第六章 処女喪失

 悦子のマンションに帰り着き、着替えをしていると、高原が感心したように言い出した。
 「朱美。随分女らしくなったもんだな」
 それは自分でも感じていた。理由も明らかだ。タイに行く前は、スカートの下から覗かれたら、ペニスの膨らみが見えて、男だと見破られるのではないかと、内心どきどきしていた。今は違う。覗かれたって大丈夫だと思うと、気持ちに余裕ができたのだ。その分女として楽に振る舞えるようになったのだ。
 「そうかしら」
 「あとは胸だが、ホルモンは飲んでるか?」
 「昨日から飲んでるよ」
 「よしよし。ホルモン飲んで、胸がどれくらい大きくなるのか、俺にも興味があるから、ビデオをずっと撮ってやるからな」
 「大きくなるのかなあ」
 「ドクターは個人差があるといってたな」
 「もう手術したくないから、うんと大きくなるといいな。じゃあ、高原さん、わたし、シャワーを浴びても良い? 汗かいちゃたから」
 「どうぞ」
 俺がシャワーを浴びていると、悦子が遅れて帰ってきた。高原に買い物を頼まれたようだ。
 「買ってきたわよ。ああ、疲れた。帰ってきたばかりなのに、こき使うんだから」
 「すまん、すまん。頼んだことやってくれるか?」
 「はいはい。でも、下の方はいいの? ガードルかなんかなくて」
 「もういらないんだ。ちょっと見てみるか? 今シャワーを浴びているから」
 「えっ!? どういうこと?」
 「まあ、覗いてみな」
 俺はシャンプーしていたから、そんなふたりの会話がよく聞こえた。ふたりがバスルームに入ってきて、ドアをがらりと開けた。
 「恥ずかしいじゃないの。向こうへ行ってよ」
 「朱美。こっちを向いて、悦子に見せてやってくれ」
 嫌だと言っても、無理矢理悦子に見させることは分かっているから、俺は女らしく恥ずかしそうな格好で、ふたりの方を向いた。
 「えっ!? 何? ええっ! あなた、・・・・ないじゃないの。ど、どうしたのよ?」
 高原は、悦子に俺の手術のことを言ってなかった。悦子は俺の声がおかしいのには気付いていたが、まさか性転換しているとは、夢にも思っていなかったのだ。
 「わたし、女になったの。そういうこと」
 「信じられないわ。胸は? 胸はどうするの?」
 「そのうちね」
 悦子は、目を丸くしたまま、バスルームを出ていった。シャンプーを洗い流して、髪の毛を拭きながら、出ていくと、ショーツの下に、幅の少し広いブラジャーが置かれていた。ブラジャーのカップの中には、シリコンの人工乳房が縫い込まれていた。
 俺は、ブラジャーとショーツだけの姿で、リビングに入っていった。
 「ブラボー! いいじゃないか」
 「へええ、朱美さん。結構、ナイスバディね」
 「ありがとう。悦子さん、何してるの?」
 「何してるはないでしょう? あなたのために、ボディスーツから、人工乳房を取り出して、このブラジャーに縫い込んであげてるのよ」
 「わあ、ありがとう。これで、暑苦しくなくなるわ」
 「それは、よござんした」
 それから三人で、夕食を摂りに行った。以前も俺が男だと気付かれたことはなかったが、今日は、誰もが俺のことを本物の女だと思っているようだ。

 高原が帰って、悦子とふたりきりになった。悦子が俺に近づいてきて耳元で囁いた。
 「ねえ、朱美ちゃん。さっきは驚いて、よく見なかったんだけど、もっとよく見せて貰える?」
 そう言うだろうと思った。
 「いいよ」
 俺はベッドに仰向けに寝て、膝を立てた。悦子が、じっと見ている。
 「よくできてるね。毛が生えそろったら、分からないでしょうね」
 「そう思う?」
 「余程見慣れていないと分からないと思うわよ」
 「やったあ」
 「朱美ちゃん、あんた。ほんとに女になりたかったの? 高原に無理矢理女にされたんじゃないの?」
 「無理矢理女にされたのは、確かだけど、今の状態に満足してるよ」
 「理解できないわ。あんたの気持ち」
 「わたしは、その時の状態に満足できればいいの。過去を振り返るなんてまっぴら。今が一番幸せと思っていたら、不幸なんて感じないでしょう?」
 「ううん。そういうものかな」
 幸せ、不幸せは自覚的な問題だ。他人が見て、どんなに不幸に見えても、本人が幸せと思っていれば、それはそれでいいのだ。俺が、無理矢理女にされて、悦子は可哀想にと思っているのかもしれない。しかし、俺は、男であったことなど忘れて、女として精一杯生きようと思っているのだ。
 こんな生き方は、おふくろにも言えることかもしれないなと思う。あんなぐうたら親父を売春までして食わせている。他人の目から見れば不幸に見えても、おふくろにしてみれば、あれはあれで幸せなのかもしれない。おふくろの気持ちが少し分かったような気がする。

