讀賣新聞 4月13日版より

  読書手帳   


    (第1回)    
 四月。県庁で新任職員知事訓示式がある。霞が関でも「官僚批判」大合唱の中、新入 省の若者達が複雑な思いで職務につく。新しい門出に読んでもらいたい本がある。

 立石泰則著「覇者の誤算」(講談社文庫、1262円)。1960年から70年台の 頃、コンピュータ国産化、情報産業創造に賭けた官僚、企業家、技術者たちの意気込み と苦闘をノンフィクションで描く。私も若き通産省課長として登場する。IBMに追い つけ追い越せと「坂の上の雲」をめざして官民協調で取り組んだ高度成長時代最後の成 功例だった。「個人と企業と国家という三つのベクトルの向きがほぼ一致した時代であっ たからこそうまくいった」と著書はいう。当時の人達には「技術立国」の「志」があっ た。

 「志」といえば、佐高信著「官僚たちの志と死」(講談社、1456円)では、水俣 病救済問題で自らの命を断った山内環境庁企画調整局長や、農林官僚として時の有力大 臣に抵抗し左遷され、後に政治家となり総理の座を蹴った伊東正義・元外相など、公の ため命をけずった官僚たちの毅然とした人生と壮烈な死を克明に書く。いつだったか辛 口批評家佐高さんに「今の官僚は『志』を喪失しているように思える。かつて官僚にも 使命感を持って仕事をした人もいた。そんな人のことを書いて下さい」と注文した。私 に送られてきたこの本の扉には「ささやかな答案として」と書いてあった。

 最近、日本官僚の内幕モノ、小説が書店に出廻っているが、官僚小説の原点は城山三 郎著「官僚たちの夏」(新潮文庫、427円)だ。私も仕えたことがあるが「異色官僚」 といわれ、役人をやめて天下りもしなかった佐橋通産次官をモデルに、新しい経済立法 を国会に提出する過程をめぐる次官と若き通産官僚の人間模様を、さわやかに描く。

 かっての通産官僚、故・天谷直弘著「ノブレス・オブリージ」(PHP研究所、38 83円)では、これからの日本は経済中心の町人国家からノーブルな評価を追求するノ ブレス路線へ転換すべしと説く。権力を持つ官僚は自分を国民に捧げる義務(オブリー ジ)があることを忘れないでほしい。                                (大分県知事)