「一冊の本」7月号(2001年7月1日発行)
特集 知事の読書
大分県知事 平松守彦

 
 

(1)『ローマ人の物語IX 賢帝の世紀』塩野七生著/新潮社
(2)『坂の上の雲』(全8巻)司馬遼太郎著/文春文庫
(3)『文明の生態史観はいま』梅棹忠夫編/中公叢書




 
 (1)属領出身で初めてのローマ皇帝となったトライアヌス帝は、皇帝の責務として〔1〕安全保障(外交)、〔2〕国内治安、〔3〕道路、橋などのインフラ整備をあげ、ローマから最辺境のドナウ河に石橋をかけ、ローマ領民が国内を
どこへも最短距離で安全に旅ができるように道路を整備した。しかもインフラ整備の費用は国庫ではなく、皇帝公庫から支出した。つまり国土交通大臣を皇帝が兼務したようなものだ。まさに「すべての道はローマに通ず」であり、交通ネットワークの整備こそ「パックス・ロマーナ」(ローマの平和)を成り立たしめた基盤であった。構造改革の名のもとに全国高速交通ネットワーク計画切り捨てを主張する日本の政治家に読んでもらいたい。

 
 (2)欧米先進国に追いつけ追い越せと、「坂の上の雲」を目指して懸命に走り続けた若者たち。国家の命運をかけ、明治時代を生き抜いた青年たちの志と行動の軌跡を2人の兄弟を主人公に描く。閉塞感漂ういまの日本に生きる若者たちに一読をすすめる。


 (3)唯物史観に基づく経済発展段階説にとらわれず、文明がヨーロッパと日本とで平行進化するという梅棹さんの『文明の生態史観』(中公文庫)は、30代で通産省勤務の頃に読んで目からウロコの落ちる思いであった。この本は海洋史観に立ったガーデンアイランド(庭園列島)構想を新・全国総合開発計画に盛り込んだ『文明の海洋史観』(中公叢書)の著者川勝平太さんと梅棹さんの対談集である。
 2 1世紀はアジアの世紀。昨年4月、別府市に立命館アジア太平洋大学が開学し、1学年の定員800人のうち、日本人学生とアジアを中心とした各国からの留学生が半々というユニークな国際大学だ。この大学はEU(欧州連合)と並ぶAU(アジア連合)を構築するため、アジアのアイデンティティの確立を目指した「アジア太平洋学」を研究する。この本はアジア地域の文明史研究の格好の入門書だ。