第6章 父親探し

 夢の中の男たちの顔は漠然としていて分からない。茜本人なら分かるかもしれない。クスリやアルコールで、人事不承になっていなければ、例え同時期に複数の男と関係を持ったとしても、女は妊娠させた男が誰だか分かると言うから・・・・。
 しかし・・・・。

 図書館で調べてみると、二重人格の異なった人格同士は意思の疎通ができないと書いてあった。何日かおきに今のぼくと茜の人格が入れ替わっているというのなら、ビデオにとって、互いに意志の疎通を図るという手がある。『ジキル博士とミスハイド』と言う、コメディー映画で見たことがある。しかし、今は茜の人格は完全に隠れてしまって表には出てこない。ぼくの心の奥底に隠れているはずの茜の人格に、お腹の中の子供の父親が誰なのか、聞き出すことはできないのだ。ぼく自身が探し出すしかない。
 この茜を妊娠させる可能性のある男は、ぼくが知っている限り4人だ。名前も顔もぼくの記憶にはないけれど、ともかくあの4人を探すことにした。それ以外の男だったら、あるいは、あれは夢で、男たちが実在しなければ、ぼくには捜しようがないのだが・・・・。

 まず、ピアノ男。あの教室の作り、準備室から考えると、高校の教師である可能性が高い。セーラー服の女子高生に歌を教えていたことを考えると、音楽関係の教師。趣味で音楽をやっていることも考えられるから、あまり限定しないほうがいいかもしれないが。
 あのピアノが置いてあった教室がどこか? ぼくの通う学校なら、ピアノ男を探すことは簡単だろう。そうでなかったら? そう簡単に行かない可能性がある。その時は、その時。その時になったら考えよう。
 つぎは、同級生らしい男の子。これも簡単だろう。イヤ、待てよ。あの男の子の制服は、いまぼくが通っている学校のものとは違うような気がするが・・・・。
 彼の家が分かれば、捕まえられるかもしれない。サザエさんの家のような家なんて、そうそうないだろうから・・・・。
 つぎは、先輩という男。部活の先輩? ただの上級生? あまりに漠然としている。街で会ったとき、下田喜美子が一緒だった。彼女の協力があれば、すぐにでも見つけられるだろうが、下田喜美子の協力を得るためには、・・・・妊娠しているとことを彼女に告白しなければならなくなるかもしれない。できるだけ、他人には知られたくはないが・・・・。
 最後のひとりが問題だ。素性がまったく知れない。この茜が、一緒にいてもっとも安らぐ男。ぼくは、そう感じた。それだけが手がかり。もし、この男だったら、とても見つけられそうにない。見つけられそうもないのに、ぼくの勘は、この男だと告げている。溜息が漏れる。
 考えていても前進はない。行動を起こすのが先決だ。

 妊娠が判明した翌日、学校へ行くと、校門前で下田喜美子に出会った。殆ど毎日彼女と校門前で出会う。彼女はぼくが行くのを待っているみたいだ。
 「お早う、茜」
 「お早う、キー子」
 「昨日はどうしたの?」
 「ちょっと風邪気味で・・・・」
 「茜が風邪引くなんて、何年ぶりかしらね」
 ぼくとしては短い付き合いだけど、下田喜美子の性格は、ぼくには分かっている。下田喜美子のこんな言葉に対する返事はこれしかない。
 「馬鹿は風邪引かないって、言いたいんでしょう?」
 「そんなこと言ってないよ」
 「嘘! そんな風に聞こえたわ」
 ぼくはふくれて見せる。
 「ごめん。誤るわ。茜は健康管理がいいから、風邪引かない。そうでしょう」
 「分かってりゃいいの。早めのパブロンってコマーシャルを実行したまでよ」
 「もういいの?」
 「薬飲んで一日中寝てたから、もう大丈夫よ」
 「さすが、健康優良児! わあ、ホームの時間になっちゃう。急ごう!」
 「あんたが、引き止めるからよ」
 「茜がもっと早く来ればいいのよ」
 そんな風に言い争いながら、教室へ入っていった。
 下田喜美子。ほんとにいい友達だと思う。女同士の親友はできないと言うが、彼女とは、親友になれそうだ。イヤ、もう親友に違いない。

 昼休み、下田喜美子がずっと一緒だったので、ピアノ男がいた教室を探しに行けなかった。しかし、あてはついている。東校舎には、それらしい教室はない。あるとすれば、西校舎だ。しかも、3階か4階だ。

