著書『「日本合州国」への道―こうしたら「分権」は実現する』 (東洋経済新報社・1995年1月初版)から
道州制の前提に地方税制の改革が急務  
大分県知事 平松守彦

 
 

 

◎自治体自立の基礎  
 地方分権の問題はなんといってもおカネ、つまり税金の、問題に集約される。この問題は大変こみいっており、なかなか専門的でむずかしいが、避けて通れない重要な問題だ。私の考えたところを以下で述べてみたい。  
 地方分権を実質的に機能させるためには、税制を地方自治体が自立できる財源制度に切り替えなければならない。現行制度では国税三税(法人税、所得税、酒税)の32%と、たばこ税および消費税の一定割合が、交付税として国から地方へ交付されている。これをそのままにしておくと財政的に国に依存する分権となってしまう。  
 図表3.10は大分県の歳入決算額の推移をまとめたものだが、地方交付税、国庫支出金等、国からの交付金が概ね60%前後、しかもその割合は近年徐々に下がっている。また地方税(県税)の占める割合は16〜18%程度であり、平成4年度は16.2%と過去10年間で最も低い割合となった。  
 地方交付税、県税の伸悩みにより、近年、県債や繰入金(基金取崩し)の占める割合が高くなっている。表中の「国からの交付金等」に「県債」を加えたものが依存財源であり、その割合は概ね70%。逆に自主財源はおおむね30%となっている。まさに3割自治である。  

図表3.10 大分県の歳入決算額推移(普通会計)               (単位:100万円、%)
区分
昭和60
61
62
63
平成元
2
3
4
金額
構成比
金額
構成比
金額
構成比
金額
構成比
金額
構成比
金額
構成比
金額
構成比
金額
構成比
国からの交付金等                                
 地方譲与税
3,306
0.9

3,410

0.8

3,608
0.8
3,579
0.8
9,202
1.9
10,162
1.8
10,407
1.7
11,112
1.8
 地方交付税
121,741
31.3
130,869
32.5
137,298
31.6
147.723
33.4
171,533
35.1
185,804
33.4
190,180
31.5
187,828
30.4
 交通安全対策特別交付金

457

0.1
339
0.1
726
0.2
581
0.1
497
0.1
539
0.1
634
0.1
584
0.1
 国庫支出金
117,172
30.1
114,995
28.6
120,382
27.7
112,158
25.4
117,653
24.1
132,119
23.8
140,425
23.3
155,920
25.2
小計
242,676
62.4
249,673
62.0
262,014
60.4
264.041
59.7
298,885
61.1
328,624
59.1
341,646
56.6
355,444
57.4
県税
66,329
17.1
69,296
17.2
75,185
17.3
83,251
18.8
86,028
17.6
94,906
17.1
108,281
18.0
100,179
16.2
県債
30,223
7.8
32,206
8.0
48,815
11.2
44,828
10.1
46,032
9.4
59,594
10.7
56,991
9.4
68,187
11.0
繰入金
4,951
1.3
3,393
0.8
156
0.0
259
0.1
1,848
0.4
5,885
1.1
13,484
2.2
19,450
3.1
その他
44,534
11.5
48,073
11.9
47,746
11.0
49,546
11.2
56,077
11.5
67,151
12.1
82,700
13.7
75,485
12.2
合計
388,713
100.0
402,641
100.0
433,916
100.0
441,925
100.0
488,870
100.0
556,160
100.0
603,102
100.0
618,745
100.0


 日本全体で見ても(図表3.11)、地方自治体の歳入に占める地方税収入は39.3%、税収以外が16%、それから国からくる交付金と補助金、そして地方債で44.7%となっている。これではお釈迦様(国)の掌の上をとびまわる孫悟空(地方)のようなもので、このままの状態で分権されたら、すべて生殺与奪の権は国が握ることになる。  
 これがアメリカの州の場合だと、州の自主財源である税収が53.8%。ドイツでは71%にもなっている。後でもう少し詳しく取り上げるが、ドイツでは、そもそもまず州が税金をとって一定割合を連邦に納めるという方法をとっている。  

図表3.11 各国の歳入構造比較(1990年度)
 
日本(単位:10億円)
アメリカ(単位:100万ドル)#
ドイツ(単位:100万マルク)
地方
連邦
地方
連邦
地方
税収入
60,106
33,452
608,276
284,555
184,534
298,882
191,267
75,185
83.8%
39.3%
87.9%
53.8%
40.5%
86.8%
71.0%
36.0%
税外収入
11,597
13,577
83,540
138,840
170,980
2,530
43,980
56,130
16.2%
16.0%
12.1%
26.3%
37.5%
0.7%
16.3%
26.8%
補助金、交付金
-
38,008
-
105,480
170,980
2,530
43,980
56,130
-
44.7%
-
19.95
37.5%
0.7%
16.3%
26.8%
71,703
85,037*
691,816
528,875
455,554
344,532
269,487
208,985
*地方債は、補助金、交付金に算入
(注)歳入構造比較の日本については、OECD統計にないので、一般会計決算を使用した。#:アメリカは1989年度。 (出所)OECD,REVEVUE STATISTICS, 1965-1991による。


