第5章 屈辱

 水本は、地下室の中で震えていた。頭から血を流して横たわる立花の姿を思い出すたびに涙が出た。
 身代金が、500万ドルに値上げされたと通訳の男から聞いた。そんな大金を支払ってくれるはずはないと思った。もう絶望的だった。
 水本は、日本にいるとき見たビデオ映画を思い出す。映画の中では、ヒーローが人質を助け出す。しかし、現実はそうもいかないだろう。水本は、映画の中のヒーローのことよりも、脇にいる無能な将軍たちを思い出す。
 「人質よりもゲリラの一掃が最優先だ!」
 そんな作戦が実行されないという保証はない。水本が殺されてしまうことで世論を高揚して、ゲリラへの攻撃が正当化されるのだ。水本は人身御供にされるのだ。
 そんな想像をしてしまった水本を死の恐怖が怯えさせた。裏切られたけれど、今まで支え合ってきた立花がいなくなり、ひとりぼっちになってその恐怖は倍加した。

 立花が殺されてから丸一日が経過して、水本はようやく気を取り直した。
 (まだ死んだ訳じゃない。生きている限り、希望は持とう)
 そんな決心をしたとたん、腹が鳴った。
 (そう言えば、食事にありついていない・・・・)
 地下室に戻されてから、食欲もなく絶望していたから、食事が提供されていないことに気がつかなかったのだ。
 (餓死させるつもりなのだろうか?)
 食べ物はおろか、水すらも与えられていなかった。
 (ヒトは一週間水を飲まなければ死んでしまう。ここに来るまでもかなり脱水状態になっている。一週間も保たないかもしれない・・・・)
 真綿を締められるように死に向かっていると知って、水本の心は再び恐怖に陥った。
 (ああ。こんなことなら、銃で撃たれた方が楽だった)
 空腹、喉の渇きは極限に達していた。しかし、どうしようもなかった。泣いても喚いても助けは来てくれないとわかっていた。
 絶望だけが、水本の心を支配していた。

 ドアが開いた。食事を持ってきてくれたのかと思って顔を上げると、兵士は手に何も持っていなかった。
 「Come on!」
 (ついに殺されるのだろうか?)
 恐怖が水本を支配した。足が震え、力が入らなかった。兵士がふたり入ってきて、水本を支えて連れ出そうとする。
 「イヤだ! イヤだ!! どこへも行かない! イヤだ! 助けてくれ!!」
 力の限り暴れて、足をバタバタさせた。
 「Shut up!!」
 頬を撲たれ水本はガックリと力を抜いた。兵士たちに引きずられるようにして、ミゲルの部屋に連れて行かれた。
 水本を連れてきた兵士たちは出ていき、部屋の中にはミゲルと通訳の男、幹部らしい兵士がふたりいた。ミゲルは正面の椅子に腰掛けていて、通訳の男はミゲルの左側に、ひとりはミゲルの右側、ひとりは水本の後ろのドアのそばにいた。
 立花が流した血の跡が床に残っていた。水本はゴクリと唾を飲んでミゲルを見つめた。
 「身代金は支払われない」
 通訳の男がぼそりと言った。
 「ぼくは、・・・・ぼくはどうなるんだ?」
 「役に立たないものは死ぬしかない」
 「そんな。イヤだ!」
 水本は泣きわめいた。通訳の男が、ミゲルと何か喋り始めた。
 「わたしには、決定権はない。最後の決定はミゲルが下す。ミゲルに命乞いをするんだな」
 水本は、涙を流しながら、ミゲルの足元に近寄って両手を合わせて頭を下げた。
 「お願いだ。お願いだよ。ぼくを殺さないで。死ぬなんてイヤだ・・・・」
 ミゲルが何かを言った。すると、通訳の男と、そばにいた男が部屋を出て行った。部屋の中には、ミゲルともうひとりの兵士が残った。
 ミゲルが、銃を取り出して机の上に置いた。ゴトンと言うその音に水本は飛び上がる。
 「You! Can you do what I want?」
 ミゲルの言葉を頭の中で考えてから、水本は答えた。
 「Yes!」
 「Good. Come on!」
 ミゲルが手招きするので、水本は膝をついたままミゲルに近寄っていった。
 「Suck my dick!」
 そんな英語は学校では習わない。しかし、水本は知っていた。
 「Never! I never!!」
 水本は立ち上がって逃げようとした。すると、ドアのそばにいた兵士に押し返された。
 「Do you wanna be die?」
 ミゲルが冷たく言い放った。
 「No! No, I don't」
 「If you wanna be alive, You must follow my commands!!」
 水本は、髪の毛を掴まれて、ミゲルの前に跪かされた。
 「I say again. Suck my dick!」
 「Never!! Never!!」
 抵抗を続けていいると、ミゲルは拳銃を手にした。
 「Open your mouth!」
 「No! I don't」
 銃口が口元に押し当てられた。水本が口を開くと、銃身が口の中に押し入れられる。
 「You must be die!」
 引き金が引かれた。

