しかし、着るものどころではないことを、貯金通帳を見る度に俺は自覚した。このままいけば、早晩俺が餓死するのは目に見えている。
何とか稼ごうと、俺は土方募集の列に並んだ。やっと俺の順番が来た。
「子どもはだめだ」
「俺は子どもじゃない。十六だ」
「十六でも、おまえはだめだ。役に立たん」
「大丈夫。きっと役に立つよ」
「だめだ。次!」
俺は肩を落として、列から離れた。一時間も列んだのに・・・・。腹減ったなあ。これからどうしよう。残った金をパッと使って、駐在所に飛び込んで、うちに連絡して貰おうか? そう思いながら、ふらふらと歩いていた。
「おい、ちょっと君」
振り向くと、眼鏡の痩せた男が、俺の目の前にいた。神経質そうな、あまり人がいいとは言えないようなやつだ。
「いい仕事があるんだけど、君、やってみないか?」
「いい仕事? どんな仕事?」
「ビデオなんだ。ある商品のプロモーションビデオなんだけど、どうだい?」
「何の商品?」
「そんなこと、どうでもいいだろう。どう? するの? しないの?」
そうだ。そんなことはどうでもいい。とにかく金になれば。
「もちろん報酬はあげるよ。君の出来次第だけどね」
「やります」
「そう言ってくれると思ったよ。じゃあ、ついてきて」
「どこ行くの?」
「風呂に入って、着替えよう。そのままじゃあ、いくら何でも、出演お断りだ」
俺は男について行った。男は、とあるマンションへと入っていった。八階の部屋の前で、チャイムを鳴らす。中から、美人だが、いかにも水商売風の女が顔を出した。
「悦子さん。この坊主を風呂に入れてやってくれ。それから、これが着替えだ」
男は、紙袋を悦子という女に手渡した。男は女をさん付けで呼んだが、どういう関係なんだろうか?
「いいわよ。さあ、入って」
俺は促されるままに、部屋の中に入った。部屋は、かなり広い。水商売って、儲かるんだろうなと思う。
「あんた、臭いわね。いつ風呂に入ったの?」
女は、鼻をつまみながら、俺をバスルームへ案内する。風呂? まともな風呂には、家出してからもう四ヶ月は入っていない。体を洗ったのは、一週間前かな? 臭いはずだ。しかし、自分では、臭いのは分からない。トイレに入ったときと同じで、臭いのになれてしまっているのだ。
「あら、いやだ、この子。女物の下着なんて穿いてるわ」
俺はショーツを急いで脱ぐと、バスルームに入った。人前で脱ぐとは思わなかったから、うっかりしていた。
「シャンプーとリンスがあるから、よく洗うのよ」
一時間掛けて、俺は風呂に浸かった。気持ちよかった。生き返った気分だ。体を拭いてバスルームから出ると、トランクスと下着用のTシャツが置かれていた。用意されていた服は、学生服だった。
「これ着るの?」
「そうだ。それが、君の仕事着だよ」
「分かりました」
「この汚れた服はどうする? 捨てるの?」
「おばさん、俺、それしか持ってないんだ。洗ってくれないかなあ?」
「あばさん? わたし、まだ、おばさんなんて呼ばれる年じゃないわよ」
悦子が俺を睨み付ける。
「済みません。洗って貰えます?」
「悦子さん。洗ってやれよ。どうせ、洗濯機が洗うんだろう?」
「はい、はい」
悦子は、俺の着ていた服を、まるでぼろ雑巾を抓むような格好で、洗濯機に放り込んだ。
「坊主、出かけるぞ」
「今度はどこに?」
「今度は散髪だ。そんな頭じゃ、いくら何でも絵にならん」
散髪もして貰える。散髪する金が勿体ないと思っていたんだ。助かる。
「そうですね。こんな髪型じゃあ、売れる商品も売れないでしょうからね」
マンションのすぐそばに散髪屋があるのに、男は車で少し離れた散髪屋まで俺を連れていった。
「これで、やって貰ってこい」
男は、店の前で俺を降ろして、三千円手渡してくれた。俺は店に入って、散髪して貰った。
「こんなもんでいいかな」
散髪屋の主人が、鏡の中から、俺に聞く。俺は、頭を左右に動かして、仕上がりを確かめてみた。
「少し長いんじゃないの」
「これくらいが今の流行だよ。もっと短くするかい?」
「う〜ん、どうしようか?」
