著書『「日本合州国」への道―こうしたら「分権」は実現する』 (東洋経済新報社・1995年1月初版)から
私の道州制論  
大分県知事 平松守彦

 
 

 
2 有力試案へのコメント




(3) 第3次行革審の「パイロット自治体制度」(第3次答申)

 

 第2次行革審の後を受けて、平成2年10月から3年間は第3次行革審議の時代となった。ここでは、話題を呼んだ第3次答申(平成4年6月)の「地方分権特例制度」(パイロット自治体)に関する部分を取り上げる。


◎分権への突破口としての地方分権特例制度  
 答申は、「『国から地方へ』の改革においては、これまでの中央集権的な発想に基づく行政の仕組みを根本的に転換するという意識改革が国において必要である」とまず述べ、国の姿勢に注文をつける。その上で「国の行政は国の基幹にかかわる課題に全力を注ぐこととし、地域住民の生活にかかわる権限は地方へできる限り移管すべきである」という第3次行革審の基本理念を改めて強調する。  
 そして、分権が遅々として進まぬ現状を「閉塞状況」と捉え、「現状を打破して一層の地方分権を図るためには、国の権限と国の負担・助成についての基本的考え方の見直しや、権限移管の方式等についての発想の転換など、抜本的な政策転換が不可欠である」と述べる。  
 こうした認識の下に、「閉塞状況を打破する突破口」として提案されたのが「地方分権特例制度」の導入であった。すなわち、地方分権の推進をただ一般的に唱えていても埒が開かないのなら、その意欲や能力のある自治体に、まず特例的・実験的に分権を行なってみてはどうかというわけだ。


◎地方分権特例制度のねらい  
  「制度の位置付け」の項では、この制度とこれまでの利益誘導的な地域振興策との違いが、次のように説明されている。
   「地域の主体性を強化する措置を講ずることにより、地域の行政
  主体が、自らの課題に、より主体的に取り組むことを可能とすること
  をねらいとしている。したがって、各種の地域振興立法に見られる
  ように、補助金等の重点的配分や税制上特例措置を講ずるなど、
  国が後見的な立場から様々の手厚い措置を講ずることによって地
  域の振興を図ることをねらいとするものではない。  
   国は、・・・・地域が自らの課題に主体的に取り組む基盤を提供す
  ることにより、行政のイノベーションの可能性を広げようとするもので
  ある。また、地域が自らの課題に取り組むことで、受益と負担につい
  ての住民の意識が目覚め、住民参加をおのずから促すことともなる
  ことが期待される。」  
 また第2次行革審の「地域中核都市」や第23次地制調の「中核市制度」との関係については、次のように説明される。  
 「地域中核都市制度は、都道府県と市町村との間の権限配分を始めとして、都市の規模・能力に応じた権限配分の一般制度の在り方を検討内容としている。これに対して、この地方分権特例制度は、国の権限や補助金等を中心として、地方自治体の自主性の強化を内容とする特例制度であり、それぞれに地方分権推進の上で意義あるものとなろう。」


◎退けられた「特例法」の制定  
 このようにこの制度は、地方分権への強い期待をべースに構想されたものだったが、しかし実際の中身は、審議の過程で大きく後退することになった。  
 こうした試みは、スウェーデンなどの北欧諸国では1980年代に「フリー・コミューン」の実験として始められ、かなりの成果を収めたといわれる。それらの国々では、基本的に国がまず自治体を選定し、そこに最大限の自由を与えて現行制度の改革案を提出させ、実行し、それを一般制度化していったとされる。  
 ところがこの答申では、まずこの制度の適用を受けようとする市町村が、内閣総理大臣に対して、地域づくりに関する具体的な計画とその実施に必要な許認可や補助金などの特例措置を明らかにした上で、申講を行なう。そして申請を受けた内閣総理大臣が、「地方分権特例制度推進本部」に検討を求め、同本部の合意の上で適用市町村を指定する、という方式が取られることになった。  
 フリー・コミューンのようにまず指定した上で考えさせるのではなく、まず考えを出させ、それをチェックした上で指定するという、いかにも日本的な方法に「修正」されたわけだ。しかも、当初検討されていた「特例法」による制度化の案は退けられ、現行制度を弾力的に運用する形で実施する薬となった。  
 結局は、中央省庁のさじ加減に大きく左右されるものになってしまったわけだ。


