契約書をよく見ないでサインしたぼくは、ほんとに大馬鹿だ。だけど、元はと言えば、角谷のせいだ。あいつが、名前だけでいいからと言って、ぼくにサインさせたのが元凶だ。
今ごろ、どこかで、ぼくがこんな目にあっているとも知らずに、のうのうとしているに違いない。そう思うと無傷に腹が立った。しかし、その怒りを持っていく場所はなかった。
「さあ、もう諦めて、練習するんだ」
露木が再び立ち上がって、ぼくの目の前にペニスを差し出した。ぼくは、そのペニスをただ見つめていた。
「そうしていたって、借金は戻せないぞ。時間がたつばかりだ。さあ、早くしろ」
ぼくが書いた契約書に従って、ぼくはニューハーフヘルスで働かなければならない。だけど・・・・。
「諦めの悪いやつだなあ。俺だって、いつまでもこうしてはおられないんだ。早くしないと、無理やりにでもさせるぞ」
露木の顔を見上げてみると、言葉以上に険しい顔つきになっていた。ぼくは、仕方なく、露木のペニスを手に取った。
「ようやくやる気になったか。さあ、舌を使って、丁寧に舐めるんだ。男が感じるところは分かってるだろう?」
男はペニスに性感が集中しているのは分かっていた。だけど、どこが感じるかなんて、ぼくは知らなかった。
「おまえ、フェラをやられたことがないのか?」
ぼくは首を縦に振った。
「まさか、童貞なんてことはないだろうな」
ぼくは黙りこくる。
「はは。そうか。童貞ちゃんか。それなら、分からんかもしれんな。そうか。童貞か」
19で童貞は恥ずかしいのだろうか? 露木なんかの場合は、もっと早く童貞喪失しているのかもしれないなと思っていた。
「まあいい。ともかく、舌で舐めまわしてみろ。悪いところは教えてやる」
意を決したぼくは、露木の臭いペニスに舌を這わせ始めた。吐き気がこみ上げてきた。だけど、我慢して舐めつづけた。そうするうちに臭いが幾分和らいできた。トイレに入って臭いのが消えるようなものだろうと思った。
「裏筋を舐めろ。そうだ。そこだ」
だらりとぶら下がっていたペニスが少し堅くなってきた。ぼくはギョッとして、動きを止めた。
「誰が止めろといった。続けるんだ!!」
頭を叩かれ、ぼくは舐め続けた。
「シャフトも舐めろ。袋も舐めるんだ。そうだ。コツが分かってきたようだな」
陰毛が口の中に入って気持ちが悪い。ぼくは指でそれをつまみ出した。
「次は、銜えてもらおうか?」
半立ちのペニスをぼくの口の中に差し出してくる。噛み付いてやろうかなと思ったけれど、そんなことをすれば、どんな目に合わされるか怖くてできなかった。
ぼくは、露木のペニスを口の中へ入れた。
「歯を立てるなよ。唇をすぼめて、出し入れするんだ。舌も使え。なかなか上手いじゃないか。おまえはなかなか素質があるぞ」
涙が出た。
「もう一度、グランスやシャフトを舐めまわしてもいい。それから、タマも舐めてやると気持ちがいいんだ。やってみろ」
言われるままに舌を這わせてやった。こうなれば、毒くわば皿までだ。ぼくは開き直っていた。
「うまい、うまい。さあ、もう一度銜え込むんだ」
ぼくは、真珠の埋め込まれたペニスをもう一度銜えた。
「歯を立てるなって言ってるだろうが!」
頭をぶたれた。
「そうだ。その調子だ。なかなかいい」
そう言いながら、露木はぼくの髪の毛を両手でつかんで、腰を激しく動かし始めた。露木のペニスがのどの奥に届いて、吐きそうになる。
「ぐえっ!」
「歯を立てるな!!」
涙がぼろぼろと流れ出た。半立ちのペニスが硬度を増してきた。
(このままぼくの口の中へ・・・・)
そう思った瞬間、露木のペニスがびくびくと振るえて、液体がどっと喉の奥に注ぎ込まれてきた。喉の奥から、鼻腔へあの臭いが突き抜けてきた。
頭を押さえつけられていたから、そのすべてが喉の奥へ奥へと流れ込んできた。口をふさがれているから、ぼくは鼻で息をしていたのだけれど、その呼吸とともに、気管の中に精液が流れ込んできた。
(息ができない!)