もう少し切って貰った方が、後々散髪する手間が省けるのになと思いながら、良い出来だ。似合うよと言われて、俺はそのまま散髪屋をあとにした。
「腹ごしらえをしよう。ファミレスでいいな」
「うん、いいよ」
飯まで奢って貰えそうだ。嬉しくなってしまう。車で十分くらいの場所にある、ファミリーレストランに入った。
「何食ってもいいぞ。出演料は別だから、安心しな」
そう言われて、俺は、ジャンボサーロインの洋食セットを頼んだ。旨かった。ステーキなんて、一年振りかもしれないな。
男は、カツカレーを不味そうな顔をして食っていた。
「坊主、コーヒーを頼むが、おまえは?」
「ジュース頼んでもいい?」
「ジュースくらい何でもないさ。おい、ちょっと、お姉さん。追加注文だ」
食事が済むと、男が何処かに携帯で電話していた。
「さあ、出かけるぞ」
女のマンションに戻り、洗濯された服を受け取ったあと、車は皇居へ向かった。皇居の中にある池の側でビデオ取りするんだと説明された。
近くの駐車場へ車を停めて、俺たちは、中に入っていった。堀を越えたところで、警察官が立っているのには、俺はちょっとビクビクした。
入り口にある小さな小屋で、小さなプラスチックの札を貰って、緩い坂道を登っていった。こんなところで何するつもりなんだろう。
中の小さな池のベンチでふたりの男が待っていた。ひとりは、小太りのヤーさん風の男。もうひとりは、かなり太った若い男で、ビデオカメラを持っていた。
「兄貴、遅くなしやした」
「遅かったな。早速始めよう。おう、美形じゃないか。これなら、いい絵が撮れる」
美形ってどういう意味だ。可愛いって言う意味だろうか? 俺にとっては、そんなこと言われるより、男らしいと言われる方がいいのだが・・・・。たしかに俺には可愛いという表現の方が当たっているのかもしれない。
「坊主、向こうから、こっちに向かって歩いてこい」
俺は言われたとおりに、池に沿って歩く。ビデオに撮られていると思うと、体の動きがぎくしゃくする。
「だめだ、だめだ。もっと自然に」
何度か歩いたあと、兄貴と呼ばれた男が、注文を付けた。
「歩き方はそれでいい。坊主、歩いている途中から、こちらを見て、嬉しそうな顔をして走って来るんだ。そうだな。ちょうど好きな人に出会ったときのようにな」
「好きな人に出会った時みたいにですね」
「そうだ」
二度撮り直して、オーケーが出た。
「次は、銀次に走り寄って、手をつないで、ふたりで向こうに歩いて行くんだ」
銀次というのは、最初に俺に声を掛けた男のことらしい。手をつないで歩いていく? いったい、何のビデオだ?
今度は一発でオーケーが出た。
「坊主、おまえは才能があるぞ。なかなか、いい」
「ありがとうございます。次は何を」
「疲れた。休憩だ。近くのホテルに行こう」
どこのホテルへ行くのだろうと思ったら、ラブホテルなのだ。普通のホテルは金がいくらあっても足りないからなという男の言葉を信じた。
外の自販機で買い込んだジュースとビールをラブホテルの一室で飲む。もちろん俺はジュースだ。
ジュースを飲み終わって、部屋の中を見渡す。ラブホテルの中なんて、入ったことがない。おふくろはこんなところで、親父以外の男に抱かれていたのかとぼんやり思う。
広い部屋。中央に置かれた大きな回転ベッド。浴槽が透けたバス。ベッド側から、入浴中の様子が見られるようになっている。ご休憩二時間四千八百円也と書いてあった。四人でゆっくり休憩するには、確かにここは安い。
「さあ、次を始めるぞ」
外に出ていくのかと思ったら、兄貴と呼ばれた男は、椅子にどっかと腰を据えて動かない。
「坊主、ベッドの上で、制服を脱ぐんだ」
「えっ!? 服を脱ぐの?」
「そうだ。早くしろ」
俺は、何が何やら分からず、上着を脱いだ。
「ズボンもだ」
「ズボンも? 何するの?」
「銀次、言ってないのか?」
「すんません」
「そうか。まあ、いい。坊主、ベッドの中に入ってろ」
太った男がビデオカメラが回していた。何かがおかしい。言ってないって何だ。そう思いながら、俺はズボンを脱いでベッドの中に潜り込んだ。
