1996年9月25日発行 第6号

世界のあちこちが地域開発を
情報化プロジェクトで!

尾 野  徹 大分県情報化委員会準備会事務局長

スマートバレーの地域情報化会議「connect`96」に参加
 シリコンバレーは、あいかわらず世界の注目の的のようだ。次から次へ新時代のベンチャービジネスの成功話が出てくる。それも既存分野だけでなく新しいマーケットを創って出てくるから面白い。そして昨今、最も注目を集めている事例の中に「スマートバレー」と呼ばれる地域づくり事業があるのは皆さん承知のことと思う。
 冷戦終結で不景気になったシリコンバレー地域をなんとかしようと、行政、住民、企業などがあつまって自主的地域活性化組織(JVSV)を結成、いくつかのプロジェクトを発足。そのプロジェクトの中でも最も注目されるのが「スマートバレー」でいわば地域内の情報ハイウェイを造って、他のプロジェクトを盛り上げよう、かつ、情報関連企業をも再活性化させよう、という試みだ。最近よく新聞や雑誌に取り上げられるが、大分の「ハイパーフォーラム」の発想と似ている(規模がことなる?)し、社長のハリー・ソールは二度大分に来てるし、平松大分県知事やコアラメンバー(ネットワークメンバーでネティズンと言った方がいい)ともたいへんよく交流しあっている。もちろん、ハイパー研の公文所長や昨今特に海外を主体に飛び回っている企画部長の会津さん等との普段の研究交流も多い。
 そのスマートバレーより半年ほど前から要請があって、9月8日−11日にシリコンバレーで行われた世界のあちこちの地域情報(ネットワーク)化プロジェクトに関する会議「connect`96」にパネラーとして参加してきた。
 主催はスタンフォード大学とスマートバレー公社で、出席者は150人ほど、と我々が定期的に開く「ハイパーネットワーク別府湾会議」に比べれば規模はそれほどでもないが、地域的な広がりが地球規模であった。
 スウェーデン、フランス、イギリス、ベルギー、オランダ、ドイツ、スイス、ルーマニア、マレーシヤ、シンガポール、オーストラリア、韓国、日本、カナダ、アメリカの15の国から30数箇所の地域プロジェクト関係者が集まってきている。
 日本からの正式参加プロジェクトは大分と神戸だけなのだが、日本人の数はアメリカ人の次に多いようだった。日本からのシンクタンク系の参加者やシリコンバレー在住の情報化プロジェクト探究者達が多いからだろう。たとえば、大分出身で通産省からサンフランシスコ領事館で経済担当領事の任にあたっている佐藤樹一郎領事は、前夜のレセプションを含めてすべての会議にしっかり完全参加していた。
大分出身の佐藤領事(左側)

 当初は、地域ネットワークそのものの国際会議と聞いていたが、実際の顔ぶれと話の進展にあわせ以下のようなことがわかった。

[1]地域活性化、あるいは、国家発展には従来型の開発事業だけでは不足であり、情報化をメインに据えてすべてを組み立てるような地域、あるいは国家が世界中に出てきている。
例えば、
(1)シンガポールは、IT2000と銘打って行政の効率化、手続きの簡素化を図り産業振興に結び付けようとしている。
(2)マレーシヤは、MSC(マルチメディア・スーパー・コリドール)計画と称して新空港建設地域の巨大なエリアを数々の規制を取っ払ったマルチメディア特別優遇地域に指定し、世界中から優秀な企業や人材を集めようとしている。(これには平松大分県知事やハイパー研の公文俊平所長もマレーシヤ政府から意見を求められているとお聞きしている)
(3)ボストンも、マサチューセッツ州を対象に、MassNetと呼ばれる地域ネットワークを構築し、地域活性化に結び付けようとしている。
(4)神戸市は、KIMECプロジェクトとして市が光ファイバーを53kmひき、公共施設や280の学校をインターネットに接続するよう計画中。
(5)(この会議終了後、私はニューヨークに廻ったが、そこで知った事をつけ加えると)ニューヨーク市は、証券不況のあおりを受けて空きビルが目立ってきたウォール街の再生のために「シリコン・アレー計画」(シリコン横丁?)をスタート。古いビルを電話線をたくさん通らせるようなインテリジェントビルに改装し、入居者に税制優遇処置、通信費の軽減などの支援を行ってマルチメディア産業誘致にやっきになっている。市長自らが完成式にのぞむほどの力のいれよう。