ぼくは、必死で露木の腕を振り払った。髪の毛が何本か抜けたようだった。
「げほっ!! げほっ!! げほっ!!」
床に四つんばいになって、白濁した液体を吐き出した。
「上手く飲み込まないから、気管に入るんだ。次はもっと上手くやれよ」
露木はズボンをあげ、ベルトを締めながら言った。
「お客相手のときは、そんな風に吐き出すと、金をもらえないぞ。分かったな」
露木が部屋から出て行ったあと、ぼくは泣いた。死んだ父に男は泣いちゃいけないと言われてきたけれど、これほどの屈辱を受けて、泣く以外にはなかった。
露木は、出て行くときに、ぼくの脱いだ服を全部部屋の外へ持ち出していた。だから、ぼくは裸のままだった。しかも、部屋の入り口には鍵が掛けられていた。
(逃げ出せない・・・・)
諦めるしかなかった。
翌朝、尿意を催したぼくは、ドアをどんどん叩いた。
「なんだ? どうした?」
鍵が開かれ顔を出したのは、釘宮だった。
「小便に行かせてくれ」
釘宮は、黙ってドアを開けてトイレを指差した。ぼくは、急いでトイレに行った。小便だけのつもりだったけど、大便もしておいた。いちいち言うのが恥ずかしかったからだ。
部屋に戻ると、テーブルの上に食事が置かれてあった。食事といっても、コンビニで買ってきたらしいおにぎりふたつとカップ入りの味噌汁だった。
(ハンガーストライキ・・・・)
そんなことをしてもどうにもならないだろうことは分かっていた。
(食べるしかないな)
味噌汁はまずかったけれど、おにぎりは美味かった。
午前9時、露木がやってきた。
「さあ、もう一度練習だ」
ぼくは下を向いて黙っていた。
「そうやっていても借金は減らないって言っただろう? 練習して、早く稼げるようになって、借金を返すんだな」
露木はズボンを下ろし始めた。
(仕方がない)
ぼくは、前日のように、露木のペニスを手にとって舐め始めた。
「そうそう。なかなかのもんだ。上手いぞ」
今日も30分あまり舐めさせられ、銜えさせられ、最後にのどの奥深くに注ぎ込まれた。ただ今日は、露木のペニスが硬度を増して射精する直前に、鼻から大きく空気を吸い込んで、注ぎ込まれた精液が気管に入らないようにして、そのすべて飲み下した。
「ほう。一晩でここまで上達したか。おまえは、才能があるようだな」
そう言って、露木は満足そうな顔をした。
露木が出て行くと、入れ替わりに30くらいの女が部屋に入ってきた。全裸のぼくは、慌てて前を隠した。
「あら? 聞いていたより、ずっと可愛いわね」
にっこり笑うその女の視線に、ぼくは顔を赤らめて下を向いた。
「さあ、髪の毛をちょっとあたるからね」
「えっ!?」
「女らしい髪型にしてあげるのよ。さあ、そこに座って」
女は、ぼくがニューハーフヘルスで働くことになっていることを知っているようだ。ぼくは両手で股間を押さえながら、女が指差したドレッサーの前に置かれている椅子に腰掛けた。
女は、鞄の中から鋏や櫛を取り出すと、ぼくの髪の毛を霧吹きで濡らしたあと、分け目を真中にしてから手際よく髪の毛を切り始めた。ぼさぼさの髪の毛が、見る見るうちに女の子らしい、ショートカットに切りそろえられていった。
「次は、このクリームを下半身に塗りなさい」
「いったいなんですか? このクリームは?」
「いいから、黙って塗るの!」
ぼくは臍から下の体に泡状のクリームを塗りたくった。
「そのまま10分待ちましょう。その間にわきの毛を剃りなさい」
髭剃りよりも幅の小さなT型のカミソリが手渡された。ピンク色をしているから、女性がわきの下を剃る専用らしい。電動のものならテレビのコマーシャルで見たことがあるなと思いながら、ぼくはわきの毛を剃った。
「シャワーを浴びてきなさい」
ドアの入り口に立っていた釘宮が、トイレとは反対側のドアを指差した。ぼくはシャワーを浴びて、体についた髪の毛を洗い流した。下半身に塗った泡状のクリームも洗い流して、ぼくはギョッとなった。
「毛、毛がない・・・・」
陰毛もすね毛もすべてなくなっていた。
(除毛剤だったのか・・・・)
毛のない股間は、ものすごく貧相に見えた。
部屋に戻ると、女がドライヤーを片手に、ブラシで髪の毛を内巻きにセットした。
「これでよしと・・・・。次は、お化粧の仕方を教えるから、きちんと覚えるのよ。覚えないと、露木に何をされるか分からないわよ」
優しい言い方だけど、その真意は脅しだった。
「髭はあんまり濃くないようだけど、やっぱり剃っておいた方がいいわね」
女が電気かみそりをぼくに手渡す。ぼくは鏡を見ながら、丁寧に髭を剃った。
「眉毛を処理しないとダメね。ベッドに仰向けになって」
「眉毛をどうするんですか?」
「女らしい細い眉にするのよ」
「そんなことしたら、外を歩けなくなってしまう」
「あら? 今の若い男の子でも、結構細くしてるじゃない? それに、借金が終わるまで、外を出歩くなんて事はないでしょうから、気にしなくていいんじゃないの?」
ぼくは籠の中の鳥だった。外に出ることなど考えてはいけなかったのだ。ぼくはベッドの上に仰向けに寝て、毛布を腰まで引き上げた。
「ちょっと痛いかもしれないわよ」
そう言いながら、女はぼくの眉毛を毛抜きで一本、一本抜き始めた。ピリッと痛いときもあり、まったく痛くないときもあった。それから、ピンク色の小さなカミソリで眉毛をそり始めた。
30分あまりベッドの上に寝ていた。
「さあ、終わったわよ」
ぼくは起き上がって、ドレッサーの鏡を覗いてみた。ぼくは唖然として、鏡を見つめていた。ごく細い山形の眉毛がそこにはあった。太かったぼくの眉毛は、30分前の面影はまったくなかった。
「結構上手くできたわ」
ぼくの顔を見て、女が呟いた。
(くそ!)