銀次が、服を脱ぎ始めた。それも着ているものを一枚残らず。何をするつもりだ??? もしかすると・・・・。俺は、これはやばいと思った。ビデオは回り続けている。これは男同士の行為をビデオに撮ろうとしているのだ。俺はベッドから抜け出して逃げようとした。しかし、銀次が俺に襲いかかってきた。
「止めろ。俺の体に触るな」
「金がいるんだろう。黙って言うとおりにしろ」
「いやだ。こんなことしてまで、金はいらない」
「もう手遅れだ」
銀次は痩せているくせに力が強い。あっという間にトランクスを脱がされ、顎を殴られて、少し頭がボヤッとした隙にTシャツを脱がされた。裸にされてしまった。裸じゃあ、ホテルから逃げては行けない。
「止めてくれよ。こんなつもりじゃなかったんだ」
「もう手遅れだと言ってるだろう」
銀次は、俺をベッドの上に放り投げると、覆い被さってきた。やに臭い息が、俺の顔に掛かる。俺は手足をばたばたさせて抵抗した。銀次が、俺を何度も殴りつけ、俺は気を失った。
気がつくと、銀次が俺の体をなめ回していた。ビデオは回り続けている。銀次が俺のペニスをくわえた。俺は逃げだそうともがいた。
「逃げると咬み切るぞ」
そう言って、歯を立てた。ペニスが痛い。銀次は本気のようだ。ペニスを咬み千切られてはたまらない。俺はじっとするしかなかった。俺のペニスは、恐怖と恥ずかしさで縮み上がっていた。
「俺のを嘗めろ。いいか。咬んだりしたら、命がねえぞ。分かってるだろうな」
俺の目の前に出された銀次の怒張したペニスを、俺は・・・・嘗めた。嘗めざるを得なかった。男たちにとって、俺は、ただの浮浪者だ。いついなくなっても、誰も気にとめもしないことを男たちはよく知っていた。
「そうだ。その調子だ。いいぞ。おまえ、やったことがあるのか? うまいもんだ」
「馬鹿言うな。こんなこと、やったことなんてあるはずがないじゃないか」
「それにしてはうまいな。さあ、もっと続けろ」
ビデオはさらに回り続ける。俺は悔しくて涙を流した。
「涙。いいねえ。もっと泣け」
兄貴と呼ばれた男が横からそう言った。
突然口の中で、銀次のペニスが大きくなった。俺は、離れようとしたが、銀次が俺の頭を押さえつけて離さなかった。銀次のペニスがビクビクと痙攀して、俺の口の中に精液をぶちまけた。
息が詰まる。俺は激しく咳をした。口の中から、ねっとりとした白い液が床に滴り落ちた。
「吐き出して貰っちゃ困るな。ぼうず、ベッドに戻れ」
「いやだ」
「ぶっ殺されてもいいんだな」
兄貴という男の顔を見て、俺は恐れおののいた。男は本気だ。俺はベッドに戻った。
「銀次、放出した直後の状態になれ。それから、坊主、銀次のペニスをくわえて、恍惚とした顔をしろ」
「恍惚とした顔?」
「気持ちいいって言う顔だ」
俺は指示に従った。
「飲み込む真似をしろ」
俺は、言われたとおりに飲み込む真似をした。真似をしたが、口の中には、精液が残っていた。イヤな味がした。
「よし、いいぞ。休憩だ。坊主、床を拭け」
「拭けって言ったって・・・・」
「おまえが汚したんだ。汚したものが拭くのが、ルールというもんだ」
そんなのありかと思いながら、俺は仕方なく、銀次の精液を吐き出して汚した床を拭いた。その間、男たちは、コーヒーやビールを飲んでいる。
「もう帰してくれよ。もういいだろう?」
「まだだ。もう少しの辛抱だ」
「まだ、するの?」
「さあ、休憩は終わりだ。坊主、ベッドに戻れ」
どうしようもない。銀次に声を掛けられたのが運の尽きだ。
「うつ伏せになれ」
俺は、うつ伏せに寝た。銀次が俺の背中から尻をなめ回す。くすぐったくて堪らない。銀次の手が俺の肛門に触った。何かを塗っているようだと思った瞬間、肛門に激痛が走った。焼け火箸を肛門に当てられたとしても、こんなに痛くはなかったろう。
「痛いいっ!」
銀次が俺の背中で腰を動かしていた。自分の目で見たわけではないが、銀次のペニスが俺の肛門に入っている。間違いなかった。こんなことをするなんて思ってもみなかった。銀次が動く度に、激痛が俺を襲った。逃げようにも逃げられず、俺は泣きわめいた。
