『毎日新聞』 2003年6月25日号より連載・全25回
2003年6月25日号<1>

地域の自立戦略【1】
「W杯サッカー」

〜“400億人”に大分アピール〜

前大分県知事 平松守彦


 W杯サッカーを語るとき、私はこう言う。「それはある男の一言から始まった」
と・・・・・。

 その男とは、1992年当時、自治省(現総務省)から県に出向していた
溝畑宏・現県企画文化部長(42)だ。

 86年、日本サッカー協会理事会で、02年のW杯日本誘致が提案されたのが発端
だった。91年にW杯日本招致理念委員会というのができ、溝畑君が突然、「その
委員になっていただけませんか」と持ってきた。90年のイタリアでのW杯を観戦
して「地方から、世界に情報を発信できるのはW杯」と確信し、「大分にも世界に発信
できる舞台が必要」と考えたらしい。

 剣道はやっていたが、サッカーのサの字も知らないし、なぜ私がと驚いた。
だが、委員会のメンバーをみたらサッカー協会長長沼健さん、日産自動車会長の
石原俊さん、三菱商事社長の諸橋晋六さんらがいるし、面白そうなので「いいよ」と
引き受けた。

 溝畑君の話を聞いているうちに、W杯サッカーなるものは、オリンピックをしの
ぐ国際スポーツ大会で、テレビで延べ400億人が見る世界的なイベントであるこ
と、地方でも開催できることが気に入った。例えばアメリカのW杯は、ワシントン、
ニューヨークだけでなくオーランドやダラスなどの地方都市でもやった。

 大分が名乗りをあげれば、世界の400億人にアピールできるイベント開催地に
なれる。オリンピックは1国1チームの出場だが、W杯は予選からイギリスならイ
ングランド、スコットランドなど4チームが出場する。香港なども出場権がある。
地域に密着した競技だから「地方の代表として意見を言ってください」と頼まれ「面
白いな」とすっかり洗脳された。

 日本で開催すれば10会場が必要となる。有力な開催地と見られた福岡市の桑原
敬一市長は、よかトピア(アジア太平洋博覧会)をやった直後でW杯誘致はやらな
いと言った。

 サッカーは地方でやれて世界に情報を発信できる。それだけに大きな会場も必要
だった。私の頭の中には08年の2巡目国体の大分開催があった。02年にW杯、
08年に国体。サッカー場を国体のメーン会場にすれば一挙両得だ。巨大投資と決
して批判を受けるものではない。建設に当たっては環境問題にも気を配った。環境
保護運動家の意見を取り入れて緑を残し、環境にもマッチしたスタジアムを造った。

 大会を終えた今、W杯がこんなにも人間を興奮させるものかと、つくづく思い知ら
された。大会前は「これほど」とは知るよしもなかった。


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