 翌日、悦子が仕事に出かけて一時間ばかりたったとき、高原がやってきた。
 「朱美。いつ頃できそうだ?」
 「いつ頃って、セックスのこと?」
 「もちろん、そうだ」
 「ドクターは何て?」
 「二月後くらいにはいいだろうと言ってたが」
 「まだ、三週間も経っていないのよ。絶対無理」
 「そうか。じゃあ、仕方ないな。腟があるのに、後ろでやるというわけにもいかないしな」
 「傷はともかく、まだ狭いから、入らないと思うわ。もう少し拡張するまで待って」
 「分かった。カメラマンも見つからないから、待つしかないな」
 やっぱり、高原は俺に女としてセックスさせるつもりだ。しかもビデオも撮るのは確実だ。今なら逃げ出せないことはない。俺は男じゃないから、男だったときの、あんなビデオをばらまかれても、俺じゃないと言えば済む。しかし、今のこの俺の姿では、女としてはまだやっていけない。金もないし、結局ここに留まるしかないのだ。

 それから三週間ほどして、1・1/2インチの拡張棒が楽に入りだした。無理すればセックスもできないこともないが、もう少しだ。
 毛が生えそろってきた。鏡で見ても、傷跡はまったく見えず、どう見ても女のものに見える。あのタイのドクターは腕がいいんだなと思う。
 鏡を見ながら、一番上に付いている隆起に目がいった。これはクリトリスと言ったな。これを触ってやると、悦子は悶えていたが、どんな感じなんだろう? 俺は、中指でそっと自分のクリトリスを触ってみた。
 亀頭の先端をこすっているような刺激があった。気持ちよかった。ゆっくり触っていると、体の芯に、えもいわれぬ感覚が沸き上がってきた。俺は夢中になって、クリトリスを刺激し続けた。体が火照り、頭の中が空っぽになるような感じと共に、俺は、・・・・いってしまった。いったのだと思う。しばらくベッドの中で動けなかった。股間がびしょびしょに濡れていた。
 俺は、さらに拡張棒を腟の中に入れて、出し入れしながら、クリトリスを刺激した。もう気が狂わんばかりになった。俺は、女としてセックスができそうだ。拡張棒がペニスだったら、きっと気持ちいいんだろうなと思った。

 女としてやっていける自信ができた俺は、悦子がいないとき、ひとりでウインドウショッピングに出かけるようになった。時々ナンパされることがある。気に入った相手とは、お茶くらいは飲む。男はまったく気付かない。俺は満足している。
 半年前、男として、新宿をうろついていた頃、誰も俺のことを気に掛けるやつはいなかった。小汚い浮浪児として、唾を吐きかけられ、見下されるのがおちだった。胸が大きくなりさえすれば、俺は、この男たちとだって女としてセックスを楽しめる。そう思うと嬉しかった。

 高原は、三日おきくらいにやってきて、俺が拡張をしている姿をビデオに撮るのだが、手術して、二ヶ月経ったある日、痺れを切らしたように言い出した。
 「朱美。もうできるんじゃないか?」
 「これなら入るけど、これ以上太いと無理だと思うわ」
 「この太さねえ・・・・」
 高原は、俺の中から抜かれたばかりのシリコン棒をまじまじと見つめた。
 「トイレ行って来るから」
 「トイレ? 小の方か?」
 「そうよ」
 「ちょっと待て。ちょっと、そこで待ってろ」
 「漏れちゃうわ。何すんのよ。早くしてよ」
 高原は、鞄の中から、何かを取り出した。
 「何? それ」
 「水中撮影用のビデオ」
 「水中撮影用のビデオ? 何すんの?」
 「朱美! バスルームへ行け」
 「トイレに行きたい」
 「いいから、早くバスルームへ行け」
 何するつもりだろうか? 俺にはさっぱり分からない。漏れそうになるのを堪えながら、俺は渋々バスルームへ入っていった。
 「イスの上にこっちに向かって座れ」
 「えっ!! まさか、小便するところを撮るつもりじゃないだろうね」
 「そのまさかさ。早くしろ」
 俺は、仕方なく、イスの上に座った。
 「そんな顔してないで、男を挑発するような顔をするんだ」
 「それより漏れそうだよ」
 「もう少し我慢しろ。そうだ。その表情だ。いいぞ、いいぞ」
 「漏れちゃう!」
 「よし! やってもいいぞ」
 俺は、イスの上から、カメラに向かって小便した。手術してすぐのようには散らばらず、一ヶ月くらい前から、きちんと狙い通りにできるようになっていた。
 カメラを構えた高原の顔に俺の小便がかかるが、高原はまるで雨に濡れているような顔をしてビデオを回し続けていた。まったく、高原のプロ根性というか、こんな変態ビデオに対する思い入れには感心してしまう。
 「こんなの売れるの?」
 「売れるさ。女のが売れるんだ。性転換した女が小便するところなど、今まで誰もビデオに撮っていないから、これは売れるぞ」
 高原は、浮き浮きしている。俺は、恥ずかしかった。セックスしているビデオより、遙かに恥ずかしかった。

