ある外来看護師の想い
心に残るできごと

 外来に救急車で、足を怪我した認知症の70歳女性の患者様が運ばれてきました。傷はとても深く、縫合することになったのですが、認知症のため、静かにじっとして治療を受けることができず、医師をはじめ我々外来スタッフは患者様の体を抑えて処置に望みました。患者様は何度も起き上がろうとし、我々の言葉も全く分からない状態でした。

その時付き添って患者様と一緒にこられた患者様の娘さんが、この患者様を抱き包むように寝かせ、「お母さん静かにしましょうね。お母さん、あなたは歌が大好きだものね。」と童謡の”赤いくつ”を歌い始めました。その優しく、温かで、どこか悲しい歌声に、認知症のおばあちゃんは静かに抵抗することなく、小さな歌声で、歌い始めました。
 「お母さん、お母さんは歌が好きだものね。お母さん・・・お母さん・・・」 
 優しく、そっと患者様の胸をたたきながら接するその姿・・・。
 私は、自分の親が認知症になったら、こんなに優しく接することができるだろうか。 

優しくもどこか悲しい赤いくつの歌声を聴きながら、この患者様は昔どんな人だったのだろうか。認知症になってしまった母親をこの娘さんはどんな気持ちで見ているのだろうか。自分の母親が認知症になったら、また義理の母親が認知症になったら「お母さん、お母さん」と優しく声をかけられるだろうか。そう考えてしまいました。

娘さんの協力のおかげで、縫合を無事に終えることができました。ほんの数分の間のできごとではありましたが、この親子に出会い、嫌な事からすぐに逃げてしまおうとする自分を反省し、改めて自分の人生を見つめ直すことができました。そして今後、好きでそうなったわけでない認知症という病気に対して、それまで生きてこられた人生を想い、お疲れ様でしたという思いで、接して行こうと思います。そして、怒りを受容へと変えることのできる心の広さを持った人間になりたい、そう思いました。

人と人との出会いの場である外来でとても大切な経験をさせていただき、
嬉しく思っています。


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