第四章 銀次のアイデア

 気がつくと、うす暗い部屋のベッドの上に寝かされていた。じめじめして、かび臭いにおいがした。何処かのビルの地下室にいるようだ。頭や顎の至る所が痛い。かなり殴られたからな。
 起きあがって周りを見回す。六畳くらいの狭い部屋だ。物置に使われている部屋のようだ。俺は、素っ裸だ。どうやって裸の俺をここまで運んできたのだろうか? ベッドの周りを探してみたが、何も着るものがない。
 ドアを開けて部屋の外に出ると、階段がある。上がったところのドアには鍵が掛かっていて、外には出ることができない。
 階段を降りて、横を見ると、小さなドアがあった。開いてみると、狭い和式のトイレだった。
 しばらくして、がちゃがちゃと鍵を開ける音がした。誰かが階段を降りてくる。銀次だった。
 「目が覚めたか」
 「銀次さん、ここはどこだよ」
 「兄貴が持ってるビルの地下室だ」
 東京でビルを持っているなんて、信じられない。
 「高原さんは、ビルなんて持ってるの?」
 「兄貴は、いろいろ手広くやっているからな」
 「高原さん、怒っているだろうね」
 「当たり前だ。おまえにペニスを咬み千切られるところだったんだからな」
 「いま、どうしてるの?」
 「病院に決まってるだろう。ペニスに包帯巻かれて、ベッドに寝ているよ」
 ペニスに包帯を巻かれてベッドに寝ている高原を想像して、俺は腹の中で笑った。
 「大丈夫だったんだね」
 「辛うじてな。だが、えらく怒ってたから、どうなっても知らんぞ」
 銀次と話しながら、銀次の背後を窺うと、階段の上のドアが少し開いているのが見える。逃げ出せるかもしれない。
 「おい、健。逃げ出そう何て考えてるんじゃないだろうな?」
 「い、いや。そんなことはないよ。逃げ出そう何て」
 「そうか? 逃げなきゃ、何されるか分からないぞ」
 「何されるか分からないって!? じゃあ、銀次さん、逃がしてくれよ」
 「だめだ。そんなことしたら、俺が殺される」
 「どうすれば良いんだ」
 「兄貴が退院してくるまで、ここに閉じこめておけという命令だ」
 俺は、銀次の横をすり抜けて、階段を昇ろうとした。
 「健! 上にはトシが見張ってるぞ。それに、おまえは金も持ってないし、そんな格好で逃げ出すつもりか?」
 銀次の言う通りだ。金もなくて、素っ裸で逃げ出せるわけがない。
 「どうしても逃げ出したかったら、逃げ出してもいいぞ。その代わり、おまえの映ったビデオを日本中にばらまくぞ」
 俺は諦めて、昇り掛けた階段を降りて、ベッドの上に座った。あんなビデオをばらまかれたら、恥ずかしくて生きていけない。
 「いつ退院して来るんだよ」
 「さあ、一週間か十日先だろう」
 「そんなに?」
 「そうさ」
 「腹減ったなあ。何か食わせてくれよ」
 「食い物は、ただじゃないんだぞ」
 「金は払うよ。俺の通帳は? ズボンのポケットに入っていただろう?」
 「あれは預かってるよ。だが、引き出しに行けないだろう」
 銀次がにやにやしながら、俺に近寄ってきて、俺の肩を抱いた。銀次の魂胆は見えている。
 「なあ、健。三度三度の飯を運んでやる。その代わり、どうだ?」
 嫌だと言ったら、飯が食えない。飯を食うためにやっているのは、いつものことだ。俺は、頷くしかないのだ。
 「服も持ってきてくれよ」
 「おまえの服か? おまえの服なら上に置いてある。おおい、トシ! 健の服を持って来い」