 ガシャッと言う音に水本は尻餅をついていた。弾は出てこなかった。ミゲルは引き金を何度か引いた。やはり弾は出てこない。銃には初めから入っていなかったのだ。
 「はっ、はっ、はっ!」
 ミゲルと兵士が面白そうに大声で笑った。
 「I give you thinkinng time」
 ミゲルが大声を出すと、兵士が部屋に入ってきた。水本は地下室に放り込まれた。
 (何も食わせて貰えない上に、フェラチオするくらいなら、死んだ方がましだ)
 ミゲルのひどい仕打ちに悔し涙を流した。

 それから一時間後、水本は再びミゲルの部屋に連れて行かれた。
 「Chage your mind?」
 「Never!」
 水本が答えると、ミゲルは銃を天井に向けて撃った。今度は実弾が飛び出て天井に穴を空けた。
 「Suck my dick!!」
 「No!!」
 兵士が水本をミゲルのそばに引き立てていった。
 「Suck!!」
 ミゲルが水本のこめかみに銃をあてた。
 「No・・・・」
 口ではそう言っているのに、水本の手はミゲルのズボンのチャックをゆっくりと引き下ろしてブリーフの中からミゲルのペニスを取りだしていた。
 「OK. You are a pretty girl.」
 『girl』と言われたことに、悔しさが込み上げてきた。しかし、もうどうでもよくなっていた。水本は、ミゲルのペニスを口の中に含んで舌を使った。
 「Don't bite!」
 銃口が押しつけられた。水本は歯があたらないように銜えなければならなかった。
 「wow, wowooo・・・・」
 ミゲルは、マリアが死んでから女には接していないらしく、すぐに先走り汁が出てきた。ミゲルは、水本の頭を押さえつけて、腰を前後に動かし始めた。
 口の中でミゲルが大きくなってきたと思った瞬間、水本は喉の奥に注ぎ込まれてくる粘液を感じた。
 髪の毛を掴まれて押さえつけられていて逃げられなかった。
 「Don't bite!!」
 水本は口を開いてミゲルのペニスを銜えたまま泣いた。涙が頬を伝い落ちた。

 地下室に戻され泣いていると、アルマイトの皿が差し入れられた。何という種類かはわからないが、イモが二本載っていた。ガラナジュースらしい飲み物が添えられていた。
 水本は、ジュースを半分ほど一気に飲み干してから、イモを噛った。
 (何てまずいんだ)
 味も素っ気もないイモだった。しかし、食べ物はそれしかないのだ。減った腹を満たすために水本はそのイモを食べた。

