第3章 妙な夢

 最近、また頭痛がひどくなってきた。ほとんど毎日、ボルタレンと言うオレンジ色の錠剤の世話になっている。

 先週、あんまり頭が痛いものだから、医者に掛かった。
 「眼精疲労。職業病ですな」
 「職業病?」
 「モニターを一日中見ているから、目が疲れるのです。・・・・そうですね。薬は差し上げますが、根本的には、モニターを見ないことです」
 「そんなことはできませんよ。仕事ですから」
 「そうでしょうね。まあ、1時間仕事したら、10分間目を休める。これが、まあ、わたしがお勧めする方法ですね」
 「1時間仕事したら、10分休むんですね」
 「そうです」
 「やってみます」
 「どうしても痛かったら、この薬を飲んでください」
 そう言われて、もらった薬がボルタレンという薬だ。この薬は良く効く。良く効くが、胃が痛くなる。胃薬ももらっているが、やっぱりしくしくと胃が痛い。
 頭が痛いのを我慢するか? 胃が痛むのを我慢するか? 今度病院へ行ったら、胃薬のもっと強いものをもらおう。それしかない。

 飽きもせず、チラシ作り。退屈な毎日。夜見る夢だけが、ぼくの楽しみだ。しかし、女装した姿は見たくない。
 昨日の夜、変な夢を見た。こんな変な夢を見たのは初めてだ。

 ぼくは広い部屋の入り口に立っていた。部屋の右手には、濃い緑色の黒板があった。左手の奥にも同じ様な黒板。スチールで出来た椅子と机が何組か部屋の隅に置かれていた。ぼくが通った高校では見かけない風景だ。どこか別の学校の部屋の中のようだ。
 部屋の右奥にピアノがある。そのピアノのそばにセーラー服の女の子が立って、大きな声で歌っている。見たことのない女の子だ。
 その女の子の向こう側に、ピアノを弾く人物が座っていた。その人物に、ぼくは声をかける。
 「お先に失礼します」
 「ああ、気を付けてな」
 「はあい」
 ぼくは、踵を返して、教室を出る。校舎の中には、もう誰もいない。窓から校庭を見ると、野球部の選手たちが声を上げながら練習していた。これも、過去に見たことのない風景だ。
 ぼくは、階段を降りずに、廊下の突き当たりにある、準備室と書かれた部屋の中に入った。部屋の中には、体育祭に使われた小道具や、バレーボール、バスケットボール、旗や幟の類が所狭しと置かれている。
 ぼくは、部屋の奥へと進んでいく。どうしてそんなところへ行くのか分からなかった。一番奥の物陰にある椅子の上に腰掛けて、ぼくはじっと待つ。何を待っているのか、それも分からなかった。
 これが夢だと言うことは、ぼくには分かっていた。夢の途中で、それが夢だといつも気付く。面白くない夢の時は、少し修正を加える。面白い夢の時は、その夢に没頭する。
 この夢はいったい何なのだ? 何が起ころうとしているのか分からない。ぼくは、しばらく成り行きに任せることにした。