 校門の前で下田喜美子と別れた後、彼女が角を曲がるのを確かめてから、校舎へ戻った。
 上履きに履き替えて、西校舎を上る。3階は、いくつかの一年生のクラスルームと理科室、それに空き部屋。目的の部屋はない。4階へ上る。
 階段を昇ると、ピアノの音が聞こえてきた。ピアノの音が聞こえる右方向に曲がる。一番奥に見覚えのある部屋があった。音楽室と書いてあった。中からピアノに合わせて、歌声が聞こえてくる。あのピアノ男がいるかもしれない。ぼくは、窓から中の様子を窺った。
 窓から見た部屋の様子は、まさに夢の中で見たものと寸分違わぬものだった。右奥に、ピアノがあって、セーラー服を着た女子高生が5人立って、歌っていた。
 ピアノを弾いている人物の顔は見えない。顔は見えないが、スカートが見えた。ピアノを弾いているのは、女性のようだ。
 しばらくして、ピアノの音が止まり、ピアノを弾いていた人物が立ち上がった。
 「だめだめ。こんなんじゃあ、コンクールには出られないわ」
 トンボ眼鏡をした、ショートカットの丸顔の女性の姿が目に入った。
 違った。しかし、場所は間違いなくここだ。さらに確かめるため、廊下を反対側へ歩く。隠れてセックスした現場を探すのだ。胸がどきどきし始めた。

 廊下の突き当たりの左側にその部屋があった。掲げられた札には準備室と書かれてあった。引き戸には、鍵が掛かっていた。
 中を確認できないと諦めかけて、鍵の掛かったドアとは違うドアを動かしてみた。ドアはがらりと開いた。
 普通人間は、ドアに鍵が掛かっていると、中に入れないと思って諦める。だから、反対側のドアを動かそうなどとは思わない。これは盲点なのだ。外から鍵が架けられた部屋の中で、セックスしているなんて、誰も思わないのだ。
 中に入ってみる。夢の中で何度も通った通路。バレーボールやバスケットボール、立て看板。準備室というより、ガラクタ倉庫だ。
 記憶の中にあるように進むと、最初に夢の中で見た椅子があった。その横に、くるくると巻かれたマットレス。この場所に間違いない。心の中にぽっかりと穴が空いた。
 あの夢は、夢ではなく、現実だった。ピアノ男が現実にいた。と言うことは、茜は、ぼくの直感どおり、複数の男と関係を持っている。
 父親さがしの糸口が見つかってほっとしたものの、自分がそんな女だったとはっきりしたことで、悲しくなった。そして、自分を疎ましく思った。
 茜! ぼくだって逃げ出したいよ!!

 ぼくは考える。外部からやって来て、この部屋を使うことは考えられない。ピアノ男は、この高校の教師だ。
 ピアノ男の顔ははっきりしないが、会えば絶対分かる。そんな確信が沸く。職員室には、まだ何人か教師が残っている。しかし、今日は時間が遅い。明日の朝、何か理由を付けて、職員室へ行ってみることにした。

 妊娠が分かって以来、茜の母親はぼくの顔を見ると八つ当たりし、涙を流した。
 「茜!! 白状しなさい! 相手はいったい誰なのよ」
 「分からないわ」
 「分からないなんてことはないでしょう。それとも、意識がない間に強姦されたとでも言うの?」
 そう言う可能性もないことはないが・・・・。
 「妊娠してるんだから、セックスしたのは認めるわ。でも、セックスしたときの記憶がないの」
 「そんなことがあるものですか!」
 「信じてよ! だから、相手が分からないのよ」
 「信じられないわ」
 それはそうだろうなと思う。しかし、ぼくはそう答えるしか他に、いいアイデアを思い浮かばないのだ。
 「お父さんに、何て言ったら・・・・」
 茜の父親には、まだ連絡していない。相手が分かるまでは言わないつもりらしい。その前に気がつけば別だが、男というものは、結構気付かないものだ。

 翌日、少し早めに家を出て、職員室へ向かった。ホームルームの時間が始まる前に、教職員の朝礼があっているはずだ。
 職員室の前に立つと、校長の声が聞こえてきた。すぐにがたがたと椅子を動かす音がしてきた。朝礼が終わったようだ。
 ドアから、教材を抱えて教室へ向かう教師の姿が見え始めた。ひとりひとりチェックする。・・・・いなかった。ぼくの顔を見て、顔色を変える教師もいない。職員室の中を覗いてみたが、やはりそれらしい教師はいなかった。
 「倉橋、何やってる。ホームルームが始まるぞ」
 担任教師が声をかけてきた。
 「先生、この問題の解き方教えてください」
 こんな時の用心に持ってきていたノートを見せた。
 「これか・・・・。すぐには無理だな。放課後、わたしの机まで来なさい。教えてあげるよ」
 「すみません」
 ぼくは、担任に笑顔を向ける。
 「倉橋」
 「はい」
 「独身の先生に、そんな笑顔を向けるなよ。誤解されるぞ」
 「先生は?」
 「ば、馬鹿なこと言うな」
 担任は、顔を赤くして、ぼくを置いて歩き始めた。ぼくのこの容姿。その気になれば、どんな男でも落とせると言うことだろう。