 日本の法人税や所得税のように、全部いったん国税でとっておいて、その一定割合を地方に戻すという方法だと、どうしてもこれは国からの給付金のように考えられがちで、例えば地方交付税にしても、本来地方自治体の基準財政需要を基に積算した金額であるにもかかわらず、国の財政が窮屈になると一部を切ろうということになる。  
 これでは本末転倒だ。まず、地方が税を徴収し、その一定割合を国に納付するようなかたちに切り替えていくのが、地方分権にもっていくための方法だろう。そのかわり産業立地や人口の少ない地域では税収が減って住民サービスがかえって低下するといったようなことも覚悟しないといけない。


◎地方は増税、東京は減税になる 
  試みに道州制が敷かれたと仮定して、平成2年度の国税・地方税を基に、九州道(沖縄を含む)と首都圏道(東京、神奈川、千葉、埼玉)の財源のシミュレーションをやってみた。試算の方法は、以下の基準をもちいた。  
  1.現行の国税(国税庁分)を道州に移すかわりに国から一切交付税、補助金等を受けないものと
    する。  
  2.国税の配分方法は、法人税・有価証券取引税については法人事業税の全国比率、消費税・
    酒税・たばこ税・揮発油税・地方道路税については人口比率でそれぞれ配分し、その他の税
    は国税庁管内税額を計上する。  
  3.現行の国直轄事業は国が直接行うものとする。  
 以上の条件で試算してみると、図表3.12のように、首都圏道にはやはり企業本社が非常に多いので、歳出が18兆2,600億円に対して歳入が38兆9,600億円、差引き20兆円の余剰となった。一方、九州道はというと、歳出が9兆8,200億円に対して歳入が8兆700億円、1兆7,500億円の不足ということになった。  
 これだと、首都圏道は減税が問題になるだろうし、九州道では増税か、もしくは行政サービスを下げるしかないということになる。現在の税制のままで本当に道州制になった場合、九州の税収が首都圏より少なくなる可能性は大きいだろう。

図表3.12 九州道(沖縄を含む)と首都圏道(埼玉、千葉、東京、神奈川)の財源比較        (単位:100万円)
 
九州道
首都圏道
全国
都道府県
市町村
都道府県
市町村
都道府県
市町村



歳出総額 (1)
5,284,359
5,135,493
10,419,852
10,742,874
9,179,588
19,922,462
42,888,453
41,227,995
84,116,448
道府県、市町村への支出 (2)
-
-
593,019
-
-
1,657,628
-
-
5,482,944
純歳出総額(1)-(2)  (3)
-
-
9,826,833
-
-
18,264,834
-
-
78,633,504



歳入総額 (4)
5,357,817
5,278,807
10,636,624
10,878,589
9,586,201
20,464,790
43,454,751
42,598,495
86,053,245
都道府県、市町村からの支出 (5)
68,368
524,651
593,019
123,951
1,533,677
1,657,628
600,662
4,882,282
5,482,944
純歳入総額(4)-(5)  (6)
-
-
10,043,605
-
-
18,807,162
-
-
80,570,301
国からの支出 (7)
3,046,484
2,164,105
5,210,589
1,485,420
1,061,737
2,547,157
16,056,946
10,664,855
26,721,801
地方債 (8)
489,311
456,028
945,339
442,703
548,109
990,812
3,156,055
3,260,156
6,416,210
歳入差引
(6)-(7)-(8)  (9)
-
-
3,887,677
-
-
15,269,193
-
-
47,432,290
国税配分  (10)
-
-
4,186,845
-
-
23,695,632
-
-
60,656,126
差引過不足額 (9)+(10)-(3)
-
-
△1,752,311
-
-
20,699,991
-
-
29,454,912
(出所)
1 歳出額、歳入額は、平成2年度「地方財政統計年報」による。    
2 国税配分は、平成2年度版「国税庁統計年報書」による。    
3 都道府県、市町村への支出(2)、都道府県、市町村からの支出(5)の中に、各県ごとの数値が不明なものが若干あり、(2)および(5)に含めていないが、額も少なく、歳入、歳出両方に計上され、結局は差引きされるので、無視できる。    
4 国からの支出については、上記「地方財政統計年報」P.6には、275,996億円となっているが、各県ごとの数値を計上したP.98以後の集計では、267,218億円となり、差が8,778億円あるが、歳入総額の1%であるので、無視する。

