讀賣新聞 9月21日版より

  読書手帳   


    (第4回)    
 九月。読書の秋だが、知事という仕事は日程表によって行動が決められており、土、日もゆっ くりと本も読めない。東京往復の飛行機の中が読書できるまとまった時間となる

 私は伝記や自伝ものが好きだ。

 梅棹忠夫「行為と妄想」(日本経済新聞社、1700円)は、同紙所載「私の履歴書」の集成 版。梅棹さんが1957年、中央公論に発表した「文明の生態史観序説」を読んだ時の衝撃は今でも 忘れない。ヨーロッパ文明と日本文明は同質的なもので、封建制=革命=近代社会という平行現 象を辿っているという生態学的分析は、中央アジアに自ら足を運びフィールドワークの上に構築 された斬新な文明評論だった。また「情報産業論」(1963年)は、通産省時代コンピュータ 産業行政を担当した私にとって世界で初めての独特な情報化社会論で大いに示唆を受けた。

 「行為に先んじて夢想と計画がある。妄想があるから行為が成立する」と著書はいう。

 加藤節「南原 繁」(岩波新書、630円)。学生時代南原教授の「政治学史」を聴いた。白 髪、目を閉じて教壇をゆきつもどりつプラトン、カントを語る講義には伝道者的情熱があった。 著書「国家と宗教」(岩波書店)は戦時中肌身離さず持ち歩いたものだ。

 この本は内務省官吏、そして教授、東大総長となり戦後日本の未来像を説いた「理想主義的現 実主義者」の評伝。「わがどちのいのちを賭けて究めたる真理のちからふるはむときぞ」。昭和 20年元旦の歌には気概がある。

 城山三郎「運を天に任すなんて」(光文社、1500円)。相次ぐ証券・金融界の不祥事件に 城山さんは、退き際があざやかで私心のない後継者選びをした中山泰平氏(元日本興業銀行頭取) が肩書なしで日本経済再建に奔走した「静かな気概」ある人生を描いて、今日の経営者への厳し い警告を発している。

                          (大分県知事)