 銀次は、約束通り、三度の食事を運んでくれた。最初の三日間は、毎日付き合わされたが、その後は二,三日に一回だった。

 二週間ほど経ったある日、銀次が、退屈だろうと差し入れてくれたヘッドフォンステレオをベッドの上で聴いていると、上のドアが開けられた。まだ十時だった。昼飯には少し早すぎる。
 降りてきたのは、高原だった。鬼のような凄いその形相に、俺は縮み上がった。銀次とトシの姿が後ろに見えた。
 「健、よくもやってくれたな」
 「悪気はなかったんです。許してください」
 俺は土下座して、高原に謝った。高原の様子を見ていると、銀次の言ったように、何をされるか分からなかった。
 「許さん! 許してたまるか。大事なところを台無しにされるところだったんだからな」
 俺は高原に蹴飛ばされた。鼻血がぼたぼたと流れ出た。
 「済みません、済みません」
 「役に立たなくなったら、おまえを生かしちゃおかんとろこだったが、健、良かったな。元には戻った。だが、俺にこれだけの苦痛を与えたんだ。それなりの代償は払って貰う」
 「代償って?」
 俺は恐る恐る顔を上げて高原の顔を見た。高原は薄笑いを浮かべて言った。
 「おまえのペニスをちょんぎってやるんだ」
 「ええっ!!」
 「銀次、トシ! 健を押さえろ」
 高原の目は本気だ。俺は、逃げだそうとした。しかし、銀次とトシに組み止められて、ベッドへ押し倒された。トシが俺を羽交い締めにし、銀次が俺の両足を押さえつけた。銀次を蹴飛ばして逃げようとしたら、銀次に思い切り殴られた。
 「健! 諦めて観念しろ」
 「いやだ。いやだ」
 高原が、ナイフを手に俺に近づいてくる。俺は恐怖におののいた。高原が俺のペニスを抓んで、ナイフを当てた。
 「止めてくださいよう」
 「無くなったって、死にはしない。女とできなくなるだけだ。小便もできるし、ビデオの仕事も続けられる」
 「わあああっ」
 高原が、俺のペニスを切ろうと力を入れたその時、銀次が力を緩めて、高原の方を向いた。
 「兄貴、ちょっと、兄貴」
 「銀次、あとにしろ。しっかり押さえてろ」
 「兄貴、ちょっと、話しがあるんですけど」
 「何だ? あとにしろって言ってるだろう」
 「俺の話を聞いてください。話を聞いてからでも遅くないでしょう?」
 「いったい、何の話しだ」
 高原が俺のペニスから手を離し、銀次と共に階段の方へ歩いていった。銀次が高原にぼそぼそと耳打ちしている。
 「何? ・・・・何だって? なるほど・・・・。そうか、それは良いアイデアだ。うん、なるほど。いいぞ。それは面白い」
 何を話しているのか分からないが、銀次が俺を助けてくれそうな気がする。
 「おい、トシ! 手を離していいぞ」
 「いいんですか?」
 「ああ、健、服を着ろ。出かけるぞ」
 「高原さん、許してくれるんですか?」
 「許した訳じゃないが、おまえにもう少し働いて貰う」
 「何でもします」
 「何でもするんだな。よし、とにかく、服を着ろ」
 トシが、上から俺の服の入った紙袋を持ってきた。俺は急いで服を着て、高原に付いていった。

 俺たちの乗った車が向かったのは、いつものホテルだった。
 「この前の続きをやるぞ。健、服を脱げ。銀次は手錠を掛けるんだ」
 トシが、二週間前の録画を見ながら、ポジションを決め、俺は四つん這いになった。銀次のペニスが俺に入ってくる。目出し帽をかぶった高原が、裸になって俺の目の前にペニスを差し出した。ペニスの中程にまだ新しい傷があった。
 この前と違って、少し小便臭いが、糞の臭いはしない。この前、洗ってくれれば、あんなことにはならなかったのに・・・・。
 銀次と高原が、ほとんど同時に俺の口の中とけつの中に射精して、俺はちょっと気が遠くなった。
 ビデオを見直した高原は、嬉しそうな顔をしている。
 「いい出来だ。これなら、かなり売れるぞ」
 「兄貴、ほんと、いい出来ですね」
 「よし、悦子のマンションにいくぞ」
 悦子のマンション? 何しにいくんだろう? そんな疑問を乗せて、車は悦子のマンションへと向かう。高原は、車の中から悦子に小声で電話している。