 15分ほどして、人影が現れた。さっきピアノを弾いていた人物だ。顔を真っ正面から見ているのに、顔がよく分からなかった。まあ、こんなことは夢の中では良くあることだからと、ぼくは気にもしていなかった。
 「待ったか?」
 「ちょっとだけね」
 ? ちょっとだけね? まるで女のような言い方。ぼくの発した言葉とは思えないが・・・・。
 「今日はいいのか?」
 「だめよ」
 「じゃあ、口でやってくれ」
 「いいわ」
 ぼくはやっぱり女の口調で答えている。口でやってくれって、どういう意味だ? そう思っていると、目の前の人物が、ベルトを緩めてズボンをおろし、局部を露出させた。
 な、何をさせるつもりだ! 男が近づいてくる。ぼくには次に起こる事態が分かっていた。ぼくは夢を中断させようと藻掻いた。しかし、夢は続く。
 ぼくの意志とは関係なく、ぼくはその雄々しくせり上がったものを口に含んで、丁寧に舐め始めた。
 こんな変な夢は嫌だ。こんな夢を見るくらいなら、女装している夢のほうがましだ。早く醒めてくれ!! そう願うのに、夢は覚めない。ぼくは、尚も舌を使い続ける。相手の男は、腰を使い始め、ぼくの喉の奥を突く。そして・・・・。ぼくの口の中へ男はぶちまけた。
 これまでの夢だったら、こんな夢は見ないし、味も臭いもなかったのに、あの独特な臭いがぼくの口の中へ広がった。
 逃げ出さなきゃと思うのに、体はまったく反応しない。男の排出した白い液体を跡形もなく舐めあげると、ぼくは言う。
 「美味しかったわ」
 「すごく上手かったよ」
 男がズボンをあげて出て行き、ぼくはしばらく待って部屋を出ていった。階段を降りて、校庭に出たところで目が覚めた。

 目が醒めたのに、あの臭いが口の中にまだ残っているような気がした。何とも言えない不快感がした。
 その時、股間に冷たいものを感じた。トランクスをはぐってみると、精液の臭いが鼻腔を突いた。黒い陰毛の中に白い精液がべっとりと付いていた。
 あの夢を見ながら、ぼくは射精したのだ。夢精なんて、二十歳を過ぎてから一度もなかった。それなのに、あんな夢で夢精するなんて。嫌悪感で、身震いがした。
 どう思いだしても、ぼくはフェラチオをする側で、される側ではなかった。それなのに・・・・。なんて夢だったんだ。ぼくはホモになった夢を見たのか? 男としてみたいと言う願望が、ぼくの心の奥底にあるのだろうか? ぼくは、そんなはずはないと否定してみたが、ほんとはそんな思いがあるのではないかと自分で自分が恐ろしくなった。

 頭痛はいったん軽くなったのに、再びぼくを襲ってきた。気になって、脳外科を受診してみた。
 「頭痛を馬鹿にすると、重大な病気が隠れていることがありますからね。CTを撮っておきましょう」
 そう言われて、早速CTを撮ってもらった。しかし、結果は異常なし。やはりボルタレンを処方された。胃が悪いというと、ガスターと言う、胃潰瘍の薬も一緒に処方してくれた。テレビコマーシャルで、ガスター10という薬を宣伝しているが、もらったガスターには、20と書かれていた。倍の効果があるのだろうか?

 あの妙な夢から三日目、またもや、信じられない夢を見た。
 ぼくは、鞄を抱え帰宅の途にあった。同級生らしい男と一緒に歩いていた。ふたりで何かを話しているのだが、何を話しているのか分からない。楽しそうに話している途中で、これは夢だなと気付いた。
 ぼくはその同級生の家に立ち寄った。その家は一戸建ての二階屋だった。漫画のサザエさんの家のような入り口をふたりで入っていった。玄関も、今流行りのアルミ製ではなく、ガラスの引き戸だ。
 「ただいま」
 「○○○、お帰り」
 家の中から母親らしい声がした。同級生の名前を呼んだはずなのに、何と呼んだか分からなかった。確かに聞いたはずなのに。夢だからな。ぼくは、そう理解した。
 「あら? ○○○ちゃん、いらっしゃい」
 ぼくの名前も呼んだようだが、これも分からなかった。
 「お邪魔します」
 ぼくは、靴を脱いで、同級生について部屋に入った。
 「今日は数学をやろう」
 ふたりで一緒の勉強するつもりだ。なんて面白くない夢だ。勉強する夢なんて!! 夢を切り替えようとしたが、切り替わらない。どうしたことだ!? まあ、数学は好きだから良いものを・・・・。
 鞄の中から、教科書とノートを取り出して、ふたり向き合ってペンシルを走らせ始めた。ぼくは諦めたように、ノートの目を落とす。何かを書いているのに、何を書いているのか目に届かない。
 しばらくして、母親がジュースの入ったコップを盆に乗せて部屋に入ってきた。
 「はい、これ飲んでね」
 「すみません」
 「お母さん、お買い物に行ってくるから。玄関は鍵を架けておきますからね。誰か訪ねてきても出なくていいから」
 「いつ頃帰るの?」
 「そうね。1時間くらいでしょうね」
 「分かったよ」
 「○○○ちゃん、夕ご飯食べていく?」
 「いえ、5時には、帰ります。今日は、お父さんの誕生日なんです」
 「そうなの。じゃあ、それまで、しっかり勉強してね」
 「はい」
 母親が部屋を出て行き、玄関に鍵を架ける音。車のエンジンが掛かる音がして、家から走り去っていった。
 お父さんお誕生日!? ぼくには父はいない。生まれてから一度も父の顔を見たことがない。それが、父の誕生日だって!? 父が欲しいという願望の現れか?