 放課後と言われたが、昼休みの方がいいと思い、下田喜美子と食事をした後、職員室へ行った。
 「なんだ。もう来たのか?」
 「解けないと、何だか落ち着かなくて・・・・」
 「最近数学の成績が上がっているが、どうしたんだ?」
 「先生のお蔭です」
 担任は、ちょっとどぎまぎした表情をしてから、ぼくから顔を背けて、ノートの問題を説明し始めた。可愛い男だと思った。女であること、それもとびっきりの美人であることを利用するなんて、ぼくは悪い女だ。女って言うのは、そんなものなのかなと漠然と思う。
 説明して貰っている問題の解答は分かっている。ぼくは担任に説明に適当に頷きながら、職員室の中を見回した。どう見ても、ピアノ男はいない。あの背丈、あの体格、あの年齢。それに合致する人物がいないのだ。
 「さあ、分かったかな?」
 「よく分かりました。・・・・先生?」
 「何だ?」
 ぼくと話すのが嬉しそうに、担任はぼくに笑顔を向ける。
 「今日は、先生方は、どなたも休んでいないんですか?」
 「誰も休んでいないと思うが、どうしてだ?」
 「な、何でもありません」
 「そうか。また分からないことがあったら来なさい。いつでも教えてあげるから」
 「ありがとうございます。失礼します」
 今日は誰も休んではいない。目的の教師はいなかった。夢の中のピアノ男の記憶がおかしいのだろうか?

 廊下を教室へ向かって歩いていると、昨日音楽室でピアノを弾いていた丸顔の女教師が、女子生徒と話しながら歩いてくるのに出会った。
 「先生、赤ちゃん、大きくなった?」
 「ええ、もう、抱くのが大変」
 「見に行ってもいいですか?」
 「いいわよ」
 擦れ違ってから、はたと気付いた。あの女教師は出産したばかりだ。出産の前後は産休を取る。その間、臨時講師が来ていたはずだ。
 臨時講師なら、今はもうこの学校にはいない。茜の相手は、その臨時講師かもしれない。男ならば・・・・。
 どうやったら、分かるだろうか? その臨時講師の名前、現在の居場所。

 「茜! 何、ボーっとしてるの?」
 「ああ、キー子。何でもないわ」
 「茜、あんた、この頃おかしいわね。何かあったんでしょう?」
 「何にもないわ。何も・・・・」
 そのうちばれるだろうが、まだ打ち明けるわけにはいかない。
 「後藤先生のことが忘れられないんでしょう?」
 「えっ!?」
 「とぼけちゃって。あんなに後藤先生のことばっかり言ってたのに・・・・」
 後藤先生? 誰のことだろうか? 下田喜美子から、何か情報が得られそうだ。話しを合わせて、探り出すことにした。
 「わたしのことなんて、相手にしてくれないから・・・・」
 「茜が迫って断られたのは、後藤先生くらいなものね」
 この茜の方が迫った!? もしかすると・・・・。
 「自信、あったんだけどなあ」
 「音楽だけが恋人って言ってたけど、ほんとかしら?」
 音楽が恋人! この男に違いない。
 「そんなの言い訳よ。きっと、ホモなのよ」
 「そ、そうだわ。茜。そうじゃなかったら、茜の魅力に勝てるはずがないわよ」
 下田喜美子は、頷きながらそう言う。
 「最近、ホモが多いって言うからねえ」
 「ホモって言えば、わたしの胸を揉んでくれるって、言ってなかった? 茜」
 「揉んであげるわ。お姉さんが」
 「わたしの方がお姉さんよ」
 「おっぱいはわたしの方が成長してるわ。さあ、揉ませて!」
 「やだやだ」
 逃げ回る下田喜美子を追いかけて昼休みが過ぎた。

 音楽の臨時講師だった後藤という男。茜の相手のひとりに違いない。しかし、行き場所が分からない。
 数日たって、机の引き出しを整理していると、秋の文化祭の役員名簿が出てきた。捨てようとして、その名簿に、音楽担当、後藤純一の文字を見つけたときには躍り上がった。名簿には連絡先電話番号が書かれている。電話番号の横に、鉛筆書きで住所が記されていた。茜が書き込んだのに違いない。

