都道府県展望 No.531(2002年12月発行)
地域間外交(ローカル外交)の必要性  
大分県知事 平松守彦

 
   国と国(インターナショナル)との外交も大事だが、それぞれの国の地域住民の相互理解、相互利益の上に立って交流をする、いわゆる草の根(インターリージョナルな)交流が大切だ。特にそれはアジアの平和をもたらす上では重要なことだと考える。
 私は一九七九年に知事になったときに、県民にヤル気を起こそうと一村一品運動を提唱した。地域の住民が自らの自主自立、創意工夫の精神で、地元だけでなく、日本、世界に通用する、いわゆるローカルにしてグローバルな特産品を作ろうと県民に呼びかけ、私自らも麦焼酎など一村一品を片手に東京でセールスマンをやった。
 その結果、麦焼酎は爆発的な人気を呼び、大分を代表する特産品となった。また、カボスや佐賀関町の関アジ、関サバもブランド化に成功し、高値で取引されるようになった。物だけではない。かつて湯治場であった湯布院も、私が知事なった頃の百五十万の観光客が、今では三百八十万人に増えて、全国で行きたい温泉地のトップとなった。
 この運動は、世界各国、特にアジア各国の首脳が注目するところとなった。
 一九八八年には当時の汪道涵上海市長の大分来県を契機に、上海市で一廠(工場)一品、一街一品運動が始まり、その後、江蘇省の一郷一品、武漢市の一村一宝運動へと波及していった。最近では、タイのタクシン首相が、一村一品運動による農村地域の所得向上と貧困問題解消を目指し、ワン・タンボン(村)ワン・プロダクトを提唱し、私も招かれて、首相官邸で政府要人、地方の知事などを前に講演した。一年経過し、タイ版「一村一品計画」は軌道に乗りつつある。また、今年の十一月にはカンボジアとラオスを訪れ、フンセン首相やブンニャン首相に一村一品運動を講演し、これらの国も地方活性化、貧困脱出方策として取り入れることになり、地方の首長の指導を要請された。
 東南アジア諸国では経済成長率は高いが、都市部と農村部との間の所得格差が拡大し、難民の都市部への流入が止まらない。この格差を真に解消するためには、それぞれの地域で所得向上につながるようなマーケッタビリティー(市場性の高い)産品を開発し、所得向上につなげることが施策として必要である。そのためには人材が必要であり、大分県の一村一品運動のリーダーと各地のリーダーとの交流を深めることが大切だ。


グローカライゼイションの時代
 国と国との外交は時として衝突し緊迫する。だが地域間交流を続けることによって国益の衝突を緩和し解決へのソフトランディングが図られることもある。日本と中国、韓国との間には靖国問題や教科書問題が起こり、一時中国と日本との間での大臣や要人の交流がストップした昨年でも、中国共産党の曾慶紅組織部長(現共産党中央委員会政治局常務委員)はわざわざ大分に来られて、一村一品運動を視察され、日中国交正常化三十周年記念式典を行った。曽部長の依頼で私も中国に出向いて、江西省、陜西省で講演を行い、友好協定を締結した。このように互いに地域住民と地域住民の相互理解を深めることが、日中間に横たわる外交問題の解決の一助になるのではないか。
 今年六月、二○○二年日韓共催FIFAワールドカップサッカーが開催された。四万三千人を収容できるビッグアイで、決勝トーナメントの試合が行われ、日本のみならず、世界中のサッカーファンが集まった。なかでもカメルーンのキャンプ地となった人口千三百人の中津江村は、村をあげてのホスピタリティーが全国ニュースになり、日本中の人たちに大きな感動を与えた。このように、小さな村でも、地域間交流に大きな役割を果たすことになる。中津江村はそれを活かしスポーツや観光施設の利用増、特産品開発など地域活性化に役立てている。
 二十一紀はアジアが世界の経済成長の中心となろう。アジアの国々と連携を深めることが日本に活力をもたらし、またアジアに平和をもたらす。私は大分のワールドカップ開催を契機に、日本と韓国と中国との間で、「アジア平和カップ杯」を創設して、定期的な試合をすることを提唱している。将来はカンボジア、タイなども加えていけば、スポーツによる交流はますます盛んになると思う。
 二○○○年に別府市に立命館アジア太平洋大学(APU)が開学し、現在三学年で二千八百四人の学生が学んでおり、うち、留学生はアジアを中心に六十五カ国・地域から千二百五十九人とほぼ半数を占めている。卒業後は日本とアジアの国々との架け橋となる人材として育って行くことを期待している。
 これからは、グローバリゼイションと並んでローカリゼイションが共存していく時代、いわばグローカライゼイションの時代だ。住民がお互いに、文化やスポーツ、留学生の交流、また地域活性化のための交流などを進めていくことが世界平和の礎ともなるであろう。