 翌日も高原は、マンションへやって来た。雰囲気からすると、俺とやりたそうだ。悦子が仕事に出かけたあとにやってきたことからもそのことが分かる。俺の入れてやったコーヒーを飲みながら、遠慮がちに言い出した。
 「俺のだったら、入らないか?」
 「分かんないよ」
 高原のなら入りそうな気がしたが、俺ははっきりとは答えなかった。男の自尊心を損なうようなことは言えない。
 「朱美。やってみよう」
 「やってもいいけど・・・・」
 「俺とじゃ、イヤか?」
 「そんなことないけど」
 「じゃあ、いいじゃないか。やろう」
 「高原さん。女とするときは、いつもやろうのひと言なの?」
 「なんだって?」
 「少しはムードというものがないと・・・・それに、ここじゃあ・・・・。わたし、初めてなのよ。処女なんだから、どこかいいところに連れていってよ」
 ここで無理矢理やられても、俺には文句は言えないのだが、俺は高原に甘えた声でそう呟いてやった。高原は処女という俺の言葉に、心動かされたようだ。男は、誰でも処女とやるのが好きだ。
 「贅沢言い出したな。まあ、いいか。腹も減ったし。連れていってやる。着替えて付いてこい」
 「わあ、ありがとう。高原さん、大好き」
 俺は、高原に抱きついてキスしてやった。高原は、照れくさそうにしている。女になった以上、女としての武器は最大限に使わないとな。俺は、お気に入りのワンピースを着て、高原の車に乗り込んだ。

 ワインを飲みながら、今まで食ったこともないフランス料理を、ふたりで食べた。店員たちは俺たちのことをどう思っているのだろう。俺はどう見ても、十七,八にしか見えない。高原は、四十前くらいだろう。親子か? 援助交際か? 後者だろうなと思う。俺たちはぜんぜん似てないからな。
 高原は、車を赤坂プリンスへ走らせた。スカイラウンジでカクテルを一杯飲んでから、部屋に行った。凄く立派な部屋だ。かなりする部屋だと思う。初めて男とするには豪華すぎるくらいだ。
 シャワーを浴びていると高原が入ってきて、抱きしめられて、キスされた。俺をまるで本物の女のように扱ってくれる。以前、高原としたときは、不快感ばかりだったが、今日はそんな感じはしない。
 抱きかかえられてベッドに運ばれ、体中を愛撫された。クリトリスを舌で嘗められたとき、体中に電撃が走ったようになった。
 「朱美。おまえ、濡れるんだな」
 「そう?」
 そう答えたが、濡れているのは俺自身自覚できていた。この部屋に入る前から、俺は興奮状態だった。
 「タイのドクターが、濡れるのは可能だとは言っていたが、こんなになるとは思わなかったよ」
 「恥ずかしいから、濡れる、濡れるって言わないでよ」
 「じゃあ、処女喪失といくか」
 俺は仰向けになって、膝を立てる。高原が俺の顔をじっと見つめながら、ゆっくりと入ってきた。やはり痛い。まだちょっと無理だったかもしれない。
 「痛い!」
 「我慢しろ。少しは痛いさ。おまえは処女なんだからな」
 そう言われて、俺は、じっと我慢した。痛いのは痛いのだが、初めて銀次に肛門に突き刺されたときのことを思えば、そんなには痛くはない。
 高原が腰をゆっくり動かす。痛みはあるが、何とか耐えられそうだ。高原の動きが次第に激しくなっていった。痛みがもうなくなって、気持ちよくなってきた。大丈夫だ。いけそうだ。
 高原が、ううっと声を上げて、俺の中で果てた。俺も気持ちよかったが、もうちょっとだった。オナニーしたときの方がよかったが、そんなことを高原には言えなかった。
 「高原さん、とってもよかった」
 「俺もだ。思ったよりよかったぞ」
 「ほんとに?」
 「ああ、本物の女よりいいくらいだ」
 「嘘じゃないのね」
 「嘘言ったってしょうがないだろう?」
 高原は俺に軽くキスしてくれた。俺はなんだかすごく嬉しくなった。ふたりで冷蔵庫からビールを出して乾杯した。
 「朱美、気分はどうだ?」
 「とってもいい。本物の女になれた気分よ」
 「おまえには罰を与えてやったはずなのに、こんな風になるとは思ってもみなかったよ」
 「わたしだって」
 オナニーしたときくらい感じたくて、高原に甘えて、もう一度して貰った。今度も今一歩だった。ただ、シリコンの拡張棒よりは、本物のペニスの方がいい。
 高原の腕に抱かれて眠った。俺は一人っ子で、親父は飲んだくれ。おふくろは、夕飯を作ってくれるものの、優しく抱かれたことなど無かった。高原が俺のことを愛してくれるなどとは夢にも思わないが、今は俺を優しく抱いてくれている。それだけでも俺は満足だった。