 「悦子! 今来たぞ」
ドアから顔をのぞかせた悦子は、以前このマンションに来たときよりも派手な化粧をしていた。何処かへ出かける前のようだ。
 「遅かったわね。あら、この子、以前来たことがあるわね。相変わらず、汚いのね」
 「風呂だ。風呂に入れてやってくれ」
 「うちは風呂屋じゃないんだけどね」
 悦子は外人のように手を広げて肩をすくめた。
 「文句言ってないで、早く入れろ」
 「はい、はい。さあ、服脱いで、バスルームに行きなさい。お湯は溜めてあるわ」
 「すみません」
 俺は、服を脱いでバスルームに入って体を洗い、髪の洗った。
 散髪にいかないとかなり伸びてしまったな。そう思っていると、バスルームのドアが開いて悦子が入ってきた。
 「な、何だよ」
 「その椅子に座りなさい」
 悦子の後で、トシがビデオを回している。何をしようと言うのだろうか?
 「髪の毛を切ってあげるからね」
 「散髪するの?」
 「そう」
 「できるの?」
 「元美容師。心配しないでいいわ」
 元美容師か。今は何やってるんだろう? 水商売には間違いなさそうだが・・・・。散髪できるのなら、この前もしてくれれば良かったのにと思う。
 俺はイスの上に座って、俺の髪の毛を切る悦子の手を見ていた。
 「さあ、これでいいわ。シャワーをもう一度浴びて、髪を流して」
 髪の毛はかなり長いままだ。それに前髪を目の高さで切っていた。いったい、どんな髪型にしたんだろう?
 シャワーを浴びて、髪の毛を洗い流し、バスタオルで拭きながら外に出ると、着るものがない。
 「あのう、俺の服は?」
 「あら、汚れてたから、洗っちゃった。バスタオルを腰に巻いて、出てきなさい」
 「銀次! 下着とトレーナーを適当に買ってこい」
 「へい」
 銀次が高原から金を受け取って、玄関から出ていった。
 「君、名前は何て言うの? 聞いてなかったわね」
 「健」
 「ふうん。じゃあ、健君、こっちに来て、座って。髪、乾かしてあげるわ」
 俺は、言われるままにストールに座って、髪を乾かして貰った。
 「そのまま目をつぶって!」
 「何するの?」
 「いいから、早く目をつぶりなさい!」
 俺は、何するんだろうと思いながら、目をつぶった。
 「痛っ!」
 「じっとしてなさい!」
 悦子が、俺の眉毛を小さなピンセットで抜いていた。何するつもりだ。
 「さあ、いいわ。鏡を見て」
 ドレッサーの鏡を見てビックリした。鏡には、セミロングの髪型をした、俺の顔が映っていた。太かった眉が、細い山形に整えられて、まるで女の子だ。
 「どういうこと?」
 「あとで説明する。悦子、次だ」
 悦子が俺を立たせ、胸囲、胴回り、そして尻の周りをメジャーで測った。何の目的でそんなことをするのか、俺には理解できなかった。悦子は、測り終えた俺の寸法をメモすると、コートを羽織った。
 「あんた。わたし、出かけるわよ」
 「ああ、すまんな、悦子。さっき言ったこと、頼んだぞ」
 「任せて。じゃあ、行って来るわ」
 悦子は、高原にキスして出ていった。入れ替わりに銀次が帰ってきた。紙の袋を抱えている。
 「兄貴、こんなもんでいいかな」
 「着られれば、何でもいい」
 「悦子さんは、どこへ出かけたの?」
 「六本木のスナックだ。そこで、ママをしている」
 「六本木のスナックのママなんですか」
 「そうだ。ほれ、早く服を着ろ」
 俺は、銀次の買ってきた下着とトレーナーを着た。銀次の趣味の悪さには閉口するが、他に着るものがない。我慢して着る。
 「さっき説明するって言ったけど、こんな髪型にしてどうするの?」
 「健、おまえには女装してもらう」
 「女装って!」
 「そうだ。ビデオの一環だ。男のままでは、銀次に愛して貰えないと思ったおまえが、女装して銀次に迫るという設定だ。どうだ。面白いだろう」
 「女装なんてイヤだよ」
 「何でもするといったのは嘘か?」
 「・・・・何でもするといったけど、女装だけは・・・・」
 「男が一度口にしたことを、簡単に翻すもんじゃない。そんなことじゃあ、世間は渡れないぞ」
 「・・・・分かったよ」
 「明日から一週間ほど、俺は出かけてくる。その間に、悦子に化粧の仕方と、女の仕草を習っておくんだ。いいな」
 「一週間で?」
 「できないとは言わせないぞ」
 「わ、分かりました」
 高原の目は怖い。俺は蛇に睨まれた蛙のように、その場に縮こまっていた。
 「それから、逃げ出そう何て事は考えるなよ」
 「・・・・はい」
 ビデオが高原の手にある以上、俺は逃げ出せない。
 「悦子がいない間、この部屋は自由に使っていい。冷蔵庫の中のものも食っていいからな。じゃあ、一週間後、また来る。せいぜい頑張るんだ。おい、銀次。帰るぞ」
 「へい」
 俺はあり地獄の作った砂地獄に落ちかかった蟻同然だ。もがいても逃げ出せない。最初はともかく、二度目に銀次に声を掛けられたとき、応じなければ、こうはなっていなかったろう。しかし、後悔してももう遅い。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。