 ミゲルに対する奉仕は一回では終わらなかった。翌日も午後八時頃になったとき、ミゲルの部屋に連れて行かれてフェラチオを強要された。
 拒否したが、銃で脅され殴られた。やらなければ食料を与えないと言われた。あのまずいイモでさえ食べないよりはましだった。食べるものを手に入れるためにはやるしかなかった。それに、昨日やれて、どうして今日やれないのだと言われれば、今更拒否などできようもなかった。
 前日もそうだったが、ミゲルは身体を洗っていなかった。敢えて洗わないで水本にフェラチオをさせていると思われた。
 耐えられない臭いを我慢しながら、水本は舌を這わせた。人間の嗅覚はすぐに麻痺する。どんなに臭くてもすぐになれてしまっていた。
 前日とは異なって、ミゲルはなかなか行かず、30分あまりもの間、喉の奥を突かれ続けた。
 その夜与えられた食料は、やはりあのまずいイモ3本とトロピカルフルーツのジュースだった。

 水本に与えられる食物は、一日にまずいイモが4、5本と、ガラナジュースかトロピカルフルーツのジュースが朝夕一杯ずつだった。腹は減るのだが、既に限界まで痩せていたせいもあるが水本の体重はそれほど減らなかった。
 (このイモ、栄養価が高いみたいだな)
 他に考えようがなかった。最初はまずいイモだと思ったが、毎日のように食べさせられていると、甘いよりもいいと思うようになった。米にしろ小麦にしろ、毎日食べるものにそれほど美味いものはないのだ。

 ほとんど毎日のように、ミゲルの部屋に呼ばれた。時にはミゲルばかりでなく、一緒にいる幹部兵士にもフェラチオをするように強要された。水本は従わざるを得なかった。
 一度だけ、どうしてこんなことをさせるのかミゲルに聞いてみたことがあった。ミゲルは答えた。人民を搾取する日本人に恥を掻かせてやりたいのだと。つまり、水本は日本人を代表して、屈辱を受けさせられているというわけだった。
 (何故自分がこんな屈辱を受けなければならないのか!)
 そう思ったが、それが運命だと諦めざるを得なかった。

 一ヶ月もすると、水本はミゲルの部屋に呼ばれると、やれと言われる前にミゲルのズボンをおろしてペニスにむしゃぶりつくようになった。水本はフェラチオという行為を楽しむようになっていたのだ。
 ペニスのいろいろな場所に舌を這わせてやると、ミゲルがうめき声を上げる。そのうめき声の調子で、どこが一番感じるかわかるのだ。
 それにミゲルの心理状態もある程度把握できる。作戦がうまく行っているかいないか、緊張の度合いでわかるのだ。政府軍に打撃を与えたときなどは、元気いっぱいでギンギンに怒脹していた。うまく行っていないときには、半立ちのこともあった。もちろん、ゲリラ側の受けた打撃があまりに大きいときには、水本を呼び寄せることなどなかった。

 通訳の男は、身代金は支払われないと水本に言ったのだが、身代金交渉は依然として続いていた。
 人質がまだひとり残っていることと、その人質確保や監禁に多少とも費用がかかっていること、それに何よりゲリラ側には身代金が必要だったからだ。
 反政府ゲリラ活動というものは、金がかかる。銃器や爆薬を買う費用はもちろんのこと、兵士を養っていくのにも莫大な金がかかるのだ。
 反政府シンパによる援助もあるが、ビン・ラディンほどの金持ちからの援助は一般的には少なかった。その金銭確保のために、誘拐や麻薬の売買が反政府ゲリラの手で行われていたのだ。
 水本に言ったように、いったんは500万ドルに値上げされた身代金は、現実的な金額ではないことがゲリラ側にもわかっていた。いくらで妥協するかが問題で、できるだけ多く取りたいゲリラ側と支払いを少なくしたい政府側の駆け引きが続いていた。
 水本が、男が男にフェラチオをするという屈辱を受けていた頃、ゲリラ側の要求は80万ドルまで値下げされていた。しかし、政府側は50万ドルしか出せないと言って譲らず、睨み合いが続いていたのだった。
 未だに交渉が続いていて、交渉が決裂しない限り殺されることがないことを知らない水本は、殺されないために、食料を得るためにフェラチオをやっていた。それは仕方のないことなのかもしれなかった。