 次の日曜日、ぼくは記された住所を探しに出掛けた。メモを見ながらうろうろしていると、路地から出てきた男の後ろ姿が目に入った。ぼくの直感が、この男がピアノ男、後藤純一だと告げていた。
 電車に乗り込む男の横顔は、正しくピアノ男だった。いつ声をかけようか? そう思いながら、後を尾けていった。
 ピアノ男は、さる女子校へと入っていった。日曜日に仕事だろうか? グランドではソフトボール部、体育館では、バレーボール部、体操部が練習をしていた。
 ぼくは、女子校の生徒のような振りをして、さらにピアノ男の後を追う。ピアノ男は、音楽室へ入っていった。合唱部か何かの練習だろうか?
 そっと中を覗くと、ピアノ男は女子校の生徒と何か話していた。手を肩に掛け、随分親しそうだ。
 それから、キョロキョロと見回して、続きの部屋へ入っていった。しばらく待ったが出てこない。ぼくは、中に入って準備室のドアの小窓から中を覗いてみた。
 そこに見えたものは、下半身丸出しのピアノ男の後ろ姿だった。女子校の生徒の白いお尻も見えた。
 ピアノ男は、臨時講師で訪れる学校で、女生徒を引っかけているのに違いなかった。

 ぼくは、バタンとドアを開けた。ピアノ男の引きつった顔がぼくを見た。
 「お、おまえは・・・・」
 「また、やってんの。好きなのね」
 ピアノ男は、慌ててズボンを上げ始めた。
 「何しに来たんだ」
 「責任を取ってもらおうと思って・・・・」
 「な、何のだよ」
 「このお腹を見たら分かるでしょう?」
 ぼくは少し大きくなり始めていた下腹部を指さした。
 「子どもができたのか?」
 「そうよ」
 「し、知らない。お、俺じゃない。い、いつもコンドームをしてたじゃないか」
 顔は青ざめ、その声は震えていた。
 「でも、できたの」
 「お、俺の子じゃない。・・・・俺の子どもだって証拠があるのか?」
 「・・・・ないわ」
 「じゃあ、何で俺の子だって言うんだ?」
 「わたしと最後にしたのはいつだっけ?」
 「おまえの学校を止める前だったから、9月の終わりだよ」
 「じゃあ、可能性はあるわ。妊娠したのは8月だもの」
 「8月? 8月なら、俺は学校へ行ってない。夏休みだからな。おまえとも会ってない。だから、俺じゃない」
 ピアノ男は、少しホッとしたような顔になった。
 「ほんとなのね」
 「嘘何か言うもんか。俺は8月には、絶対おまえとはやってない」
 「そうなの。じゃあ、あなたとは違うかも」
 「違うさ」
 「DNA鑑定してもらうかもしれないから、逃げないでね」
 ピアノ男は押し黙った。
 「あなた。遊びのつもりならいいけど、こんな男は止めた方がいいわよ。わたしみたいに泣きを見ないうちにね」
 ぼくはそう言い残すと教室を出た。女子生徒の泣き声を聞きながら、階段を降りていった。

 DNA鑑定するかも何て言ったけど、8月はしていないと言った言葉が本当ならば、茜を妊娠させた男はピアノ男ではない。それに、あの男を見て分かった。お腹の子どもは、あいつの子どもじゃない。絶対違う! ぼくの勘がそう伝えていた。

 『臨時音楽講師、学校内で不純異性行為』の大きな見出しが出たのは、水曜日の夕刊だった。あの女子生徒が訴えたらしい。卒業したら、結婚すると偽って関係を持っていたとのことだ。他校でも同様の行為を繰り返していたと報じられていたが、倉橋茜の名前は出ていなかった。少しほっとした。

 ピアノ男の捜索に平行して、同級生らしい男のことも調べていた。一緒に勉強するところを見ると、同学年と考えるのが一番妥当だ。
 春に撮られた集合写真の中には、目的の男の子は見つからなかった。一年前の写真の中にもなかった。
 夢の中の記憶に間違いなければ、制服が違っていた。茜の通う学校の生徒ではないのだ。この広い東京で、夢で見た制服と同じ制服を見つけることは、まず無理な話しだ。
 しかし、あの男の子の母親は、茜のことを良く知っているようだった。親しげに、『茜ちゃん』と語りかけていた。近所か? それとも中学生時代の同級生か?
 中学校時代の卒業アルバムを引っぱり出して、1組から順に調べていった。3年2組に茜の顔があった。
 3年5組に、あの男の子だと思う男子生徒の写真が出ていた。アルバムの後ろのページを調べる。住所は? 住所は、倉橋家から近い。この男の子に違いないと思った。

