『毎日新聞』 2003年6月25日号より連載・全25回
2003年7月4日号<7>

地域の自立戦略【7】
「一村一品」

〜主役は地域住民〜

前大分県知事 平松守彦


 知事になっての目標が「物も豊か、心も豊かな豊の国」。GNI(県民総所得)
とGNS(住民の充足度)を高めること。当時、豊かさ指標というのを経済企
画庁が発表していた。どんじりの埼玉県の土屋義彦知事が「けしからん」と差し
止めを求め、今は発表されていない。2000年に全国一の過疎県だった大分
が、一人当たりの県民所得で九州一になった。

 一村一品運動は失敗例もずいぶんある。失敗したらまた新しいものに挑戦す
ればいいわけで、県職員には、やる気のある地域を後押しせよ、と言ってきた。
失敗してもはい上がれば、また新しい道が開ける。

 要は人材だ。起業家精神を持った人間がいなければならんということで83
年に「豊の国づくり塾」を作った。先生がいるわけでも、教科書があるわけでも
ない。農家の人や、学校の先生、農協職員たちが塾生で、大山町の矢幡欣治町
長や由布院の中谷健太郎さん、溝口薫平さんなど地域おこしの経験のある人に
先生になってもらって始めた。塾是は「継続」「実践」「友愛」。4年かけて8ヵ所
に2年間勉強する塾を作った。その塾で一村一品の人づくりネットワークがで
きた。

 前にも述べたが、一村一品運動では「県は自ら助くるものを助く」を掲げた。
努力するものについては応援する。でも補助金は出さない。補助金を出せば、
それがなくなったらやめた、ということになる。特産品づくりの基盤整備、
例えば物流コストを下げるため道路を造ったり、技術指導などは県が受け持つ。
一村一品で過疎がなくなるわけではない。過疎は人、モノ、情報の東京一極
集中と表裏一体だ。一村一品で過疎が救えるというのは話の筋が違っている。

 湯布院はヌード劇場、特殊浴場、ネオンサインをつくらない、をまちづく
りのルールにした。これを守り、自然環境を大切にしたことがヒットした。
ドイツ村がある直入町も観光客が増えている。リーダーが中心となり、住民
みんなで行動したからうまくいっている。いい人材をいかに育てるかが大事
だ。舞台の主役は地域住民、行政は舞台づくり。役者が困った時に照明をう
まくやったり、装置をきれいにしたり、黒衣に徹する。「民」主導でこの運動
はうまくいったと思う。



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