「いいぞ、いいぞ。坊主、おまえは天性の俳優だ。その表情がいい。このビデオは売れるぞ」
売るって? こんなビデオを売るのか? 買うやつなんているのか? 俺はあまりの痛みに気を失った。
気がつくと、男たちが部屋を出て行くところだった。
「坊主、それは今日の出演料だ。ホテル代は払って置いてやる。服もやるから、着て帰っていいぞ。じゃあな」
枕元に、一万円札が一枚置かれていた。
起きあがってみたが、肛門が痛くて堪らなかった。部屋の隅に置かれていた袋の中に、悦子という女が洗濯してくれた俺の服が入っていたが、まだ乾いていない。
このホテルに入るときに着ていた服を着た。学生服なんていらないけど、この服は新しいから、古着屋で交換して貰おう。
痛みでビッコを引きながら、ホテルを出た。新宿まで歩いて帰るわけにもいかず、かといって、痛くて自転車にも乗れそうもない。手にした一万円を使って、電車で新宿へ戻った。電車は空いていたが、痛くて座れなかった。
一週間、糞をするたびに血が出た。出血が止まった頃、ようやく痛みも治まった。ひどい仕打ちを受けたけど、四時間で一万円の稼ぎだと思えば、悪い仕事ではなかった。そう思うことにした。そう思わなければ耐えられなかった。時給二千五百円なんて仕事は、どこにでもある訳じゃあない。飯も食わせて貰ったし、散髪もできた。新しい下着も手に入ったし、学生服を交換してちょっとはましな服も手に入れたから、恨むのは止めよう。
一万円で節約に節約を重ねて、一ヶ月暮らした。しかし、仕事はなく、また一ヶ月前と同じ状態に戻った。
新宿駅前をふらふらしていると、声を掛けられた。銀次だった。俺に懐かしそうな顔でこう言った。
「坊主、この前のビデオ、評判が良くてな。第二作目を作りたいんだが、協力してくれないか?」
「馬鹿言うなよ。いやだよ」
「相変わらず、金がないんだろう? 出演料をはずむぞ。どうだ?」
出演料をはずむ? そう言われて、俺は迷った。断れば、俺は、餓死するか、うちに戻るしかない。うちに戻って、ほら、見ろ。ひとりじゃ生きられないだろうと言われるのが、イヤだった。他に稼ぐ手段がない以上、ここで生きるためには銀次の申し出に乗るしかない。
「いくら出してくれる?」
「オーケーかい?」
「金額によってはね」
「三万出そう」
「三万!?」
「この前の三倍だ」
「五万欲しい」
「つけ上がるなよ。おまえが、飢えてふらふらしてるのは知ってるんだぜ。三万でも多いくらいだ。三万で手を打て。それ以上は出せない」
完全に見透かされている。承諾せざるを得ない。
「いいよ、三万で。間違いなく、三万くれるんだろうな」
「約束は守る。この前だって、きちんと支払っただろう?」
「・・・・そうだったね」
「よし、すぐに行こう。この前と同じホテルだ」
また同じ部屋だった。男たちはこの部屋をこんな目的で、ずっと使っているようだ。
「坊主、また会ったな。ところで、名前は何と言うんだ?」
「健。健康の健」
こんな場合、本名なんて名乗れるわけもない。もっとも、新宿のホームレスの人たちにも、俺は健と名乗っている。
「健か。いい名前だ。俺の名前は、高原だ。銀次はもう知ってるな」
「うん」
「ビデオを回しているやつは、俊治。いつもトシって呼んでる」
「分かったよ。よろしく」
「じゃあ、始めるか。健、今日の場面の説明をするぞ」
「うん」
「この前、無理矢理犯されたおまえは、銀次のことが忘れられず、このホテルにやってくる。そして、銀次と戯れるって寸法だ。分かったな。じゃあ、そこで着ているものを脱いで、シャワーを浴びるんだ」
ビデオが回り始めた。俺はビデオを前に、ビデオがあることを気にしないように服を脱ぐ。トシがバスルームまで付いてくる。シャワーを浴びている間、ビデオがずっと回り続けている。体を拭いて出てくると、銀次がベッドの上で、あぐらをかいて待っていた。
「銀次にキスして、服を脱がせるんだ」
俺は言われたとおりにする。銀次は心得たもので、服を脱ぐと俺の体をさすったり、なめ回したりし始めた。
