情報化社会の先進地域・大分県

 情報化社会への足音が急速に高まっている中にあって、マルチメディア社会に向けたさまざまな試みが全国各地で行われている。中でもマルチメディア社会を一足早く体験しようと先進的な試みを行っているのが大分県である。

 平成七年度(一九九五年)からは、NTTのマルチメディア通信の共同利用実験に参加し、マルチメディア地域利用実験を開始。大分市の中央町商店街では、アーケードのリニューアルに際して「セントポルタ中央町」と名称を変更、この実験の一環として「新インテリジェント・アーケードシステム」を採用した。このシステムでは、光ファイバを商店街にループ状に張り巡らし、高速性を生かしてビデオ映像を取り扱えるインターネット街頭端末や大型のマルチスクリーンを設置し、WWWサーバを商店街の広告メディアとして利用しようとしている。またこのシステムを使ったイベントを行う体制作りを計画するなど、全国ではじめての「マルチメディア商店街」として、市民参加型の街作りをめざしている。

 またNTTとの共同利用実験以外にも別府市では、一九九五年三月に完成した大型コンベンション施設ビーコンプラザ(B.CON PLAZA)を拠点として市内に専用回線を敷設、インターネットを通してコンベンションの模様や、センターからの別府・大分市内、国東半島、別府湾の眺望を二四時間、三百六十五日世界に向けて発信している。またB.CON PLAZAのエントランスには、インターネットの公衆端末を設置し、市内・県内の観光案内や地域情報にアクセスできるようになっている。
さらに市内のホテル、飲食店、旅館と結んで端末の設置やホームページの制作など、地域が一体となった「マルチメディア観光都市づくり」が進められようとしている。 中央町商店街やビーコンプラザ以外でも、大学間を結びリアルタイムでデザインなどの共同作業を行ったり、医科大学と県内の病院を接続し、MRIやCT画像等の伝送を行い、遠隔医療支援に役立てるなど、大分県では福祉・教育・医療などの各分野において、新しい情報発信や情報交換、コミュニケーションを実現し、「地域社会を新たなものに生まれ変わらせる」ことをめざしている。


先駆的な試みの
中核をになう
「ニューCOARA」

 こうした取り組みが可能になった背景には、一九八五年に有志三十名で設立されたパソコン通信ネットワーク「大分パソコン通信アマチュア研究協会」(Computer‐Communication of Oita Amateur Research Association=COARA)の存在がある。
当初はデータベース的な色彩の強かったCOARAだが、電子会議室・電子メールを中心としたコミュニケーション主体のネットワークへと成長。 さらに、一九九〇年「COARA」の働きかけもあって、大分県は「ふるさと創生資金」を利用し、県内全市町村を専用回線で結んだ情報道路「豊の国ネットワーク」を構築、県内均一料金でのネットワーク接続が他都道府県に先がけて可能となった。

 一九九三年には、COARA運営委員会に県の参加を得て「ニューCOARA」へと発展、非営利の「地域情報インフラ」として、県民生活に必要な社会基盤としての性格を色濃く持つようになってきている。また一九九四年にはインターネットと接続、会員一人ひとりが情報発信できる面白さを作り出した「ワン・パースン・ワン・ホームページ」や、一村一品運動の特産品を集めて販売する「一村一品バーチャル・ショップ」などで、全国的な注目を浴びている。


OCNへの期待

 「ニューCOARA」の運営メンバーは、「ハイパーネットワーク別府湾会議」を開催するなど、「来るべき情報化社会」に対する提言なども活発に行っている。そうしたこともあって、NTTが発表した新たなマルチメディアネットワーク「オープン・コンピュータ・ネットワーク(OCN)」サービスについての期待も大きなものがある。  「OCNは、私たちが提唱してきた情報市民公社、または情報化委員会構想、情報コンセントなどの考えに応えてくれたものとして、大変評価しています。実際に利用する市民が望んできたコンセプトであり、料金も利用者の立場に立ったレベルで検討されています。私たち市民が自分たちで使いたいものを使う、使えるかどうかを自分たちで決めていく、そうした具体的な活動の積み重ねの上で出される意見を尊重しながら、OCNの構想が打ち出されています。その意味で上から一方的に押しつける形のサービスでなく、大変画期的なものです」(ニューCOARA事務局長・尾野徹氏)


「地域の中で自由に生き生きと生活していける社会」の実現が究極の目標

 COARAの発足以来十二年、一貫している問題意識は、「東京ではなく、地方に住んで、地域の中で自由に生き生きと生活していける社会を、情報通信を活用してどう実現するか」である。

そのために生活者のためのネットワークとして、「大分に住んだり、縁を持つことに対して誇りやこだわりを持つ人」=ユーザがたくさん存在していることが鍵となる。 できるだけ多くの人がパソコン通信やインターネットに接していく中で、さまざまな活用手段を思いつき、それが自己変革から、企業、地域社会への変革へと発展していく、というのがCOARAの基本的なスタンスなのだ。

 こうした考え方のもとに情報化社会の「地域情報インフラ」(RII)として、現在「ニューCOARA」の発展の方向は展望されている。例えば市民がネットワーク上で誰でも自由に店を出せるような、地域社会における自由な活動基盤・コミュニティウエアとしての情報通信インフラの構築である。 今まで述べたような考えの具体策として打ち出されているのが、「情報市民公社」と「情報コンセント」。「情報市民公社」は、国家・企業・市民それぞれが単独でネットワークを運営する限界を補って、三者混合型のユーザである市民主導の公共サービスとして、ネットワークを運営していこうというものである。 また「情報コンセント」は、二十四時間・三百六十五日自由に使える「情報コンセント」を家庭や職場に配置し、ユーザが情報サービス運営者に利用を申し込めば、インターネットアドレスを付した低額・定額利用できる専用線を簡単に設置するというもの。これによって、ユーザである市民がネットワークを自由に使い、色々な使い方の工夫をすることによって、今まで考えもしなかった新たな利用方法を編み出していくだろうと考えられている。これらが一体のものとして推進される中で、新たなレベルの社会=ハイパーネットワーク社会が実現され、より新しい自由が、個人や地域社会に与えられるのである。


ハイパーネットワーク社会へ向け
さらなる踏み出しを

 尾野氏が述べているように、今後OCNは、地域社会インフラをめざす「ニューCOARA」を支える大きな役割を担っていくものと想定される。しかしその期待に応え、完全に役割を果たすためには、なお乗り越えなければならない課題も存在している。
 「OCNを東京中心の中央集権型のものにして欲しくないのです。市民の立場から考えて協力し合ってここまでやってきたのですから、例えばOCNの地域利用アプリケーションを開発するとか、色々な考え方が可能ではないでしょうか。全国OCNに単に地域ネットワークが参加するのではなく、OCNをバックボーンに個々に特色を持った地域ネットワークが存在するという形になって欲しいものです。OCNが地域ネットワークを完全に保障するようになれば、そこには地域社会を主体としたさまざまな人々とその豊かなネットワークが必ず広がっていきます。その可能性を確信するべきだと思います」(尾野氏)