『朝日新聞』4月25日号より

読書日記 人に力を与える本とは

平松 守彦 大分県知事


 世紀末現象ともいえる人間の「こころ」のゆらぎ。そのよりどころを求める人に力を与
える本を読んだ。『高山右近』(加賀乙彦著、講談社)。高山は戦国時代、秀吉の武将と
して名を馳せ、後にキリシタン信仰の道に深く入った。禁教令の下、ついに大名の地位を
捨て、妻と離縁、金沢から長崎に逃れ、国外追放となりルソン島マニラへ渡り信者として
生涯を終える。

 長崎時代、ラテン語で聖歌、祈祷をささげ、弾圧下、信仰の火を絶やさぬよう信者たち
を励ます。手と足の甲に赤黒い変色を見る。病院長のパードレ・クレメンテは「これは聖
痕と言って、信仰厚い人のみに顕れる症状」だと言う。マニラのポルトガル人総督もいた
く東洋の武士・右近の人格に傾倒した。総督が片手に十字架、左手に武器をもってフィリ
ピンを征服、マニラ城壁都市の内に安住し、城外に現地の人間・中国・日本・安南人が貧
しい生活を送っていることに疑問を持ち、日本人街に教会を建てることを願い出る。しか
し、症状篤く、ジュスト右近は1614年昇天する。広汎な資料を駆使し一字一句吟味された
文体にも魅了される。

 「グローバルに考えローカルに行動せよ」。これは私が塾長をしている「地域づくり
塾」の塾是だが、右近がそうであったように、船橋洋一著『世界を読み解く辞典』(岩波
書店)もグローバルな視点にたって、地域で行動する人に必須の書。日本・米国・中国と
の関係をさまざまな角度から鋭く描いた著書『同盟漂流』(岩波書店)は代表作だが、国
際社会の現場を自ら歩き、正確な情報収集と分析力には定評がある。本書は週刊朝日に連
載中の「世界ブリーフィング」を項目ごとに再編集し、国際政治のダイナミズムを分かり
やすく解説している。

 「温泉外交」では、大分県が進めているローカル外交にもふれている。別府温泉への韓
国、台湾からの観光客の増加や湯布院町の取り組み、4月別府市に開学した日本人とアジ
アの留学生が半々の立命館アジア太平洋大学を紹介している。