 冷蔵庫には、たっぷり食料が入っていた。ただ、冷凍食品ばかりだ。いくら自由にしていいと言われても、最初から、あんまりそうもできないだろう。俺は、冷凍のピラフを取り出して、レンジで温めて食った。
 悦子が出かけていったのは、午後五時だった。いつ頃帰ってくるのだろう。悦子は、スナックのママだと言っていた。まあ、少なくとも午前様だろうなと思う。
 ビールを飲みながら、テレビを見た。未成年のくせにビールなんてと思ったが、飲んでみたかった。テレビをこんなに長時間ゆっくり見たのは、何カ月ぶりだろう。そんなことを思いながら、ソファーの上で眠り込んだ。

 ドアが開いて、ほろ酔いかげんの悦子が帰ってきた。時計を見ると、午前三時だった。点けっぱなしのテレビは、まだ、深夜映画をやっていた。
 「あら、健君。そうか、あなたがいたのね。そんなところで寝てると、風邪引くわよ。ベッドで寝なさい」
 「ベッドで寝ていいの?」
 「いいわよ。わたし、シャワー浴びるからね」
 そう言うと、悦子は俺の目の前で着ているものを脱ぎ始め、裸になってバスルームへ入っていった。男の俺がいるのに恥ずかしくないのだろうか? それとも、俺はまだ、子どもだと思われているのだろうか? 俺は、悦子に言われたように、ベッドに入った。ふかふかのダブルベッドだ。気持ちよかった。こんなベッドに寝たことはなかった。家出する前も、せんべい布団だった。
 うとうとしていると、悦子がベッドの中に入ってきた。それだけではなく、俺に抱きついて、キスし始めた。
 「悦子さん、止めてくれよ」
 「いいじゃないの。健君、女はだめなの?」
 「女って、俺、したことないよ」
 「じゃあ、童貞って訳ね」
 「・・・・そうだよ。まだ、十五だからね」
 「十五じゃ、遅すぎるくらいよ。わたしが、相手をしてあげるわ」
 「高原さんに怒られるよ」
 「一週間いないって言ったでしょう。大丈夫よ」
 「そんなこと言ったって」
 「健君。女とやりたくないの? あなた、ほんとのホモなの?」
 「・・・・違うよ。あれは仕事だよ」
 俺はホモじゃない。現に悦子に体を触られて、勃起している。銀次の肛門に入れたことがあるが、女とはしたことがない。やってみたい。
 「教えてあげるわ」
 悦子は優しく俺を導いてくれた。俺は童貞を失った。

 俺は八時に起きだしたが、悦子はなかなか起きてこない。牛乳を飲んで待った。九時を回っても悦子は起きてこない。俺は仕方なく、カップラーメンを作って、テレビを見ながら食べた。
 悦子が起きてきたのは、十一時だった。
 「あら、もう起きてたの?」
 「もうって、もう十一時だよ」
 「あら、いつもこの時間に起きるのよ」
 「寝るのが遅いからしょうがないんだね」
 「そう、これがわたしのペースなの」
 「不健康極まりないね」
 「これがわたしに合ってるのよ。お昼何にする? 焼き肉定食でも取ろうか?」
 「作らないの?」
 「ここ何年も自分で作ったことなんて無いわよ。出前か、レンジでチンね」
 「そうなんですか」
 そうだろう。こんな商売していて、料理までする女なんてそうたくさんいる訳じゃないだろう。その点、おふくろは偉かったのかもしれない。品数は少なかったけれど、必ず手料理を作っていてくれた。
 近くの店から、焼き肉定食をふたつ頼んで食べてから、俺は悦子に化粧の特訓を受けた。
 ぜんぜんうまくいかない。高原が帰ってくるまでに、きちんとできるようにならなければならない。悦子が出かけたあとも、俺は、鏡に向かって一生懸命化粧の練習をした。
 仕草も、いろいろと注意されながら、練習した。女らしくと思っているのだが、悦子におかまだ、おかまだと笑われた。そんなに笑わなくてもいいのに。俺だって、やりたくないことを一生懸命やっているのだから。
 悦子に、また求められるのかと、期待していたのだが、そんな様子はその後まったくなかった。悦子は、俺が童貞だと知っていて、それを奪うことだけが目的だったようだ。

