、実際にぼくは感じていた。しばらくして、男優がぼくの背中に這い上がってきて、指の腹で肛門をゆっくりと撫で始め、さらに指を入れてきた。不快感はあったけど、痛みなどはなかった。
 入れたり出したりしながら、しだいに指は深く入ってきた。あるところで何か妙な感触があった。男優はそこをしばらく弄り回していた。
 (なんだろう? この妙な感じは・・・・)
 「そろそろ、いきます」
 男優が監督に声をかけ、指を引き抜いた。
 「明子! 腰を挙げろ」
 監督から声がかかった。腰を挙げて、四つん這いになると、肛門に何かがあたる感触がした。それが男優のペニスだと言うことがぼくには分かっていた。
 「力を抜いてろよ」
 男優が、耳元で囁いた。
 (痛い!!)
 肛門が引き裂かれるような激しい痛みとともに、内臓の奥深くに違和感を覚えた。男優が腰を動かし始めた。
 「痛い! 痛い! 痛い!!」
 ぼくは思わず大声を出す。
 「処女だからな。痛いのは当たり前だ。ちょっと我慢しろ。すぐに気持ちがよくなってくる」
 男優が、腰を使いながら言った。射精して1時間もたっていないせいか、今度はなかなかいかない。ぼくはずっと突かれ続けていた。
 「騎上位になれ!」
 監督が叫び、うつ伏せから、ぼくは後ろに引き起こされて、男優の上に跨った。男優が下から突き上げてくる。痛みなんか通り越して、肛門は麻痺したようになっていた。それでも、時々激しい痛みが襲って、ぼくは顔を顰めた。
 「その表情がいいぞ」
 監督が、誉めるように言う。
 (どんな表情をしてるんだろう?)
 「明子。男優の方を向くんだ」
 ペニスを抜こうとすると、男優が腰を押さえた。
 「そのまま足を回してこっちを向くんだ」
 ぼくは、肛門にペニスを突き刺されたまま、ぐるりと半回転して、男優の方を向いた。男優はさらに突き上げてくる。
 「明子! 乳を揉め!」
 ぼくは、ブラジャーの上から、人工乳房を揉んだ。
 「露木。あの揉み方は、結構様になってるな。おまえ、教えたのか?」
 「ぜんぜん」
 露木が肩を竦めていた。
 「次、正常位だ」
 そのまま後ろに倒されて、男優がのしかかってきた。
 「明子! 足を広げて膝を抱えろ」
 ぼくは、言われたとおりに、両足を広げて膝を抱いた。
 「監督! そろそろ行きますが、どうします?」
 男優が腰を動かしながら尋ねた。
 「中出ししろ。そのあと、溢れ出てくるところを撮影する」
 「へい」
 男優は、それまで以上に激しくピストン運動をし始め、ぼくが痛みの中に妙な快感らしきものを感じ始めた頃、ぼくの中にどっと射精した。
 「明子! いったって言う演技をするんだ。腰を浮かせ。仰け反れ!」
 ぼくはやけくそになって、言われるままに演技した。
 「いいぞ、いいぞ。おまえはホントにいい表情をする」
 カメラマンがぼくの横に回ってきてぼくの横顔を写していた。
 (こんなの、知ってる人には見せたくない。だけど・・・・)
 もう一台のビデオカメラが、ぼくの足元にいた。モニターを横目で見てみると、ゆっくり引き抜かれていくペニスが撮影されていて、射精された精液が、切れた肛門からの出血と一緒になって漏れ出ていた。
 「よしよし。いい絵ができたぞ。タイトルは、『ロストバージン・明子の場合』でいいな」
 監督が満足そうにスタッフの了解を得ていた。