 ピアノ男に一発かませた日、帰りにその住所を尋ねてみた。しかし、その住所にあった家は、サザエさんの家ではなかった。
 「あら? 茜ちゃんじゃないの。元気にしてた?」
 ちょうど玄関から出てきた母親らしい女性に声をかけられた。しかし、夢の中で見た母親とは違っていた。
 「はい。義男君は元気ですか?」
 「元気なのか、連絡がないのでさっぱりなのよ」
 「何処かに行ってるんですか?」
 「あら? 茜ちゃんには言ってなかったかしら? 大阪の私立に行ってるのよ。課外授業だって、夏休みもお正月も帰ってこないのよ。まったく困ってしまうわ」
 「そうなんですか。帰ってきたら、会いたいって言っていただけますか?」
 「茜ちゃんが会いたいって言うのを聞いたら、喜ぶでしょうね。言って置くわ」
 「じゃあ。失礼します」
 ずっと大阪だと言うし、母親が違うから、芝北義男ではない。もう一度、アルバムチェックだ。

 家に戻ると、もう一度卒業アルバムを引っぱり出して調べた。調べていなかった3年6組に、これこそはと言う男の子がいた。住所も近い。まだ日が高い。すぐに出掛けていった。
 佐藤俊介の家は、間違いなく夢で見たサザエさんお家だった。中に入ろうかと迷っていたら、後ろから声をかけられた。
 「茜、久しぶり。元気だったか?」
 夢の中の男の子。顔を覚えていなかったのに、出会った瞬間に思い出した。この男の子だ。
 「あ、ああ。お久しぶりね、俊介」
 「寄って行けよ」
 そう言うと、佐藤俊介はさっさと玄関へ向かった。ぼくは、後に付いていった。玄関で靴を脱ぎながら、話しかける。
 「ご両親は?」
 「親父は、ゴルフ。おふくろは、同窓会」
 「じゃあ、誰もいらっしゃらないの?」
 「好都合じゃないか。久しぶりに、茜の裸を見たい」
 「太っちゃったわ」
 「そう言えば、そうかな? とにかく部屋へ行こう」

 部屋に入るなり、抱きしめられてキスされた。
 「止めてよ」
 「俺のこと、嫌いになったのか?」
 「好きとか嫌いとかの問題じゃないわ。いきなりはいやよ」
 「いつもは、おまえからキスしてきたのに?」
 ぼくは睨み付ける。
 「やっぱ、嫌いになったんだろう? ここ3ヶ月、ぜんぜん連絡がなかったもんな」
 ぼくが茜になってから、どの男とも連絡はしていない。それは当然だ。
 「8月はここに来たわよね」
 「8月? 8月は来なかったんじゃないか?」
 「ほんとに?」
 「覚えてないのか? ・・・・いや、8月は一度来た。生理が終わったから、生でやらしてくれるって言って、ここに来たじゃないか」
 「そうだったわね・・・・」
 「なあ、やらせてくれよ」
 「だめ」
 「ここまで来て、それはないだろう?」
 「お腹の赤ちゃんに障るからだめなの」
 佐藤俊介の驚いた顔と言ったらなかった。
 「お、俺の子どもじゃないよね」
 「お盆過ぎには、わたしとやってないわね」
 「お盆過ぎに妊娠したのか?」
 「その可能性が高いらしいわ」
 佐藤俊介は、ほっとしたような顔になった。
 「じゃあ、おれの子どもじゃない。8月初めにしてから、次にしたのは9月の中頃だったからな」
 「8月に、生でしたときかも知れないわ」
 「生理が終わったばかりだっていったじゃないか!」
 「あれは嘘よ。少し時間がたってたの。可能性はあるわ」
 「勘弁してくれよ。なあ、堕ろすんだろう?」
 「もう、堕ろせないわ」
 「17で、父親なんてイヤだよ」
 「父親って、結婚してくれるの?」
 「・・・・茜となら、結婚してもいいけど・・・・」
 「そう。・・・・じゃあ、また連絡するわ」
 茫然とする佐藤俊介を残して家を出た。可能性はゼロではないが、この男でもないようだ。しかし、結婚してくれると言った。もし、見つからなければ、悪いけど父親になってもらおう。
 女って言うのは狡いなと思った。