今日は、俺のペニスも勃起した。銀次の舌と指の動きに刺激されて、俺は銀次の口の中に放出した。銀次は、嬉しそうな顔をして、ごくりと飲み込む。今度は俺の番だ。俺も今日は銀次のものを全部飲み込んだ。今日は合意の上での仕事だからと割り切っていた。
「いいじゃないか。最高の出来だ。ちょっと休憩するぞ」
高原は、俺に缶コーヒーを手渡してくれた。缶コーヒーは甘ったるくて好きじゃないけど、ありがとうと礼を言って、受け取った。
「銀次、もうやれるか?」
「いけます。いけます」
「よし。次のシーンにいくぞ」
銀次の上になれと言われて、上に跨る。肛門にコールドクリームを塗るシーンはあとでカットするそうだ。銀次がにやにやしながら、下から俺の肛門へペニスを入れてくる。痛いが、金のためだ。俺はぐっと我慢する。
「力を抜かないと痛てえぞ」
そんなこと言われたって、力が抜けるものではない。銀次が突き上げてくる度に痛みが走る。俺の顔は苦痛にゆがんでいるはずだが、高原は、いいぞ、いいぞと喚いている。
しばらくの間は、糞する度に血が出るんだろうなと痛みを堪えながら思う。
さらに、うつ伏せにされて、突き上げられる。体が次第にずり上がるほど、激しく突き上げられる。痛みは通り越して、もう麻痺したようになっている。
「どうだ。少しは、気持ちいいか?」
銀次が耳元でそう囁く。気持ちいいなんてことあるわけがないじゃないか。
腰を浮かせろと言われて、四つん這いになる。ワンチャンスタイルだ。何だか、体の芯に変な感じが沸き上がってきた。萎えていた俺のペニスが勃起してきたようだ。俺は感じているのか? 男からペニスを肛門に入れられて感じるなんてことがあるのだろうか? そんなはずはないと思っていたのに、銀次が俺の中で果てた瞬間、俺も射精した。
「いい絵が撮れたぞ。健、おまえ、ホモの才能があるみたいだな」
「そんなことあるもんか」
「イヤ、間違いない。絶対そうだ」
俺はそれ以上否定しなかった。水掛け論になるだけだ。しかし、俺は確かに感じていた。俺はホモなのか?
「約束の三万だ。良いもの食って、少し肉を付けろ。その体じゃ、みっともない。いいか、分かったな」
「あんまり良いもの食ってたら、生活できなくなってしまうよ」
「ビデオの売れ行きが良かったら、もう一度出演して貰うから、当てにしないで待ってろ」
「いつ分かる?」
「次か? そうだな。二週間後には、次回作がいるかどうか分かる」
「二週間後だね」
「いつものとこいらに、いるだろうな」
「いると思うよ」
俺は、ホモの相手などしたくもないし、ビデオに撮られたくもない。しかし、食うためには、仕方がないことだ。ただの肉体労働だ。そう割り切った。二週間経って、仕事が見つからなければ、やるしかない。
二週間経って、仕事が見つからなければ? この五ヶ月間、一生懸命さがし回って、まともな仕事にありつけなかった。二週間で見つかるわけがない。俺は、初めから仕事を見つけるつもりがなかった。二週間経って、銀次から声を掛けられるのを待った。
今度は、出血は三日目で止まり、痛みは五日目には治まった。これがなければ楽勝の仕事なんだが・・・・。
二週間経って、銀次から連絡がなくてもいいように、一万円残して、二万円を二週間で使う計画をする。一日換算で千四百円あまり。新宿に来て以来、一日にこんなに金を使えることはなかった。今度声が掛かったら、古着屋で少し良い服を買おう。
二週間経っても銀次から連絡がなかった。残った一万で、一ヶ月暮らす計画を立てるが、少し贅沢した癖が抜けず、一週間で五千円使ってしまった。どうしようか? そんなことを考えて、ぼんやり芝生の中に座っていたら、銀次がやってきた。
「探したぞ。いつものところにいないから」
「あれ? そうだった」
「やるだろう?」
「手持ちが底を突いてきたところだったんだ。いいよ。いつものところかい?」
「ああ、そうだ。今日は部屋を変えて、ちょっと雰囲気を変えようって言ってた」
「そう?」
その日使った部屋は、以前の部屋と広さは同じくらい。ベッドはウオーターベッド。天井は鏡張り。
バスルームで、シャワーを浴びながら、絡み合うシーンから始まった。まったく、いろいろ思いつくものだ。