女を殴りつけたい衝動に駆られたが、女は露木に頼まれてやっているだけだろう。女にあたっても仕方のないことだ。
「さあ。お化粧をするわよ」
女はコットンらしい布のようなものに水色の液体を取って、ぼくの顔をペタペタと叩く。そのあと、白いどろりとした液体をマッサージするようにして薄く塗り広げた。
「さて、ファンデーションは、少し明るいものの方がよさそうね」
そう言いながら、ベージュ色の液体をパフとか言うもので顔全体に塗り広げていった。それから、細かいパウダー上のものを押さえるようにして顔に塗っていった。
「次はチーク」
まるで、顔に絵を書くように、女は楽しんでいる様子だ。化粧で化けると言うけれど、楽しくなければ、やる気はしないだろう。
「アイライン。・・・・アイシャドウを入れてと・・・・」
女は少し離れてぼくの顔を見つめる。
「眉は少し長めの方がいいかしらね」
細いペンシル上のもので、眉をなぞっていた。
「口紅を塗りましょうね。少し口を開いて。そんなに開けなくてもいいわよ。ちょっとだけ。そうそう」
ぼくの目の前から女の姿が消えると、鏡に映ったぼくの顔が目に入った。
「どう? ちょっと勝気な女の子ってところかな?」
化粧なんてしても、女には見えるはずがないと思っていたのに、化粧したぼくの顔は、女が言うようにボーイッシュな女の子に見えた。しかも、かなり美人の・・・・。
「信じられない・・・・」
「これくらい可愛かったら、お客がたくさんつくわよ」
これからぼくがさせられることを思うと、急に気が滅入った。
「そんな悲しい顔をしないの。美人が台無しよ」
(そんなこと言われたって、ぼくは男だ)
そう思ったけれど、口には出さなかった。
「ほう。なかなか可愛く仕上がったじゃないか」
露木がいつのまにかドアのそばに立っていて、ぼくを見ていた。
「早苗。ご苦労。2、3日、化粧の指導をしてやってくれ」
(女の名前は、早苗と言うんだな)
「はいはい。また明日来ます」
早苗は、はさみや櫛、化粧品を鞄に戻すと、部屋から出て行った。
露木は、椅子に座っているぼくの周りをゆっくりまわりながら、じろじろと見つめた。
「これなら、すぐに人気者になれるぞ。あれくらいの借金なんか、返すのに6ヶ月もかからないだろう」
嬉しいような悲しいような複雑な気分だ。
「さあ、化粧したところで、もう一度練習しようか?」
ぼくは目を見開く。
「今朝のは、なかなかよかった。ただ、イヤイヤやっていると言うのがミエミエだ。あなたのチンポが、好きで好きで堪りませんと言うような表情をしないとダメだな。分かったか?」
(そんなことできるかよ)
そう思いながら、ぼくは下を向いていた。
「いいか。客が付かなければ、借金はいつまでたっても減らないんだぞ。早く返すためには、少しは努力ってものがいるんだ。いいな?」
(ああ、あの時サインしなければ・・・・)
後悔しても後悔し切れない。だけど、こうなった以上は、やらなければならない。ぼくは小さく頷いた。
露木はベッドの上に腰掛けた。
「さあ、やってもらおうか?」
ズボンを下ろすと思っていたのに、ベッドに腰掛けたから、どうしていいのか分からなかった。
「お客が自分からズボンを下ろすと思うのか? 違うだろう? さあ、チャックを下ろして、俺のペニスを取り出すんだ。・・・・早くしないか!!」
ぼくは、慌てて露木のそばに跪いて、ズボンのチャックを下ろした。
「ベルトは?」
「このままいくぞ。トランクスを下ろして、取り出せ」
言われるままに、ぼくは露木のトランクスを下げて、ペニスを外に取り出した。
「あとは今までと同じだ。さあ、やってくれ」
(2時間前も射精したのに、出るんだろうか?)