 一週間経った。俺は何とかひとりで化粧できるようになった。仕草は、いまいちと、悦子に言われているが、俺としてはかなりの線をいっていると思っている。
 悦子が珍しく、午前九時頃ベッドを抜け出して、何処かへ出かけていった。昼前になって、悦子は大きな紙袋を抱えて帰ってきた。何か買い物してきたようだ。
 昼食が済むと、その紙袋から、中のものを取り出してソファーの上に並べた。
 「さあ、健君。服を脱いで、それを着るのよ」
 「ええっ!? これを着るの?」
 「そうよ。早くしなさい。高原に頼まれてるんだから」
 高原の名前が出て、俺は観念したように、ソファーの上のものを取った。
 「それは穿けるでしょう? あなた、以前も穿いていたからね」
 それはピンクのショーツだった。悦子が言うように、俺は女物の下着を穿いていたことがある。悦子に背を向けて、裸になって、ショーツを穿いた。
 「次は、これよ」
 悦子に手渡されたものは、ボディスーツだった。チャックをあげるとき、腹が少し苦しかったけど、深呼吸をして、上まであげた。胸のカップの部分に何か入っている。
 「何が入ってるの? 本物みたいに柔らかいものが入っているけど・・・・」
 「ああ、それはシリコンの人工乳房よ。ボディスーツの中に縫い込んでいるのよ」
 「お尻のところにも何か入っているの?」
 「健君は、お尻が少し小さいからね。女の体型に見せるために、パッドを縫い込んであるわ」
 「そうなんですか」
 ドレッサーに自分お姿を移してみた。へええっ!! まるで女だよ。これが俺かよ。信じられないよ。
 「健君、バスルームに行って、腋毛を剃ってきなさい。腋毛があると興ざめよ」
 俺は言われたとおりにバスルームに行って腋毛を剃った。
 「さあ、これを着るのよ」
 やっぱりこれを着るのか。高原の命令だろうから、仕方ないな。俺は、悦子に手渡された服を着た。鏡を見ると、セーラー服姿の可愛らしい女子高生が写っていた。
 「似合うじゃないの」
 このまま外に出ても、誰も不審に思わないだろう。自分でもよく似合っていると思った。
 ガチャリとドアが開いた。ドアの方を振り向いてみると、高原たちが、入ってきた。
 「おっ! 健。結構似合うじゃないか。まるで本物の女子高生に見えるぞ」
 「そんなに似合ってるかなあ」
 「ばっちりだな。なあ、銀次」
 「男にゃ、見えねえな」
 「健、全部脱げ」
 良かった。いくら似合うと言われても、ずっと着るのはイヤだ。全部脱いで、トレーナーに着替え、ほっとしてソファーに座ると、高原がコーヒーを飲みながら言った。
 「健、もう一度着るんだ」
 「ええっ!? また着るの?」
 「トシ、ビデオを回せ。着替えているところを撮るんだ」
 「着替えているところなんて、恥ずかしいよ」
 「何言ってんだよ。もっと恥ずかしいところをビデオに収められていて」
 「・・・・それもそうだね」
 ベッドルームに行けと言われて、ベッドルームの中で着替える。トシがそんな俺の姿をビデオに撮っている。俺はまた、女子高生の姿になった。撮り終えたビデオを高原がチェックする。
 「まあまあだな。健、もう一度やり直しだ。トシ、ポジションを変えて、もう一度撮るんだ」
 「わかりやした」
 俺は、今度は文句を言わないで、着替えをやった。文句言ったって、やらされるに決まっているのだから。俺は三度目の女子高生の姿になった。
 「よしよし、これならいいぞ。じゃあ、健。鏡に向かって、少し化粧して見ろ。化粧は覚えただろうな」
 「覚えているよ」
 「トシ、化粧しているところを撮るんだ。一方向からだけじゃなく、いろんな方向から撮れ。いいな」
 「へい」
 俺が、鏡に向かって化粧している場面を、トシがあっちへ行ったり、こっちへ来たりして、ビデオに収めた。
 いつもはトレーナーを着て化粧しているから、そんなに感じなかったけど、こうしてセーラー服を着て化粧すると、俺は本物の女に見える。
 撮れたビデオを見直して、高原が満足げに頷いていた。
 「完璧だ。みんな出かけるぞ」
 「俺も行くの?」
 「当たり前じゃないか。おまえは主演女優なんだからな。おまえがいないとビデオが撮れん」
 銀次とトシがくすくすと笑った。
 「このまま外に出るの?」
 「つまらんこと言ってないで、早く行くぞ」