ウオーターベッドに戻り、互いのペニスを嘗め合いながら、ベッドの上を互いに上になったり、下になったり、ごろごろと転げ回る。銀次は、俺に口の中に射精したが、俺はいかなかった。
銀次のペニスは萎えてしまったが、俺のは、まだ勃起したままだった。
「おい、健。銀次に入れろ」
「えっ!?」
俺と銀次はふたり揃って高原の顔を見た。
「銀次に入れろって言ってるんだ」
「俺のを銀次さんに入れるの?」
「そうだ。何度も同じことを言わせるな」
「銀次さん、いいの?」
銀次の顔は引きつっている。
「俺は入れるのは好きだけど、入れられたことはないよ。だけど、兄貴の言うことを聞かないと・・・・」
俺は入れるのもイヤだけどなと思いながらも、高原の顔を見ていると、しないと何をされるか分からないと言う恐怖感が浮かんだ。
「早くしないか!」
俺は、仕方なく銀次の肛門にペニスをつっこんだ。
「いてててて」
銀次が叫んだ。俺のペニスは、銀次の肛門に締め付けられて、千切られるように痛かった。
「健! 腰を動かせ!」
何度も動かさないうちに、俺は、いってしまった。
「ううん。絵にならんなあ。このシーンはカットだ。銀次! 次いくぞ」
「兄貴、ちょっと待ってくれ。けつが痛てえ」
「ちぇっ、しょうがねえなあ。よし、休憩だ」
「銀次さん、俺の気持ち、少しは分かった?」
「おまえは、入れられて喜んでたじゃないか。俺と一緒にするな」
「そんなことないよ。喜んでなんか」
「ほう、そうかい」
銀次は、いつもは飲まないビールを手にして飲み始めた。よほど、イヤだったに違いない。俺だって、金さえあれば、こんなことはしないんだと心の中で叫んだ。
休憩時間が終わって、今度はいわゆる正常位というやつで、撮影が行われた。銀次が腰を動かしながら、俺の口の中に舌を入れてきた。銀次という男は、男を相手にするのが心の底から好きらしい。
「あ〜あ、やっぱ、入れる方がいいな」
俺の中に放出したあと、銀次はさっきとはうって変わって明るい顔をして、そう言った。
「銀次、そんなに良いのか?」
「兄貴、女とやるよりずっと良いぜ。兄貴もやってみたら、どうですかい?」
俺はエッと言う感じだった。まさか高原までやるなんて言わないだろう。そう、思っていた。ところが・・・・。
「・・・・そうだな。一度やってみるか。おい、トシ。テープはまだあるか?」
「ありますけど、撮るんですか?」
「当たり前よ。売り物にするかどうかは別だが、撮っといて、損はないだろう?」
「そうですね」
もう今日は終わりだと思っていたのに、高原が俺に挑んできた。
「もう止めてくださいよ。もう疲れました」
「いいじゃないか。ちょっと試してみるだけだ。おまえは、寝てればいいさ」
「兄貴、それじゃあ面白くないでしょう。いろいろやらしたらいいですよ。健はプロ並みだから」
「そうだな。おい、健。銀次にしたようにやるんだ。いいな」
俺は、じっとして黙っていた。
「報酬を上乗せしてやる。それなら良いだろう」
「いくら?」
「一万」
「合計四万だね」
「そうだ」
高原との二回戦が始まった。高原のペニスは、銀次のものより少し小さい。そのせいか痛みはあまり強くなかった。
俺は四万円を手にして浮き浮きしていた。生まれてこの方、四万円など、一度に手にしたことがなかったからだ。また声が掛かったら、貯金が増える。そう思っていた。
その二週間後、声が掛かって、俺は、再び三万を手にした。もう、痛みも出血もなくなって、金のためなら、毎日でも良いなと思い始めていた。
さらに三週間後、呼び出されて、待ち合わせの場所に行くと、銀次がいない。
「あれ? 銀次さんは?」
「銀次は、用事で来ない。銀次が来ないから、今日は嗜好を変えよう」
「何するんですか?」
「別の相手を呼んでるんだ。そろそろ来るはずだが・・・・」
別の相手? イヤだな。こういう仕事の相手は、複数じゃない方がいいんだけどな。
「おう、来た来た。おおい、樹里! ここだ、ここだ」
「お待たせ」
姿を現したのは、髪の長い、美人で背の高い女だった。キャミソールにミニスカートがよく似合う。年は二十五,六だろうか?