そう思いながら、露木のペニスに舌を這わせた。
「もう少し、恍惚とした表情を見せろ」
「恍惚?」
「気持ちがいいって言う表情だ!」
頭をばしりと叩かれた。ぼくは、うっとりとした表情を浮かべた。・・・・そんな表情をしたと思う。
「それでいい。合格点だ。お客に対しては、いつもその表情だ。いいな」
ぼくは、頷く。頷かざるを得ないのだ。
「今度は、俺のほうは腰を使わないから、おまえの方が頭を動かすんだ。いいな」
両手でペニスを握り締めて、頭を一生懸命動かした。次第に硬度を増してきて、ついにぼくの口の中へ射精した。ぼくは今朝と同じように、要領よくそのすべてを飲み下した。
「だんだんよくなる法華の太鼓。おまえ、上達が早い。いや、掘り出し物だ」
感心しながら、露木は部屋を出て行った。
(こんなことに才能があっても仕方がないんだけど・・・・)
なんとかひとりで化粧ができるようになるまで一週間かかった。その間に、露木からディープキスの仕方を叩き込まれた。
露木の膝のうえに抱かれて、両腕を首に回して、差し入れられた舌を吸った。ディープキスは・・・・好きだ。ねっとりとした舌の感触がたまらない。ヤニ臭くなくて、相手が男じゃなかったら、最高だ。もちろん、そんなことは露木には漏らさなかった。
フェラチオは毎日練習だと言ってさせられた。フェラチオ自体は慣れてしまえば、何と言うことはない。ペニスだと思わなければいいのだ。ただの肉の塊だと思えばいい。だけど、射精された精液を飲み込むのだけは、いつまでたってもいやなものだった。
いつものように、ディープキスとフェラの練習が終わったあと、露木がズボンをあげながら言った。
「そろそろ着るものを用意しなければならんな」
ぼくは、この8日間、ずっと裸で過ごしていた。部屋の中はエアコンが入っているから、裸でいてもまったく問題がなかったのだ。
露木は、携帯を取り出して電話し始めた。
「早苗、事務所にきてくれないか? あのお嬢さんに、着るものを用意して欲しいんだ。ああ、できるだけ早く頼む」
(着るものって、女物なんだろうな)
そう思っていた。
30分ほどして、早苗がやってきた。
「さあ、そこに立って。サイズを測るからね」
ぼくはまだ裸のままだけど、早苗の前で裸でいることにはもうなれた。冷たいメジャーに鳥肌が立った。
「胸周りは、・・・・76。胴回りは、・・・・64。腰周りは、・・・・84と。あなた、男の子にしては細いわね」
ぼくは黙っていた。
「肩幅は・・・・」
ぼくが無視するものだから、早苗も黙って計っている。まるで、スーツを作るときのように、いろんな部分の長さを計っていた。
「さあ、これでいいわ。明日、着るものを持ってきてあげるからね」
夕食が済んで、露木がやっぱりやってきた。毎日朝晩、こうしてぼくのコーチをする。よく飽きないものだと思う。
「もう少し、女らしい仕草をしないか!」
仕草や言葉遣いも、女らしくすることを強要されていた。
(あの契約書さえなかったら・・・・)
何度そう思ったことか知れない。
「おまえのフェラは最高にいいぞ」
今晩も、ぼくは露木の精液をごくりと飲み込んだ。
「明日は、いよいよデビューだからな」
ぼくは愕然とした。いまのままなら、露木だけを相手にしていればいい。だけど、デビューということは、ニューハーフヘルスで、不特定多数の男を相手にしなければならないのだ。ぼくは、絶望のあまり項垂れていた。
「おまえの源氏名は、本名を使って明子にしておいたぞ。いいな」
(明だから明子か、ずいぶん短絡的だな)
そう思った。
部屋を出て行くとき、露木は思い出したように、手にしていた袋をぼくに放り投げてきた。
「これはご褒美だ」
袋を開けてみると、トランクスとランニングシャツが入っていた。ぼくはシャワーを浴びると、早速それを身につけて寝た。久しぶりの衣服の感触は心地よかった。