 翌朝、高原が車で送ってくれた。高原は、悦子にばれると喧嘩になることが目に見えているから、マンションの下で俺を降ろすと、早々に引き上げていった。
 悦子に、何と言い訳しようか? エレベーターで昇りながら、俺は思案を巡らせた。困ったなあ。結局言い訳を思いつかないまま、部屋のドアを開けた。
 ところが、悦子はマンションに帰っていないのだ。どこに行っているのだろう?
 コーヒーを沸かして飲んでいると、午前八時過ぎ、悦子が帰ってきた。
 「悦子さん、どこに行ってたの?」
 「朱美ちゃん。高原には、帰らなかったことは内緒にしていて。お願い!」
 そう言って、悦子は俺に、一万円札を何枚か手渡した。悦子は、どうも浮気をしていたみたいだ。よかった。言い訳しないで済んだ上に、小遣いまで手に入った。俺は内心ほくそ笑んだ。一万円札は五枚あった。

 二週間後、高原から声が掛かった。ビデオ取りするというのだ。俺は、高原だけに抱かれたかった。もう銀次とはしたくなかった。ましてやビデオなんて撮って欲しくはなかった。しかし、高原の言うことは聞かないわけにはいかなかった。
 いつもとは違うホテルに行って、ビデオを撮ることになった。カメラ係は結局見つからず、高原が撮ることになった。男だった俺が、銀次のために女になって抱かれると言うストーリーだった。
 撮影は途中までは順調に進んだ。ところが、いざ本番となったところで、銀次が萎えてしまったのだ。こんなことは今まで一度もなかった。
 「何やってんだ。銀次。しっかりしないか」
 「兄貴、済みません。だめです。立たないんです」
 銀次はベッドの上でうなだれている。銀次のペニスもだらしなくだらりとぶら下がっていた。
 「いつも立つじゃないか。どうしてだ」
 「兄貴、・・・・俺は男が、・・・・男が相手じゃないと立たないんです」
 「朱美は、男じゃないか」
 「それでもだめなんです。後ろなら、なんとかやれそうですけど・・・・」
 「馬鹿言うなよ。何のために、高い金を出して腟を作ってもらったと思ってるんだ」
 「済みません」
 銀次は、完全なホモだ。腟のある俺とはできないのだ。銀次を笑うことは、俺にもできないが、銀次もかなりおかしなやつだ。
 「ええい、仕方がない。俺がやる。最初からやり直しだ。銀次! ビデオを回せ」
 赤坂プリンスでは、俺はただ、高原の為すがままにされていたが、フェラチオをやってやり、高原の乳首を咬んでやった。高原はかなり興奮した様子で、正常位から、騎上位に移り、最後にバックで俺の中で弾けた。
 今日は、俺も完全燃焼した。頭の中が一瞬真っ白になった。オナニーではなく、男を相手にしたセックスで、俺はいくことができた。嬉しかった。銀次はそんな様子を見て、羨ましそうにしていたが、立たない銀次が悪いんだ。
 その後も二,三回ビデオ撮りが行われたが、やはり銀次はだめで、カメラ係だった。