 走り去る車の音を確かめると、同級生の男が立ち上がって、ぼくのそばに座った。ぼくはその同級生の方を向いて、にこりと微笑む。いや、微笑んだと思うのだ。同級生がぼくに向かって微笑んだから。そして、ぼくはその同級生とキスし始めた。
 まただ。また、ホモみたいな行為をしようとしている。夢は醒めようとしない。ぼくは夢中で同級生の唇を貪り続ける。
 同級生がぼくを床の上に押し倒し、ぼくの胸を揉む。胸を揉むだって!? ぼくは、目を瞑ったまま同級生とキスしている。ぼく自身を見ることができない。しかし、ぼくの胸には乳房がある。そんな感触が脳味噌に伝わってくるのだ。
 その時になって、ぼくは自分がスカートを穿いていることに気がついた。ぼくは、女なのか!? 女になった夢を見ているというのか!?
 同級生がそのスカートをめくりあげ、パンティーの中に手を入れてくる。ぼくのそこに、じっとりとした感覚が沸いてくる。
 同級生の指に探り当てられた小さな隆起が快感を伝えてきた。
 「あ、ああ、ああーーー」
 ぼくは、歓喜の声を上げる。同級生は、ぼくの下半身から、パンティーを剥ぎ取り、顔を埋めた。今ぼくの体にある、小さな隆起と襞を嘗められる。凄い快感だ。
 夢だというのに、どうして、こんな感覚をぼくが覚えるのだろうか? さっぱり分からない。
 ぼくはうつ伏せになり、胸を床につけて腰を上げる。スカートが、強い風にあおられた傘のように反転し、ぼくの下半身は剥き出しだ。
 「コンドーム、してね」
 「分かってるよ」
 ちょっとした合間。その時間が待ち遠しい。・・・・ぼくは、女として、セックスすることを望んでいる。夢とはいえ、ぼくは・・・・、ぼくには、やっぱりホモの気があるのか!

 ぼくの望んでいたものが、ぼくの中に押し入ってきた。なんて素晴らしいんだ! ぼくは、同級生の動きに合わせて腰を振る。クチュクチュクチュと言う音が部屋の中に響く。なんていやらしい音なんだ!
 「あんあんあん」
 夢の中の中山美穂が発した声を、ぼくが発している。もの凄く気持ちがいい。ほんとに夢なのか、疑ってしまう。女になっているんだから、夢なのは当然なのだけど・・・・。
 同級生が、ぼくの中で弾け飛んだ。ぼくは、経験したことのない快感の中で、意識を失った。夢の中で、意識を失うなんておかしいと思ったが、実際にそうだった。

 目が醒めると、ぼくはぼくのベッドの中にいた。夢だから、醒めれば自分の部屋の中にいるのは分かっていたが、奇妙な違和感を覚えた。
 やっぱり射精していた。

 頭痛は相変わらずだ。医者に言われたように、仕事を1時間したら、10分休むことを続けているのに、まったく効果が現れない。ボルタレンなしには一日を過ごせない。ただ、ガスターのお蔭で、胃の調子は戻っている。