 
 ただ、今のように東京に本社が集中している状態のまま、法人税その他を現行どおりとられたら、東京では住民税が低くなって、ますます人が集まることになってしまう。だからこの辺の配分はきわめてむずかしい問題だが、いずれにしても、やはり東京に集まりすぎている本社機能を分散させる、つまり国土政策を踏まえた新たな経済圏の構築を一方で推進していく必要があるとともに、現在の税あるいは財政制度の抜本的見直しが避けて通れない問題であることを示している。

◎ドイツではとうなっているか  
 それでは先進諸国での地方税のシステムはどうなっているだろうか。ここでは徹底した地方分権が行われているドイツの例を検証してみたい。  
図表3.13 (表をクリックすると拡大図をご覧になれます。)
 ドイツの行政組織は連邦制をとっている。つまり中央国家として連邦があり、連邦を構成する16の国家として州がある。そして基礎的な自治体として市町村がある。
 その税制は連邦基本法で国内統一化が図られ、税源偏在の大きい税目を連邦税と共同税にあて、税源偏在の少ない税目を州税と市町村税とする税源配分を行って、結果として各地方団体間の税収格差が広がるのを緩和するよう工夫されている。
 
 具体的には次のようだ(図表3.13)。  
  1.連邦税−消費税、関税、石油税など連邦が賦課徴収するもので、租税総額の14.1%を占める。  
  2.州税−財産税、ビール税、自動車税など州が賦課徴収するもので、租税総額の4.4%を占める。  
  3.市町村税−不動産税、営業税など市町村が賦課徴収するもので、租税総額の7.0%を占める。
    なお営業税の一部は州、連邦に配分される。  
  4.共同税−所得税、法人税、売上税の3税目を主に構成され、租税総額の69.5%を占め、主に州
    で賦課徴収し、約半分を連邦に配分する。  
  5.その他−EC分、5.0%。
  この結果、最終的な税収割合は、連邦50.8%、州32.6%、市町村12.8%,EC3.8%となっている(1990度)。  
 また、共同税のうち、州に帰属する所得税と法人税の各州への配分に当たって、給与所得税は納税者(給与所得者)の居住地へ、法人税は給与・報酬支払額を基準に事業所所在地へ配分される。この結果、給与所得税が事業所所在州に、また法人税が本社所在州に偏存することが是正される。  
 そしてまた、州に帰属する売上税(売上税全体の35%、90年度)の各州への配分に当たっては、その75%が人口比例で配分され、残る25%は財政力弱体州に対し、その租税力が連邦平均の92%に達するまで優先的に配分される。  
 さらに、州間財政調整として、財政力測定値(その州の州税、共同税の州分、市町村税の一定割合等)が、その全州平均に人口を乗じた調整額測定値を上回る州から、下回る州に対して調整交付金を交付する。  
 こうした州間の財政力格差を調整する機能の結果、州間の税収格差を人口1人当たり95〜105%の間に圧縮している。また連邦は、州間財政調整でもなお残る平均以下の財政力を調整するため、連邦補充交付金を交付している。  
 以上のようにドイツの税制は徹底的だ。主要税源のほとんどを占めるこの共同税の制度は、連邦、州、および市町村が相互に財政上の協力関係をおしすすめるために、相互に平等でかつ安定的に財源を確保できるような租税体系として考案されたといわれる。  
 日本においても、地方分権の進展にあわせて、まずは補助金の一般財源化をはかる。そして将来的には、税源に対する地方自治体の優先主義を実行し、地方自治体の財政責任を確立していく。そしてこの土台の上で、実態を見据えた財政調整制度を考えていくべきだと思う。    
 (注)ドイツは、1990年10月の統一後、ドイツ統一基金等により旧東独地域に財政支援を行ってきたが、1995年以降は、連邦財政緊縮計画実施法に基づく全ドイツ的財政調整等による支援に切り換えられる。つまり、統一以来、東西ドイツで分離して財政調整を行っていたが、今後は、旧東独6州を含め、全ドイツ16州で売上税の各州配分と州問財政調整を行うようになる。その際、租税力の弱い旧東独地域の各州を連邦平均に近づけるため、租税力の強い旧西ドイツ地域の各州が負担するとともに、財源である売上税の一部を連邦分から州分へまわし売上税の州分を拡充するなどさまざまな強化策を講じることとされている。また、連邦補充交付金も旧東独地域の社会資本の整備対策を中心に大幅に拡充される。これからの共同税と財政調整制度は、従来の均質な各州相互間の財政調整という機能に加え、ドイツ統一に伴う経済発展による「統一の配当」が生み出されるまで、旧東独地域に対する財政支援策のひとつとしての役割も果たすことになる。