[2]しかし、各地は今から取り組んだり、取り組んだものの、いろんな障害や問題を抱えている。
 そこで、先輩である「スマートバレー公社に学びたい」と考えているようだ。その結果だろうが、あちこちで“スマート”と名前が付いたプロジェクトが多い。
 Smart State Alabama ,Smart Toronto ,The Smart Islandsなど。

ホテルで仕事中の尾野さん

 今回は、スマートバレーとそこを学問的立場から支えるスタンフォード大学がそれらの問題を抱える地域ネットワークに問題解決の場として国際会議を企画。

[3]従って、パネラーとして出ても「コアラの紹介、大分の事例発表」ではなく、「どうやって地域ネットをスタートさせるか?」「地域ネットワークのリーダシップのあり方は?」などのようなテーマで議論される。
 私の出番は、二つ。
 「地域ネットワークのリーダシップのあり方」、と「スタッフ、及び、ボランティをどのように運営していくか?」

[4]コアラは今回参加者中ではどの地域ネットワークよりも古いようだった。  従って、机上の空論でなく実績を踏まえての発言なので、単に見かけの土地や建物開発や企業振興事業だけでなく市民、県民生活の質の向上に重点を置いていること が皆には参考になったようだ。

我々、ないし、日本として参考になった事
[5]サンフランシスコ湾岸自治体ネットワーク
   http://www.abag.ca.gov/
 abagOnline(Association of Bay Area Governments Online)

 サンフランシスコ湾岸の9つの郡の自治体が共同してネットワークサービスを行っている。この地域内には約100のcityと650万人の住民がいる。1961年から共同で地域開発や活性化策を考えていたが、スマートバレー公社の動きに刺激され、1994年1月、ネットワーク上に住民サービスを広げたようだ。
 湾岸内の自治体のそれそれがネット上で様々な行政情報を公開しあい、そこへのアクセスが行いやすいように電子メールアドレスなどを公開している。(自治体の一覧を見ると、オンライン化されていない自治体への連絡先は電話、あるいはFAXのみで、すすんだ所はそれに加えて電子メールアドレスが書かれていて、なんとなくその差がわかって面白い)。
 もちろん、観光案内や水質等の環境管理、天気情報や地震情報、在宅勤務援助プロジェクト、雇用開発等、各自治体をまたがる広域事業の案内がある。
 また、電子会議(掲示板方式)も運営されているようで、効率のよい行政活動につながっているようだった。
 最終的には、24時間サービスのオンライン市役所をたくさん出現させて、それらを使って行政の意志決定過程に住民の意志を積極的に反映させ、行政へのよりよい信頼増加を目指しているようだ。
 日本では、東京霞ヶ関で省庁間ネットワークができたというが、それらは一般公開されていない。大分や九州内の自治体が歩調を合わせてabagOnlineのようなサービスを開始することはとても意義あることのように思える。

[6]スウェーデンのストックホルム市では、1993年の規制完全自由化を受けて市そのものが年間250億円ほど(この数字は再確認できなかった)かけて光ファイバーを引いて民間に貸し出しを行いはじめた(ダークファイバーと呼ぶ)。すると、電話会社そのものも誰でも自由に興すことができることにもなったので、各新規電話会社はダークファイバーを市から借りて安く市民に提供。結果的に市民のインターネット利用が促進され、様々な効果をあげている。 携帯電話も結果的によく普及して、学校で授業するのに邪魔になってしまう。子供たちに先生が授業開始前に「携帯電話の電源を切りなさい」と言うほどだ。
 当初は、市議会もそのような投資をいぶかっていたが、その意義と重要性をだんだんと認識し、3、4年で投資の回収ができるよう努力中、とのこと。
 日本でも、近々、誰でも通信用設備をもてるような規制緩和が期待されており、例えば、県や市が下水道施設などにあわせて光ファイバーを敷設し、NTT等の通信事業者へ貸し出すようなこともあり得るかも知れない。いや、NTT等が採算面で投資を渋るようなことが考えられたときに、逆にダークファイバーを提供しつつ過疎地域振興策を考えるべきか。(それにしてもストックホルムは投資を回収ができる程の利用がある事がすばらしいですね)