 俺は女子高生の姿のまま、外に出て、車に乗り込んだ。ひどく恥ずかしい。
 「健、おまえはどう見ても女子高生に見えるんだから、もっと堂々としてろ。そんなにビクビクしていたら、却って変に思われる」
 「・・・・はい」
 「車の外に出たら、女らしくするのを忘れるなよ」
 「分かってるよ」
 車は、皇居に向かっていた。
 「どこいくの?」
 「皇居の中にある池のベンチのそばだ。最初に、おまえのビデオを撮ったところだ」
 「ああ、あそこ。あそこで、何するの?」
 「ちょっとした演出だ。最初と同じ演技をして貰う。前は、学生服だったろう。今度は、セーラー服って訳だ。分かったな」
 「良いアイデアですね。さすが、兄貴だ」
 高原とトシは、どう見たってヤーさんに見える。一緒に中へ入ったら、不審がられるだろう。俺と銀次が手をつないで、仲良しのペアを演じながら、皇居の中に入り、池へと向かう。高原とトシは少し遅れて、ついてきた。
 学生服を着てやった演技と同じ演技をセーラー服でやる。まったく妙なことになったものだ。一発で、高原のオーケーが出た。
 「健、おまえは天性の俳優だ。さあ、ホテルに行くぞ」
 やっぱりやらされるのか。そうだろうと思っていた。このままで済むはずがない。

 俺と銀次が手をつないでホテルの部屋に入ると、中でトシがビデオを回している。そのままベッドに行って、キスしながら、銀次が俺の服を脱がせていく。
 「待った。ちょっと待て」
 高原のストップが掛かった。
 「セーラー服は脱がせるな。スカートをまくり上げてやるんだ」
 服を着て、ベッドに入ったところからやり直した。舌を使った長いキスが済んだあと、銀次のズボンのファスナーを降ろして、フェラチオをしてやり、高原のオーケーが出たところで、今度は銀次が俺のスカートをまくり上げた。ボディスーツのホックをはずして、ショーツを脱がされ、銀次が俺のペニスをくわえる。それからワンチャンスタイルで銀次が俺を責め立てる。
 あとでビデオを見たが、女子高生のスカートをまくり上げたら、ペニスが出てくる。男のペニスが女子高生の肛門に刺さっていてる。女子高生にはペニスがあって勃起している。上半身を見ると、やっぱり女子高生に見える。何とも不思議な光景だ。
 「いいよ、兄貴、これは最高だよ」
 そう言いながら、銀次が俺の中で爆発した。久しぶりに銀次にやられて、俺もいってしまった。悦子としたときより、気持ちが良かった。女とするより、男にされるときの方が気持ちいいなんて、俺は、高原に言われたように、ホモの素質があるのかもしれない。
 「こりゃ、最高の出来だ。よし、健、着替えろ」
 「えっ!? 着替えろって、何に着替えるの?」
 「トシ! 健の着替えを持ってきてるだろう?」
 「持ってきてますよ。はい、これ」
 「健、そのセーラー服を脱いで、その中に入っている服に着替えるんだ」
 紙袋には、ノースリーブの白のワンピースが入っていた。今度は女子高生じゃないから、パンストも穿けと言われた。セーラー服を脱いで、下着を整えたあと、パンストを穿いて、ワンピースを着た。セーラー服といい、ワンピースといい、俺にぴったりだ。そう言えば、先週、悦子が俺のサイズを測っていたっけ。なるほど、そう言うことか。
 セーラー服の時と違って、今度は全部脱がされて、騎上位と正常位での撮影が行われた。ちょっと見は、胸のない女がやっているように見える。

 撮影が終わって、さすがに疲れた。ぐったりベッドに横たわっていると、高原が、次へ行くと言いだした。
 「どこへ行くの? 疲れたよ」
 「スケジュールが詰まってんだ。ガタガタ言ってないで、さあ、行くぞ」
 「シャワーくらい浴びさせてよ。汗びっしょりだよ」
 「シャワーね。そうだな。シャワーくらい浴びてないと怒られるな」
 部屋から出て行きかけていた高原は、足を止めて振り向くと、そう言って椅子にどっかと腰を下ろした。
 「怒られるって? 誰に?」
 「余計なことはいい! 早くシャワーを浴びてこい!」
 俺はシャワーを浴びて、下着を身につけ、ワンピースを着た。紙袋に入っていた、バッグの中にあった化粧道具で、ちょっと化粧をやり直す。その様子もトシがビデオに収めていた。
 部屋を出ようとすると、来るときに履いていた運動靴はなく、かかとの高い女物の靴が置かれていた。用意したのは悦子だろうが、用意させたのは、高原だろう。何から何まで準備がいい。サイズもぴったりだ。かかとが高いから、少し歩きにくいが、何とか頑張って、高原についてゆく。文句言っても、高原にどやされるだけだ。