 夢に、あのピアノを弾いていた男が出てきた。場所はやはりあの部屋、準備室だ。あの時と違うのは、部屋の中にマットレスが敷かれていることだ。体育の授業で使う固いマットレスだ。
 ぼくは、仰向けに横たわって、男を受け入れている。最初の夢の時は、ぼくは、ぼく自身は男で、相手の男にフェラチオをやってやったと思っていた。しかし、それは間違いだった。この夢の中でもぼくは女で、あの時は生理中で、セックスができなかった。だから、口でやってあげたのだ。
 生理中ねえ。どうしてこんな設定になっているんだろうか? 夢の中だから、そんなことはどうでもいいだろうに・・・・。
 正常位で、男と向き合っているのに、顔はやっぱり分からない。
 コンドームは着けてもらった。どうしてコンドームに拘るのだろうか? 夢なんだから、妊娠の心配はないのに。それに、ぼくは男なんだから・・・・。
 最近見るぼくの夢は、拘りだらけだ。

 男に突かれて、ぼくは声を上げそうになる。
 「外に聞こえる」
 そう言われて、ぼくは声を押しつぶす。一生懸命堪えるぼくの口から、小さな呻き声が漏れる。
 「うんうんうんうん。あああーーー」
 「声を出すなって言ってるだろう」
 「だって、気持ちいいんだもん」
 あの最中に、声を出すなって言うのが無理な話しだ。こんな場所でやらなきゃいいんだ。
 男は、ぼくの口を塞ぐ。指の間から声が漏れる。男がぼくの中で果てた。勢いがちょっとない。気持ちは良かったが、不完全燃焼だ。しかし、ぼくは男に抱きついてキスをした。
 「良かった」
 「そうね・・・・」
 そう言いながら、ぼくはうとうとと眠る。この後、ふたりはどう始末するのか? 夢だから、どうでもいいことなんだが・・・・。

 不完全燃焼だったせいか、今朝は夢精しなかった。不思議だ。夢の中の女の感じ方と、ぼくの体が連動している。

 最近になって気がついた。頭痛がひどくなってくると、あの夢を見る。あの夢を見て満足すると、しばらくの間頭痛がないのだ。どうなっているんだろう?

 あの夢を見て以来、他の夢は見なくなった。女になって、女としてセックスする夢しか見ないのだ。
 ぼくは性的に飢えている。それは間違いない。しかし、男としてセックスする夢ならともかく、女になって女としてセックスするなんて・・・・。ぼくの心は歪んでいる。

 今また、ぼくは夢の中にいる。ぼくは、女子高生。ただ、今日は日曜日で、私服のセーターにジーンズ。ふわふわした白い襟の付いた、茶色のコートを羽織って外出の準備をしていた。
 「○○○、○○○ちゃんが来たわよ」
 ぼくの母親らしい女性の声がした。一緒に出掛ける友人がやってきたらしい。
 「はあい。すぐに降りるわ」
 玄関に降りると、同じ様な格好をした女の子が立っていた。顔を見ると、以前お喋りをしたあの女子高生だ。
 「さあ、行きましょう」
 まさか、今度はこの女の子と寝るなんて言わないだろうね。そんなことを思いながら、玄関を出た。
 バス停まで歩いていく。ぼくたちはお喋りに夢中だ。いったい何を話しているのか気になるが、内容はさっぱり分からない。

 バスに乗って繁華街まで出た。ふたりでウインドウショッピング。ぼくはミニ丈のスカート、彼女はワンピースを買った。
 デパートの食堂街で、ランチを食べる。ランチが終わって、またまたウインドウショッピング。その間、ぼくたちはずっとお喋りしている。以前、この女の子と喋っているときにも思ったが、女って言うのは、ほんとにお喋りが好きだなと言うことだ。

