「味の手帖」 2001年6月号 
四季菜々(特別篇)  
大分県知事 平松守彦

 
 

 
 

食ハ大分ニ在リ


 「大分県」をなぜ「オオイタケン」と読むのかと他県の人からよく尋ねられる。「分」を「イタ」とは読まないためだ。しかし、これには定説がない。江戸時代、大分県は小藩分立で一つの国を分割されたので、「大きく分ける」県になったという説もあるが、いまだにはっきりしない。
 かつて、県庁の職員が霞が関の官庁街に陳情に行くと、「オオイタケン」と呼ばれず、「ダイブンケン」ですかと言われ、悔しい思いをしたという嘘のような話を聞いたことがある。しかし、最近では「一村一品運動」が有名になって、「一村一品の大分県」としてすっかり定着し、今では「ダイブンケン」と言う人はいなくなった。

 
 小藩分立だった大分県には全国規模の有名な祭や大産地はなかったが、それぞれの地域ごとに小粒ながら独自の文化や産品、味があった。これを逆手にとって、それぞれの地域で競争させながら文化や産品、味に磨きをかけ、全国に通用するものにしようというのが「一村一品運動」だ。味の分野でも、県内各地で独特の一村一品が育っている。

 
 何といってもその代表格は佐賀関町の「関あじ」と「関さば」だ。
 四国と九州を隔てる豊後水道は、海流の流れが速く、ここで漁獲されるアジ、サバは身が引き締まって旨い。チョン掛けという一本釣りで漁獲し、「活きしめ」という方法で生身に近い状態でしめて、鮮魚運搬車で消費地に送る。この「活きしめ」がコリコリした歯ごたえを与え、人気の秘密になっている。特に関さばを空港の寿司屋でバッテラ(さば寿司)にして東京に持って行くと大評判だ。
 

一村一品の代表格「関あじ」
 
「関あじ」、「関さば」の評判が高まるにつれて、豊後水道近海のアジ、サバが全て東京市場で取り引きされ、スーパーでも売られるようになった。そこで、佐賀関町漁協の藤谷新一組合長は魚のブランド化を進め、漁協のマークを商標登録し、マークの下に私が「関あじ」、「関さば」と書いたシールを貼り付けることにした。現在、東京の魚市場でシールの付いたサバ・アジは1匹だと平均2,000円。無印モノは半値といわれ、今や全国ブランドとして定着した。



城下カレイなど海の幸
 
 
5月。麦の穂が色づく頃に旬を迎えるのが、「城下カレイ」。木下謙二郎著「美味求真」で紹介され一躍有名になった。別府市の隣、日出町の暘谷城のすぐ下に広がる海の中に、清水の湧き出るところがある。その付近に生息するマコガレイは泥臭さがなく淡泊。
 これを薄引きにして菊花状に大皿に盛る。カボスを垂らした刺身醤油に青ジソ、ネギ、モミジおろしの薬味を入れ、キモを溶かし、これに刺身をつけて食べる。
 別府湾を望む美しい庭園のある料亭「的山荘」で、地酒の「的山」を傾けながら、いただく「城下カレイ」は一層味わい深い。このカレイは量産できないため、東京の食膳には届かない。そのため、わざわざ東京から多くのツアー客が訪れる。やはり、郷土料理はそれぞれの土地で、その地の風物や地酒とともに味わうのが一番だ。

 
 グルメファンなら知らない人がいないほど有名なのが大分のフグ。豊後水道でとれるフグは絶品。秘密の味!はフランス料理のフォアグラ以上の美味しさ。ヒレ酒を味わいながら、一度食べるとやみつきになる。
 99歳まで現役の女流作家だった野上弥生子先生のふるさとで、石仏でも有名な臼杵市が本場。ゴルフをして、別府温泉でひと浴びし、臼杵に行ってフグを食べるというグルメコースが好評だ。
 
 
 最近のヒットが県北中津市の「鱧(はも)料理」。中津市の地先の豊前海には、耶馬渓の山林から湧き出る植物性プランクトンを含んだ清流が流入し、美味な鱧が生棲する。老舗の料亭「筑紫亭」の鱧料理は、透明感のある鱧の身を「しゃぶしゃぶ」でいただく「鱧しゃぶ」の他、夏は「梅肉添え」、秋は「土瓶蒸し」と、季節に応じていろいろな味が楽しめる。

 
 湯布院といえば、若い女性が行ってみたい観光地のナンバーワン。湯布院の観光客数は、20年前が190万人。それが現在では380万人に倍増した。自慢の味は地域の農業者と契約栽培した新鮮な食材。豊後牛に地鶏、ササナバに旬の野菜など多種多菜。デザートのカボスシャーベットも絶品。まさに現代の桃源郷・癒しの里だ。

 
自ら麦焼酎を売り込む
 
 
大分の酒といえば、麦焼酎の「吉四六」と「いいちこ」。大分産の麦焼酎は乙類焼酎で全国一の生産量を誇る。国の官庁にいた頃、私は洋酒党だったが、大分に帰ってからは、二日酔いせず、寝覚めの良い麦焼酎のファンになった。乙類焼酎独特の臭みがなく、麦焼酎にカボスを絞った「カボチュー」で、オンザロックでもいける。
 私はこの麦焼酎を東京の料亭に持ち込み、売り込んだ。やがて、口コミで焼酎の人気が出て、「吉四六」、「いいちこ」は空前の焼酎ブームのさきがけとなった。「一村一品運動」が生んだ最大のヒット商品となった。

 
 大分県にはワインの産地もある。別府市の北に位置する安心院(あじむ)盆地は西日本一のブドウの産地である。このブドウを使って生産されるのがワイン「卑弥呼」。毎年秋に「安心院フェアワイン祭り」が開かれ、ワインとスッポンをセットで売り出しており、県内外からの多くのグルメ客で終日賑わう。

 
 料理屋ではめったに食べられない郷土料理に「だんご汁」がある。メリケン粉をこね、細長く延ばし、大分特産の椎茸、昆布、イリコのだし汁に里芋、ゴボウと一緒に入れ、味噌で味をつける。細長いだんごが特徴で、その昔、鮑(あわび)のキモを食べたいと言い出した殿様に、形の似ただんご汁を食べさせたことから、別名「鮑腸汁(ほうちょうじる)」とも言われる。以前、東京で開いた大分フェアでも一番人気の料理だった。

 
 大分県にはまだまだ豊富な海の幸、山の幸を使った特色ある味があるが、紙面の都合で紹介しきれないのが残念だ。まさに「食ハ大分ニ在リ」。この続きは大分県へお越しを。