◎許認可等の特例  
 答申の内容を少し具体的に見ていくことにしよう。  
 想定されている自治体は、「人口規模20万人程度以上」の「市町村または市町村の共同体(一部事務組合など)」で、それ以下のところでも「申請の内容が自主性強化の面で非常に優れているもの」については対象になりうるとされている。
 特例の項目として挙がっているのは、「許認可等の特例」「補助金等の特例」「地方債起債の特例」「機関委任の特例」の四つである。当初、特例法の中で具体的に列挙する方法が検討されていた許認可や補助金のリストについては、あくまで「例示」として、別紙にかかげられるに止まった。  
 まず「許認可等の特例」では、「まちづくり、福祉・衛生・保健、教育・文化など地域づくり」に関して申請のあった国の許認可等について、「許認可等の趣旨.目的に違背しない限りにおいて」、「自主的な取り組みが可能となるよう、自動許可的に迅速処理を行う」とし、「申請に応じ関係省庁等が必要な措置を講ずるこどとする国の許認可等」を別紙に例示している。  
 その別紙を見てみると、「まちづくり」「福祉・衛生・保健」「教育・文化」にわたって合 計五九件の許認可等が示されているのだが、驚くべきことに、そのほとんどは都道府県知事の許認可事項であった。


◎補助金等の特例  
 次に「補助金等の特例」についても「補助金等の趣旨・目的に違背しない限りにおいて、対象自治体の自主性の拡大や事務負担の軽減等を図るため」、「必要な措置を講ずる」とし、以下のような四点の考え方を示す。  
  (1)法律に基づき国の負担が義務付けられているもの以外の補助
   金等について、個々の事務・事業の趣旨・目的、地方への同化・
   定着状況等を勘案しつつ、対象自治体に対する一般財源化を
   推進するため、今後の予算編成過程において地方分権特例制度
   の趣旨に沿って検討し、結論を得ることとする。一般財源化に伴う
   必要な財源については、国と地方の財政状況を勘案しつつ、地方
   財政計画全体の中で措置することとし、対象自治体に対しては交
   付税等による措置を検討する。  
  (2)補助金等要綱について、対象自治体への適用を緩和、弾力化
   する。  
  (3)対象自治体に係わる補助金等の事務手続きについて、交付申請
   手続きの簡素化、迅速化、提出書類の簡素化等を図る。  
  (4)その他、対象自治体の具体的申請を踏まえ、必要な措置を講ずる。  
 そして「関係省庁等が必要な措置を講ずることとする国の補助金等」として、「まちづくり」「福祉・衛生・保健」「教育・文化」にわたって合計78件の補助金が例示されている。


◎地方債起債の特例と機関委任事務の特例  
 また「地方債起債の特例」については、次のように記載されている。  
   「補助金等の一般財源化の進展状況に応じ、一般財源化された補
  助金等の対象事業に係わる地方債資金に関しては、許可予定額の
  総枠を設定し、その範囲内で対象自治体の報告に基づき自動的に許
  可される措置を講ずる。その際、対象自治体に対し、政府資金、公営
  企業金融公庫資金などの安定・良質な資金の配分に配慮する。な

  お、地域づくりに関する地方債については、適切に配慮する。」
 また「機関委任事務の特例」としては、  
   「対象自治体に係わる機関委任事務について、専ら国の行政のた
  めに行われる事務等 を除き、対象自治体の具体的申請を踏まえ、
  地方自治法第150条に基づく一般的指揮監督等の行使は、極力
  限定するよう配慮する。」
とされた。


◎情あって意足らず  
 以上、抽象的・専門的な文言が多くてわかりにくかったと思うが、結局すべてが国の「配慮」や「検討」に委ねられており、しかも許認可などの特例措置は、実質的に都道府県知事のそれに焦点が当てられているという点は、ご理解いただけたろう。「現行制度の弾力的な運用」とは、結局、こういうものだったのだ。  
 その後この制度は、宮沢内閣の下で閣議決定され、平成5年度から平成10年度末(更に5年程度の延長可能)までを実施期間としてスタートすることになった。担当の総務庁は、募集パンフレットに「思い切って手を挙げてみませんか」と刷り込み、熱心に申講を呼びかけたが、93年度分の申請に実際に手を挙げたのはわずか15件、94年度も16件にとどまっている。  
 遅々としてすすまぬ地方分権に風穴を開けたいという、その気持ちは私にもわからなく はないが、この試みはいささか情あって意足らずというか、ただ風穴を開けようという感情的な議論が先行して、中央省庁の壁に跳ね返され、結局は骨抜きにされてしまったという印象が強い。



(4) 第3次行軍審の最終答申と行革大綱

 

 第3次行革審の最終答申は、平成5年10月に政府に提出された。昭和56年に第2臨調が設置されて以来、12年間にわたって行革に関する提言を続けてきた臨調・行革審の、これが最後の答申である。  
 答申は、全体的に抽象的な表現で改革の方向を示すにとどまっているが、今後の行革の柱に地方分権と規制緩和を据え、地方分権については、政府に「地方分権基本法」の基礎となる「地方分権大綱」を1年をめどに策定するよう求めた。  