会議での発言風景(左:尾野氏、右:会津氏)
アメリカ流会議進行もなんのその、普段のスタイルで発表
 さて、そういった中で行われたパネルディスカッションは、日本と違って完全フリーディスカッション。いわば井戸端会議をそのまま聴衆に聞かせよう、聴衆も場合によってはその井戸端会議に参加させよう、というもので、英語力のある人でなければとても参加できない。
 そこを会津さんに助けて貰って、私は完全に日本語で通すべく、壇上に二人三脚でのぞむ。

 会津さんからは「尾野さん、今回ばっかりは日本流の謙譲の美徳は捨てて『私はこう思う』『私がこうした』と必ず明確に言ってよ。でないとアメリカ人は認めてくれないから」と何度も念を押されて壇上に。(そんなこといったって長年の習慣がそう簡単になおるもんか。それに聴衆には日本人も多いことだし彼らから変に思われもしたくない、、ああ、ハムレットの心境?)
 実は、当日まで進行がどうなるかわからなかったが、会津さんの勧めもありプレゼンテーション資料をつくっておこうと、日本にいる間は忙しかったので飛行機の中と現地に着いてからいそいそと資料を作ったものの(もちろん英訳は会津さん)、
それらを十分に使うというより、参考資料としてパネル直前にコピー配布するにとどまってしまった。つまりそれほどプレゼンテーションはなく、ディスカッションが主体だ。
参考資料

[7]一日目の「地域ネットワークのリーダシップ のあり方」での私の発言要旨は、
(1)誰がリーダーか、どういったリーダーが必要か、という問いに、大分は平松知事と、ハイパー研公文所長、それにコアラの後藤会長の三人が地域のリーダーとして存在していると返答。そして私は、いわばネティズン側のリーダーとして、ネティズンの意向を聞き続けそれらを実社会用に翻訳して、3人の地域リーダーとよく相談し結果的に情報化そのものを実社会システムとして組み上げてきた。また、3人のリーダーが示すビジョンや実社会からの現実施策を受けて電子ネットワーク上にそれらを組み上げるのが私の役割であり、インテグレーターといった仕事なんだろう。地域開発にはこのような地域リーダー、インテグレーターが必要と思う。
(2)今日集まっておられる方々はそれぞれの地域で間違いないリーダー達だ。
 そのリーダー達が悩み集まっているのを見ると、ここでこの時期に真に必要なことはそれらリーダー達が社会から受け入れられ信頼され、かつ、後顧の憂いなく未来活動できるような新しい社会システムを実現することだろう。新しい社会制度なくしては社会からの応援も得難く、活動も鈍ってしまう、、、皆さんの議論を聞いているとそう思う。
 実は、大分ではそう言ったことを長年考えており、企業主導型でもなく行政主導型でもなく、市民主導の市民、企業、行政が混合一体となった「地域情報市民公社(RIU:Regional Information Utility)」を新社会システムとして構築する事を目指してきた。(増田米二氏の「情報市民公社」をモデルとしている)
 そして、現在、そのようなモデルとして「大分県情報化委員会」をNPO,NGOとして模索し、その準備会をつくるところまで来た。皆さんの地域にもそのような新制度が望まれるのではないか。
 特にこの発言は受けたようで、ガラリと周囲のムードが変わり、英語がわからない私に、わざわざ握手を求めにきたりと、パネル終了後多くの方々から賛意を得た。