「えっ!? 女の人が相手なの?」
「そうだ。イヤか?」
「いえ、そんなことないですけど」
「わあ、可愛いわね。この子とやらして貰えるの?」
「頼んだぜ。童貞だからな」
俺が童貞だなんて、ひと言も言ってないのに。童貞なんだけど・・・・。
「樹里、そこの自動販売機で、ジュースを買う振りをしろ。コインが落ちて転がったのを、健が拾ってやって、仲良くなるってストーリーだ。さあ、いくぞ」
こんなことで、ホテルに行くほど仲良くなるなんてことは、現実には起こらないよなと思いながら、俺は演技する。
ホテルの部屋に入って抱き合うと、直ちにベッドイン。高原の指示に従いながら、樹里の服を脱がせ、ブラジャーを外した。樹里は、凄いデカパイだ。C、いやDカップはありそうだ。
高原に、乳首に吸い付いて、舌で転がせと言われるが、どうも要領を得ない。何しろこんな経験は初めてだから。
樹里は演技しているのか、ほんとに感じているのか、うめき声を漏らす。俺のペニスはガチガチになっていた。
それにしても、甘いいい匂いがする。俺は夢心地で演技を続けた。
「樹里! フェラやってやれ」
樹里が、俺のペニスを優しく口に含んだ。うまいなあ。銀次とは比べものにならないよ。あいつのは痛いばかりだ。俺は、あっという間に、樹里の口の中に爆発させてしまった。
「健君。元気がいいわね」
「ごめん。ちょっと早かったかなあ。高原さん、どうしよう?」
「気にしないでいい。樹里、そのまま、続けてやれ。若いから、すぐに回復する」
高原はいつになく優しい。良かった。怒られなくて。
樹里は、俺にキスして、首筋に舌を這わせた。さらに、俺の背中から、尻にかけて舌を使う。くすぐったさと、心地よさが渾然一体となって俺を襲う。
樹里の舌が離れた。ショーツを降ろす音がする。さあ、樹里と合体だ。初めての女性経験はどんなだろう? うまくできるだろうか? そう思った直後、肛門に何かを入れられた。俺がホモのビデオに出ていることを知っていて、作り物のペニスを入れたのだろうか? しかし、この感触は、本物のペニスだ。背中に、乳房が触れる。長い髪の毛も。いったい、どうなっているんだ!?
「健君、いいわ。わたし、いっちゃいそう」
樹里だった。樹里がピストン運動をしていた。そんな馬鹿なという思いだった。樹里がおうっと言う声を上げて、俺に中に放出した。
樹里には、ペニスがあった。振り返って、樹里の姿を見て、俺は呆然とした。
「高原さん、俺を騙したんだな」
「ほんとに、女とさせると思ったのか? おまえに、女とさせても絵にならん。そんなこともわからんのか?」
そうかもしれない。俺と女がやっているところなどのビデオなんて、誰も買わないだろう。
「樹里、いい絵が撮れた。たっぷり礼はするぞ」
「久しぶりに若い子とできて嬉しいわ。また、呼んでね」
ふつう、女の格好をしているホモは、女役なのに、樹里は、女の格好をしているのに、男役しかしないのだそうだ。まったく変な男だ。それにしても、股間を見るまでは、樹里は女だと信じて疑わなかった。
翌週、もう一度樹里と俺のビデオが撮られた。男の格好をして女役の俺と、女の格好をして男役の樹里との、この二本のビデオは、結構売れたと聞いた。
樹里とのビデオ撮りのあと、数日して銀次との絡みのビデオが一本撮られた。変な言い方だけど、俺は銀次とやる方がいい。
それから十日ほどたって、そろそろ声が掛かるかなと思っていたある日、俺は公園のベンチに座り込んで、ジュースを飲んでいた。目の前を、男女のペアが通り過ぎる。男は、中年の羽振りの良さそうなやつだ。女は、高校の制服を着ている。親子には見えない。援助交際というやつだ。
女は良いよな。ああやって、甘えた振りをするだけで、金になる。寝たら、五万や十万になると言う話を聞いたことがある。
俺は突然むかっ腹が立ってきた。ふたりに向かって、飲み終えたジュースの缶を投げつけてしまった。
「何すんのよ」
俺は、一目散に逃げ出した。男が、俺の投げたジュースの缶を拾い上げて、俺に向かって投げてきた。足元でからからと缶が転がる音がする。
「ば〜か。死んじまえ! おかまやろう」