 午後3時頃(と思う)、ぼくたちふたりの顔見知りらしい男と出会った。
 「せんぱあい、お久しぶり!」
 「やあ、ほんと、久しぶりだな」
 笑顔で近づいてくる男は美男子だ。・・・・のはずだ。美男子だと思ったのだから、顔は見ているはずなのに、思い出そうとするとのっぺらぼうなのだ。
 しばらく路上で話し込む。ややあって、一緒だった女の子が先に帰ると言いだした。
 「まだいいじゃないの」
 「邪魔したくないからね」
 彼女は手を振って先に帰ってしまった。どうやら、彼女と寝るんじゃなくて、この男と寝ることになりそうだ。
 「コーヒーでも飲もうか?」
 「いいわ」
 ぼくは男について、近くの喫茶店に入った。それから、気が遠くなるくらい話しをした。男は我慢しているのか、慣れているのか、頷きながら、ぼくの話しを聞いている。
 「あっ! バイトの時間だ。じゃあ、また今度」
 男はそう言って、店を出ていった。あれ!? どうなってるんだ? 期待していたのに、これで終わり?

 それで終わりだった。夢から覚めた。夢の中での出来事なのに、ぼくはもの凄くガッカリしていた。こんな感情が沸くなんて、自分で自分がおかしいんじゃないかと思う。しかし、それが現実なのだ。

 またもや固いマットレスの上。バックで突かれている。ぼくは口にタオルをくわえて、声を殺していた。
 いつまでたっても男はいかない。ぼくはもう二度達していた。もういいよ。そんな感じだった。
 三度目が訪れ掛かったとき、男は諦めて、ぼくから離れた。
 「すまん」
 「どうしたの?」
 「年かな?」
 「そんな年じゃないでしょう?」
 「ちょっと飲み過ぎかな?」
 「そうかもね」
 「こんどはちゃんとやるから」
 ぼくは、笑顔を返す。しかし、この男とはもう止めようと思っていた。上手くやれても、勢いがないから・・・・。

 目が醒めても中途半端な気持ち。ぼくはマスをかいて射精した。この快感よりも、夢の中で得られる快感の方がいいような気がする。

 夢の中で、あの男の同級生とした。慣れていないせいか、愛撫も簡単。あっという間に終わる。しかし、勢いがある。骨盤の中に爆発するような快感が生まれる。若い男はいいなと思う。
 ぼく自身はどうだろうか? 堅さも少し落ちてきたように感じるし、勢いもなくなってきたか? いや、まだまだ大丈夫だとは思うが・・・・。

 頭痛がひどくなってきた。今晩は、夢を見られそうだ。ピアノの男はもういい。あの同級生がいいなと思いながら、ベッドの中に入った。

 ぼくは喫茶店にいる。相手の男は、町で出会った男だ。またもや長いお喋り。今日はこれで終わりだろうなとちょっと失望しかけていた。
 「時間があるんだったら、ドライブしないか?」
 「車があるの?」
 「会社に停めてあるんだ」
 「遠いの?」
 「歩いて10分。どうする?」
 ドライブねえ。ドライブしても快感は得られないんだけど・・・・。いつものことだけど、ぼくの意志とは無関係にぼくは返事をする。
 「うんと遠くまで行きたいな」
 「いいよ」
 ぼくは、先輩という男と腕を組んで車を停めてあるという、先輩の会社の契約している駐車場まで歩いていった。歩いて10分と言ったが、ほんとに歩いて10分ちょうど掛かった。
 車は、シルバーメタのスカイライン。車検が近いようだ。女はそんなことを気にしないだろうが、ぼくは気になってフロントガラスを見たのだ。
 車は千葉方面へ向かった。車の中で、飽きるほど話しをした。勿論何を話したかは覚えていない。
 九十九里浜で、壮大な太平洋を、肩を並べて眺めた。九十九里浜なんて行ったことがないのに、打ち寄せては引いていく波にぼくは魅了されていた。