 車は、歌舞伎町の裏通りにある雑居ビルの前で停まった。路上駐車して、暗い階段を下りる。高原はここで、俺に何をやらせるつもりだろう。どうせろくなことではないだろうが、逃げるわけにもいかない。
 「辰さん、俺だ。連れて来たぜ」
 「高原さんかえ。ちょっと待ってくれ。先客が終わらねえんだ」
 衝立の向こうから、しわがれ声が聞こえた。
 「分かった。ここで待たせて貰う」
 奥から、器械の音がする。何やってるんだろう。高原の顔を見たが、煙草を吸いながら、澄ました顔をしている。
 しばらく待っていると、奥から厚化粧の若い女が出てきた。俺の顔を見ると、フンと横を向いて出ていった。俺の方が美人だなと思う。女も、俺の顔を見て、ライバル意識を燃やしたに違いない。女にそう思わせる俺も大したもんだと思う。
 「高原の旦那、中に入っていいよ」
 そう言われて、俺たちは中へ入っていく。辰さんと呼ばれた男は、丸坊主の目つきの鋭い男で、肩と二の腕から刺青が覗いていた。
 「この女か? 若いんだな。いわくはないだろうな」
 「辰さんには迷惑は掛けないよ」
 「服を脱いで、パンツ一丁になって、ここに横になりな」
 俺は高原にそっと耳元で囁いた。
 「何するの?」
 「黙って、横になれば分かる」
 服を部屋の隅の籠に脱ぎ捨てて、言われたとおり、男のそばにあるマットの上に横になる。
 「何だ。男なのか。ぜんぜん気付かなかったよ」
 「この前、話しておいたやつ頼んだよ」
 「よし、坊主。足を広げて、膝を立てるんだ。ちょっと痛いが、我慢するんだぞ」
 「痛いって、何するの」
 「健、刺青を入れて貰うんだ。じっとしてろよ」
 「刺青!」
 「ちょっとした、小さなものだ。心配しなくていい」
 辰は刺青師なのだ。俺の内股に、針の束を当てて、入れ墨を彫り始めた。トシがビデオを回しているようだ。痛くて堪らないが、高原の目を見ていると、俺は抵抗できなかった。
 三十分もしないうちに、刺青は終わった。
 「見るか?」
 そう言われて、鏡を持たされた。鏡を見てみると、右の内股に、血の滲んだ小さなバラの刺青が施されていた。
 服を着ようと立ち上がって、高原の方を見ると、銀次とこそこそ話している。また何か良からぬことを話しているようだ。
 「健、もう一度横になれ」
 ほら来た。他にも刺青をさせるつもりだろうか?
 「辰さん、悪いんだが、けつにも一個彫ってくれないか? 少し大きいやつを」
 「あいよ」
 俺はうつ伏せにされ、今度は左の尻に刺青された。刺青が終わって、もう一度見てみると、内股のものより、少し大きなバラが彫られていた。
 「辰さん。さすがに、いい出来だ」
 「これくらいなら、おやすいご用だ」
 「また寄せて貰うよ」
 高原が辰に金を渡し、俺たちは階段を昇って外に出た。夜のネオンが点いていた。
 「銀次、これでふたりで何か食って帰れ。健、悦子のマンションの鍵だ。俺はまた一週間ほど出かける。化粧はいいが、もう少し、女らしく振る舞えるようにしておけ。分かったな」
 「はい、分かりました」
 悦子のマンションからそう遠くないファミレスの前で俺と銀次は降ろされ、高原は車で去っていった。
 「ああ、疲れた」
 「健、飯食ったら、もう一発どうだ?」
 「馬鹿言うなよ。今日は終わり。疲れたっていってるだろう?」
 「そうか。それは残念」
 銀次と、まるで恋人同士のような振りをして、ファミレスで食事をした。誰も俺が男だと気づきはしない。
 店を出て、悦子のマンションへ向かっている間中、銀次は俺に迫る。
 「いい加減にしろよ。怒るぞ」
 「じゃあ、明日、姉さんが出かけた頃、マンションに行くから、いいな」
 「勝手にしろ」
 銀次は、俺が承諾したと思って、にこにこ顔で帰っていった。してやってもいいが、ただじゃあイヤだ。見返りがないとな。
 悦子のマンションへ戻り、シャワーを浴びた。浴びたあとになって、シャワーを浴びて良かったのかと気になった。入れ墨されたところがぴりぴりと痛む。冷蔵庫から氷を出して冷やしておくことにした。