女が、俺に向かってそう叫んだ。おかまやろうだと! 引き返してぶちのめしてやろうかと思ったが、止めた。相手はふたりだし、男は中年だが、俺に比べて体格が良い。敵う相手ではなさそうだ。確かにあれから散髪していないから、髪が伸びて、おかまに見えないこともない。仕事も仕事だし。散髪しないといけないな。しかし、腹が立った。腹が立って、ゴミ箱を蹴飛ばした。ゴミ箱の中から黒猫が飛び出して、俺の前を横切っていった。
携帯が鳴った。携帯は、銀次が連絡用にと、俺にくれたものだ。料金はどうなっているのか知らない。盗んだものなのか、それとも銀次が払っているのか。俺が金を支払う訳じゃないから、俺にとってはどうでも良いことだ。
「健か?」
「ああ、銀次さん」
「一時間後、いつものところで待ってる。いいな」
「分かった。すぐに出かけるよ」
俺は電車で、いつものホテルに向かった。ホテルに近いコンビの前で、車が待っていた。一緒にホテルの部屋に上がる。
「最近、売れ行き良くなくてな」
部屋に着くなり、高原がため息を付いた。
「樹里さんとのビデオが結構売れてるって聞いたけど」
「樹里とのやつは良かったんだが、樹里は階段を踏み外して、足の骨折って入院中なんだ。しばらく、使えない」
「じゃあ、銀次さんとするんですね」
「ああ、だが、マンネリになってるからな。少し工夫せんと・・・・」
「兄貴、どうするんですか?」
「そうだな・・・・。おまえと健がやってるところに、俺が乱入して、健を奪うってのはどうだ」
「ちょっとイメージが沸きませんが、やってみましょうか?」
「俺はどうしたらいいんです?」
「健は、今まで通りでいいさ。適当に演技してろ。じゃあ、始めるぞ。トシ! 回せ」
ベッドの上に座って待っている俺に、銀次が近づいてきて、キスする。服を脱いで、抱き合っていると、高原が、どこから持ってきたのか、目出し帽をかぶって、ナイフを片手に部屋に入ってきた。
銀次が部屋の隅でぶちのめされて、気絶する真似をする。高原は、目出し帽をかぶったままで、裸になり、俺に襲いかかる。
「健、少しは抵抗する真似をしないか」
「分かったよ」
抵抗する真似をすると、高原が俺を殴りつけた。気が遠くなりそうなくらい、ガツッとやられた。
「痛いよ。高原さん」
「このくらいやらないと臨場感がないんだ。文句言ってないで、続けるぞ」
昼間の出来事と言い、高原の傍若無人振りと言い、俺は頭にきていた。しかし、そんことは、顔にも出さず、俺は高原の為すがままにされていた。
高原が、俺の中で果てた。ここで休憩になると思ったのに、撮影は続けられた。
「おい、銀次。今度はおまえの番だ。手錠は持ってたな」
「持ってますけど、どうするんですか?」
「おまえに掛けて、おまえと健をやらせる。それを俺が見て喜ぶって寸法よ」
「なるほどね」
「健、おまえはぐったりした振りをして、ベッドに寝ていろ。いいな」
「ああ」
高原はナイフで銀次を脅す真似をして、後ろ手に手錠を掛けた。そうしてから、今度は高原が俺を脅して、銀次のペニスをなめさせるという具合だ。俺が銀次のペニスを嘗めている場面がビデオに撮られる。
「いいぞ、いいぞ。よし、銀次。健をうつ伏せにして入れろ」
手錠を掛けられた銀次と、俺がやっているのを、高原が見て喜んでいる場面がビデオに収められてゆく。
「これだけじゃ、面白くないな。健、四つん這いになれ」
「四つん這いだね」
俺は腰を浮かせて四つん這いになった。銀次が腰を動かし始めると、高原がベッドの上に上がってきた。何するつもりだろう?
「おい、健。俺のを嘗めろ」
「えっ! 嘗めるの? 洗ってきてよ。さっき、俺に入れたままだろう?」
「これでいいんだ。これでないといかんのだ」
そう言って、俺の糞にまみれたペニスを口に入れようとした。吐き気を催すにおいが鼻を突く。
「止めてくれよ。洗ってきてくれ」
「やかましい。早く嘗めろ」
頭を殴られた。ビデオは回り続けている。俺はやむなく、その臭いペニスをくわえた。もうやけっぱちだ。
「もっと舌を使え。このおかま野郎」
おかま野郎だって! その言葉に俺は切れた。俺はくわえていた高原のペニスを思い切り咬んだ。
「いてててて! この野郎! 何するんだ!」
俺は、高原に思い切りぶちのめされ、気を失った。