 「そろそろ帰ろう」
 そう促されて、車に乗り込んだ。車は都心へ向かってひた走る。
 「○○○、ちょっと休憩しないか?」
 いくつかのラブホテルが見えてきたとき、男がぼくの顔を見ないでそう言った。ぼくは、すぐさま答える。
 「そうね。疲れたわね」
 車は、国道を離れ、初めに見えたラブホテルへと滑り込んだ。

 部屋に入ると、すぐに抱きすくめられた。
 「○○○、可愛いよ」
 「先輩も格好いいわ」
 「○○○の裸を見てみたい」
 「・・・・ほんとに?」
 「うん」
 「いいわ」
 先輩は、ぼくにキスをしながら、ぼくの服を脱がせていく。ぼくを裸にすると、ぼくから離れて、ぼくの姿を眺める。
 「凄く綺麗だ」
 ぼくは、にっこり微笑んで言う。
 「抱いて」
 「いいのか?」
 「そのつもりだったんでしょう? 見るだけだったなんて言わせないわ」
 先輩は、喜色満面で、ぼくをベッドに押し倒した。

 上手い。凄く感じる。まあ、ここは学校の準備室じゃない。同級生の部屋でもない。こう言うことをするところなのだ。こそこそする必要がない。
 ふたりとも全裸で抱き合い、互いに刺激し合う。まだ午後二時過ぎだ。時間も気にすることはない。
 「コンドームするから」
 「今日は大丈夫よ。安全日だから」
 そう言ったのに、先輩は、コンドームをした。大丈夫と言われて痛い目を見たことがあるのに違いない。そうでなかったら、安全日と言われて、わざわざコンドームを着ける男はいない。
 今日は最高に気持ちが良かった。しばらく頭痛とはお別れだろう。

 頭痛がなかったのに、夢を見た。勿論女子高生になった夢だ。
 町中をその男と列んで歩いていた。小綺麗なブティックに入って、ワンピースを買ってもらった。
 男は、ピアノ男でもなく、同級生でもなく、先輩でもなかった。別の男だ。それも、一緒にいるとすごく心が安らぐ。そんな男だ。夢の中のぼく、この女子高生は、この男に恋している。それを強く感じる。この女子高生にとって初めての男、処女を捧げた男だ。他の男は、ただの性欲のはけ口に過ぎない。
 女が性欲のはけ口を求める? これはぼくの、男の考え方だろうか? きっとそうだろう。
 男は、好きな女に恋いこがれながらも、別の女を抱くことができる。女はそうではないはずだ。女は、恋した男一筋のはずだ。もしかしたら、そうではないのかも知れないが、ぼくはそう思っている。それなのに、この女子高生は・・・・。いや、これはぼくの見ている夢だからだ。男の感覚が現れているのだ。絶対そうだ。

 ぼくは、男の部屋に躊躇いもなく入っていく。それから、ぼくは男に向かって言う。
 「愛しているわ」
 「わたしもだ」
 「抱いて」
 「・・・・いいのか?」
 「勿論よ。・・・・」
 この男は、先輩よりも数段上手かった。女の扱いになれている。そんな感じがした。長い愛撫。結合してからも、性急ではなく、焦らしたりすかしたり、ぼくは何度かいったと思ったけれど、男が最後にぼくに熱い激情を放ったとき、ぼくは今までにない快感を覚え、失神してしまった。
 本当にいくと言うことを初めて知ったと、夢の中のぼくは感じていた。

 その後も、ぼくは女になってセックスする夢を見た。もう止めようと思っていたのに、あのピアノ男と2回。同級生の男の子と4回。先輩という男と3回。最後の男は、ぼくがもう一度会いたいと願っているのにも拘わらず、何故か夢の中には二度と出てはこなかった。