◎都道府県に重点を置いた権限の移管  
 この答申には、行政側がただちに対応を迫られるような提言はほとんど見られない。内容的には、これまでの答申で提起されてきたことの要約という印象が強いものだ。「地方分権の推進」については、まず、国は「(外交・安全保障などの)国家の存立に直接かかわる政策、国内の民間活動や地方自治に関して全国的に統一されていることが望ましい基本ルールの制定、全国規模・視点で行われることが必要不可欠な施策・事業など」を重点的に分担し、「地域に関する行政は、基本的に地方自治体において立案、調整、実施する」べきだという原則論を提示する。   そして、「地方自治体への権限の移管、国の関与の廃止などを着実に実行していく」ためには「個々の法令を点検し、必要な改正作業を丹念に進めていく必要がある」として、現実的な対応を要請する。
 また広域行政需要に対しても、「極力、関係自治体相互の水平的な協力関係の中で解決すべき」であり、「地方自治体の協議会、事務組合等の既存制度や今後整備される広域連合制度の活用を図るべきである」として、おだやかな方法を推奨している。
 ただし、地方自治の中心的担い手は市町村であるとしつつも、「国から都道府県への権限の移管等がなおざりにされてはならない」と述べ、さらに「行財政能力に大幅な格差がある市町村の現状にかんがみれぱ、当面、都道府県により重点を置いた権限の移管等を進めることが現実的かつ効果的であろう」としている点は、注目に値しよう。  
 地域中核都市やパイロット自治体などが、都道府県から市町村への権限委譲に傾きがちだったのに比べると、この指摘は都道府県の位置付けに関して、軌道修正を求めているからだ。


◎地方自治体の財政基盤の強化  
 「地方自治体の財政基盤の強化」の項では、以下の課題が示されている。これも、これまでの答申などで指摘された事項をまとめたものだ。  
 (1) 国と地方の新たな役割分担に見合うよう、国民負担率の上昇を
   抑制していく中で、地方財源の充実強化を図る。  
 (2)地方交付税は、基準財政需要額の算定方法を簡素化しつつ、合
   理的配分に努めるほか、より財源の小さい地域の自治体に対する
   財源保障を充実する。  
 (3)補助金等は、国と地方の役割分担の見直しに応じ、国の負担を
   義務付けた法律の見直しや補助事業そのものの要否の点検を行う
   ことによって逐次削減ないし一般財源化を図るほか、補助基準の緩
   和・弾力化、統合・メニュー化等を進める。
 (4)地方債の許可制度を弾力化・簡素化し、その運用に当たり個々の
   地方自治体の起債に係わる国の関与を最小限度のものとするととも
   に、地方債市場の整備育成を図る。  
 (5)一体的な経済社会圏域を形成する地方自治体の間で、広域的な
   事務処理とその負担の在り方等を通じて、行財政運営面において
   もより一体性が確保される方策を推進する。


◎「地方分権基本法」  
 次に「自立的な地方行政体制の確立」の項では、市町村については「既に実施段階にある地方分権特例制度」、「早期の法制化が求められる中核市や広域連合」制度などを積極的に活用すること、そして「市町村の自主的合併」が推奨され、都道府県については、広域行政需要の増加に対して「既存の制度の活用や都道府県による広域連合の積極的な設立」が勧められている。  
 また、都道府県合併や道州制については、「将来の都道府県合併についても固定観念にとらわれない真剣な取組を行うほか、全国的に都道府県合併の機運が高まるような状況が発生する場合に備え、現行の都道府県制に代わるべき新しい広域的自治体制度(いわゆる道州制)の意義等について国として幅広い観点から具体的な検討を行う必要がある」と、非常に慎重な表現で、将来的な課題として位置付けられている。  
 そして最後に、これらの課題を実現していく道筋として以下のような「地方分権大綱」の策定と「地方分権基本法」の制定が提唱される。  
   「政府においては、内閣及び内閣総理大臣のリーダーシップの下、
  行政改革の一環として、地方分権に関する新たな推進体制を整
  備し、地方自治体を含む関係者の意見をも踏まえつつ、地方分権
  推進の基本理念、取り組むべき課題と手順等を明らかにした地方
  分権に関する大綱方針を今後1年程度を目途に策定すべきである。   
   政府は、上記の大綱方針に沿って、立法府及び行政府の合意形
  成を進め、速やかに成案を得て、地方分権推進に関する基本的な
  法律の制定を目指すべきである。」  
 この「基本法の制定」を答申に盛り込むかどうかをめぐっては、中央省庁と行革審との間で、最後まで綱引きがあったと報じられていた。結局は、「大綱」というクッションをはさむことで、ようやく折り合ったようだ。  
 こうして現在、先に述べたように、今年中の地方分権大綱策定に向け、政府・行革推進本部の地方分権部会を中心に作業が続けられている。大きな期待を抱くことはできないにしても、我々は今後の政府の取り組みを注視していく必要があるだろう。