 次の日目覚めたときには、痛みはもう無かった。鏡で覗いてみると、内股も尻も綺麗なバラの花に仕上がっていた。結構いいじゃないか。無理矢理刺青されたのに、自分でも気に入ってしまった。
 「あら、綺麗なバラね」
 「そう思う?」
 「わたしもやって貰おうかな?」
 「やって貰ったら? ふたつで一時間ちょっとの辛抱だよ」
 「そうね。考えとこう。健君、着替えて、出かけるわよ」
 「出かけるって、どこに?」
 「買い物。洋服を少し買っておかないとね」
 「服って、悦子さん、いっぱい持っているじゃないか。この上、まだ買うの?」
 「わたしのじゃないわよ。あなたの服よ」
 「えっ!? 俺の服を?」
 「そうよ。セーラー服はレンタルで、もう返しちゃったし、ワンピース一枚じゃあ、足りないでしょう?」
 「えっ! ワンピースじゃ足りないって、女物を買いに行くの?」
 「そう、あなたの着る女物の服を買いに行くの」
 「俺、女物なんていらないよ」
 「高原が、あなたを女装させて外に連れだして、もっと女らしく振る舞えるようにしておけって言う命令なの」
 「どうして?」
 「そんなこと知らないわよ。女装するのはいいけど、毎日同じ服というわけにはいかないでしょう?」
 「・・・・高原さんの命令なら、仕方ないね。じゃあ、出かける?」
 「出かけるときは、女装させろと言う命令も貰ってるの」
 「ええっ!!」
 「さあ、早くボディスーツを着て、そのワンピースを着るのよ」
 悦子と一緒にデパートに行って、俺に合う服を何枚か仕入れて帰った。喋るとばれるので、俺は終始無言で、悦子が店員の相手をし、会計をしてくれた。誰も不審に思わないところをみると、俺の女装は、大したものらしい。

 夕方になって、悦子が出かけたのを見計らったように、銀次がやってきた。俺は鍵を掛けて中に入れなかった。ドアの外で一時間ばかり、頑張っていたが、銀次は諦めて帰っていった。
 次の日の夕方も銀次がやってきた。一回三万円というと、負けろのどうのこうのブツブツ言いながら、帰っていった。

 ボディスーツがもう一着送られてきた。悦子に、高原からの追加命令だと言われて、寝ているとき以外は女装することになった。スカートを一日中穿いているのはかなり苦痛だが、次第になれてきた。
 一日中女装していると、男言葉を使うといけないような気になって、俺は自然と女言葉を使うようになった。

 高原とファミレスの前で別れて八日目、高原たちがやってきた。銀次は俺の顔を見て、ブスッとした顔をしている。俺がうんと言わなかったことに腹を立てているようだ。
 「ほう、かなり女らしくなったじゃないか」
 「そう言う命令でしょう?」
 「いや、なかなかのもんだ。刺青の方は落ち着いたか?」
 「ええ、もうばっちりよ」
 「何か気持ち悪いな。ねえ、兄貴」
 銀次が俺の女言葉を聞いて、難癖を付けてきた。
 「まあ、いいさ。その方が、あってるさ。じゃあ、出かけるぞ」
 「例のホテル?」
 「他にないだろう?」
 仕方ないな。俺はこのマンションで、今は何不自由なく暮らしている。欲しいと言えば、悦子が何でも買ってくれる。俺が銀次に見返りを要求したのと同じで、高原が見返りを寄こせと言い出したら、俺にはこうする以外に何もないのだ。それに、高原のペニスを咬み千切ろうとした代償も払わなければならない。
 銀次は、そのおこぼれを頂くというわけだ。ただ、銀次が高原に何らかの見返りをしていることは確かであろう。ホテルに行くと言いだしたところで、銀次の顔が急に明るくなって、ニコニコし出し始めた。

 俺はレースの飾りの付いたブラウスに、ジャンパースカートを穿いて、ホテルに出かけていった。
 「トシ! バラの刺青をしっかり撮っておけよ」
 「分かりやした」
 銀次は、一週間ぶりの俺とのセックスに満足したようだ。俺もついその気になって、かなり乗ってしまった。生きるためにこんなことをやり始めたのに、俺はだんだん本物のホモになっていくような気がする。
 高原は、できあがったビデオを見て満足そうな顔をしていた。