スマートバレーのハリーさん

[8]「スタッフ、及び、ボランティアをどのように運営してくか?」
 このセッションはもっとひどいフリーディスカッションだった。パネラーは、アメリカ、カナダ、オランダ、日本の私。それに、南オーストラリアで、MFP Australia(NGO,NPOとして広大な土地開発を行っており、企業誘致、中小企業振興、住宅開発などを目指している。最初はビジョンをつくる時から日本企業との連携もあったようだ)の推進者が自らの問題をいきなり提起し、さぁ、議論してくれ!っというもの。
 これは黙ーっていたら最初から最後まで黙り続けて無視されてしまうなぁ、と、感じつつ、「ハイ、ハイ」とエイヤの気持ちで挙手をし続けた。
 彼が最初に出した質問は、
(1)誰とパートナーを組むべきか?誰を推薦するか?
 (アメリカからこの質問には意味がない、どこかの企業の力を当てにしすぎるのではないか、、、うんぬんの発言があったのでそれを受けて)
 私が強いて言うなら「ネティズン」と組みなさい、と言いたい。昨日も話したように企業が利用しようと行政がいようと、その開発地域に住むのは常に市民である。その市民が「この地域に住むことはこんなに楽しい事、すばらしい事だ」と感じ、他社へそれをいったり感じさせ続ける中に企業や移住者が集まってくるのであって、自らの市民やネティズンを中心に置かずにプロジェクトは推進し得ないだろう。
 実は、今朝ホテルから大分のコアラに接続したらオーストラリアのブリスベーン在住の学生がコアラでWebデザイナー(ホームページ製作者)として働きたい、とメールが来てた。コアラはネティズンが中心であり、その中で若い女性やサラリーマン、主婦など一人一人が生活を楽しんでいる姿を見て応募してくれたのだろうが、、、その学生さんにMFPのことを紹介しましょうか?
(2)中小企業が大きく成長するにはどのようなアドバイスをするのがよいか?、どうすればベンチャービジネスが起こるのか?
 私はまたもや挙手。
 中小企業をどの程度、どのような内容で考えるか、聞きたい。
 確かにここシリコンバレーではベンチャー企業が世界を動かすような事例がたくさんでているが、我が大分ではそこまでの企業は少ない。つまりは世界を席巻する中小企業というよりも、地域内で元気で生き生きと魅力ある企業生活、市民生活を実現する企業づくりをすすめているのが実状だろう。MFPの地域はどちらを目指すか?それによって戦略が異なるだろう。
 また、今日、我々は情報化で企業興しや中小企業の活性化を考えるためにここにあつまっているが、その情報手段であるインターネットというのはそもそも小さな個人や集団の活動を保証し強めてくれるツールであるはず。つまりは、情報化で中小企業が大企業の方向に右肩上がりで成長するというより、それぞれ細分化、小集団化が進んだ企業活動が活発になるはずであってそこで働く市民が満足するかどうか、という点に力点が移ってくるはず。
 大分では平松知事がそれをGNP型社会からGNS型社会を目指すことだ、と言っている。
 そして、個人の満足基準も経済的な満足よりも、“楽しさ”や“理想を追求する素晴らしさ”、“面白さ”に力点が移っていき、それらを追い求めていきつつ結果的に経済的にもそれなりの満足を得る社会に移っていくであろう、、、また、そういった活動集団、組織がネティズンを中心として、電子ネットワークをベースにあちこち興され、それが従来の企業に変わるものになる、これを我々ハイパー研の公文所長は「智業」と呼んでおり、未来社会はそのような社会でもあることを踏まえた地域開発であるべきではないか。

スタンフォード大学の風景

 GNS型ハイパーネットワーク社会というのはそのような社会だろうし、そのことを念頭に開発計画を組み直すべきではないか。
(3)MFPは、どうすれば皆(今日集まっている人や組織)と今後も意志疎通し、協力し合えるか?  すかさず、挙手、発言。
 昨日話したRIUを地域単位でつくろうではないか。そのRIUとは、情報コンセントのようなハードインフラと、電子会議や決済機能といったソフトインフラ、そしてそれらを支える新しい運営体、新社会制度によって構成されるものだ。そして、各地域のRIUが横につながりGIIを目指す中に今後の連携や協力が生まれるだろう。
 というような主旨でしつこく発言していったのだが、結果的に英語の弱い日本人がじゃんじゃん発言するのにビックリしたみたいだった。
 取材に来ていたアサヒパソコンの地元にいる吉本さん、私たち二人をつくづく眺めながら、「英語の弱い日本人の会議の参加のしかたでこんな方法があるのねぇ」と妙なところに感心されたがハリー・ソールは主催者として大いに歓んでくれたようだ。
 強いて言うならば、ハード主体の地域経済開発から、インターネットの出現で個人の満足度や幸せ感をより重視した地域開発がしっかりと認知されはじめた、と考えたいものですね。

フリーライターの吉本さん(左側)