二 景気対策について

 1 景気の見通しについて

 景気の見通しについては、銀行や証券会社などそれぞれの機関が、いろいろな予測を発表していますが、その中で日本銀行の「短期経済観測調査」、いわゆる日銀短観が最も信頼のおける調査であると思っています。 四月二日に大分支店が発表したものでその動向を見てみたいと思います。

  (1) 世界経済の見通しと日本の事情

 その前に、平成十年の日本経済の成長率ですが、国際通貨基金(IMF)が発表した「世界経済見通し」を見ますと、アジアの平均は四・四%、世界全体が三・一%という伸び率に対して日本は0%です(表一)。 成長率がマイナスになったのは、昭和四十九年以来ということですから、政府が緩やかな景気回復と口にしながら、しかも公共事業費を七・五%カットするというようなデフレ予算を組んできたことで、ますます景気の底が冷えてきて、このままでいくと大変なことになると心配しているところです。
 それに追い打ちをかけるようにアジアの通貨危機が襲ってきました。 これも突然のことで、韓国とインドネシアは、IMFの管理体制下に入ることになりました。 このことが日本の景気、特に大分や別府の観光にも大きな影響を与えています。 今まで別府には韓国の人は五万人ほどは観光で来ていましたが、今では二千〜三千人ぐらいで目に見えて減少しています。 大分・ソウル定期航空便についても、県が支援することにして赤字を補てんしていますが、こちらから行く人の方が多くて向こうから来るお客さんは非常に少ない。 私は、今の時期はぜひ皆さんに、この直行便を使ってもらって運航の実績を上げ、だんだん景気が回復すれば今度は韓国の人に来ていただく。 今の苦しい時は、われわれが大いに韓国に行って外資を使い韓国経済の立ち直りを促進することが、韓国の観光客を呼び戻すことにつながり、これからの韓国との交流活発化に役立つのではないか。 このように考えて先般、別府商工会議所の会頭さんたちと一緒に韓国に行きまして、観光公社主催のシンポジウムで講演をしてきました。

  (2) 韓国の事情

 韓国は今、通貨は一ドル当たりが八〇〇ウォンであったものが一五〇〇ウォンを超えるということで、非常に大きく切り下げられています。 だからタックスフリーの店は大繁盛です。 三〜四割の割引をしていますが、バーゲン価格よりさらに五時以降は三割引きのサービスとなるというので、つい私も行ってみました(笑)。 韓国の雑誌「コリアン・レポート」を読んでみますと、韓国の識者は、韓国がIMF管理体制に入ったことを非常に深刻に受け止めていまして、これは困難である、屈辱である、と次のように述懐しています。 今までは「漢江の奇跡」による目覚ましい経済成長を遂げ、OECD(経済協力開発機構)の加盟国になった。 ここまではよかった。 しかしこの経済至上主義が次第に借金を重ねることになり、また、財閥企業の投資が非常に過大になって、ついに赤字をぬぐい切れなくなったのだ。 ここまで考え直して、経済第一主義を転換して「繁栄」から「生存」へと切り替えるべきである、と主張しています。
 また特に、韓国経済の不況が大分県との関係で心配になりますのは、二〇〇二年に開催されるワールドカップ・サッカーのことです。 日本の開催地は、札幌市、宮城、新潟、茨城、埼玉、横浜市、静岡、大阪市、神戸市、それに西日本では大分、この十ヵ所です。 韓国も同じく十ヵ所、ソウル、仁川(インチョン)、水原(スウォン)、大田(デジョン)、大邱(テグ)、全州(チョンジュ)、蔚山 (ウルサン)、光州(クァンジュ)、釜山(プサン)、済州島の西帰浦(ソキボ) ----ここの市長さんが先日来県されて、大分のスタジアム予定地を視察されました----の十ヵ所です。 七十二試合を二十ヵ所で実施します。 日韓でそれぞれ三十六試合ずつということです。 ところが今、韓国がIMF管理体制に入って、この十ヵ所全部に競技場がつくれるかどうかが問題になっているようです。 ソウルのオリンピック競技場の改造費がかさむので、仁川が肩代わりするのではないかとの憶測も流れています。
 また、今年のワールドカップ・サッカーは、フランスで六月に開催されますが、いよいよ四年後は大分です。 欧州の六月は一番良い季節です。 しかし、日本でも韓国でも六月は梅雨の時期です。 東京オリンピックを開いたのは十月でした。 ですから二〇〇二年の開催を、十月に延ばしたらどうかという話もあります。 しかし、韓国では、二〇〇二年の十月に、釜山でアジア・オリンピックが予定されていて、IMF管理体制下で二つの国際大会を同時に開催することは無理だという問題があります。 いずれにしても、日本と韓国の友好関係は二十世紀おける重要な問題ですから、これがスムーズに行われることが大切だと思っています。

  (3) 大分の場合

 大分の場合に戻りますが、日銀の短観によりますと、これまではプラスと答えた企業が多かったのですが、景気が悪くなるとした経営者の数がだんだんと増えてきて、三月の調査ではマイナス三一という指数、六月予想はマイナス三六という非常に悪い数字が出ています。 これを全国に比べますと、大分県の場合はいくらか良い方のケースです。 これは東九州自動車道をはじめ、道路整備や大分駅高架化など、大型プロジェクトが次々に進みますので、これらが企業家のマインドを下支えしているというのが、日銀大分支店の発表です。
 去る四月二十四日、政府は総額十六兆円超という総合経済対策を決定しました。 四兆円の特別減税を含み、環境・福祉に関連した社会資本の整備などで真水(財政支出)を十二兆円用意しているという内容です。 しかし、これまで政府が打ち出した景気対策の中には、中小企業金融の額とか財政投融資とか、お金を貸す方の側のものを全部入れて何兆円と水ぶくれの額を示すものですから、なかなか景気回復の実効が上がらない。 まだ正式の話ではありませんが予算の八〇%前倒しという話も出ています。 県では予算の八三%、過去最高の前倒しを決定しました。 また、ゼロ国債といって事前に発注して金は次年度払いという契約もしてよろしいということですが、われわれにしてみると、あまり早く前倒しをしてしまって、後で国からの予算が付いてこない場合は、下期になってわずか二割しか金がないということでは困ります。 私は全国高速道路建設協議会の会長をしていますので、補正予算を早期に決め、高速道路など公共事業に重点を置くよう国に要請したところです。

 2 景気対策の実効性について

 景気対策には、減税と規制緩和と公共投資がありますが、政府は減税を前回二兆円実施しました。 日本の場合、大都会では減税によって少しは消費拡大の方向に動くでしょうけれども、中小都市や過疎地域などでは、減税しても恐らくそれは貯蓄にほとんど回って、これが消費増につながるということは可能性としては少ないのではないか。 むしろ最近は、医療制度の改正で自己負担が増えているし、消費税も五%にアップしたということで、財布のひもはますます固くなっていますので、減税の景気への効果は即断できません。

  (1) 公共事業を考える

   ア 公共事業反対論

 従って、ここは公共事業の出番ではないかと、かねがね主張を繰り返しているところです。公共事業につきましては、東京あたりの学識経験者や政治家から、景気回復には効果が期待できず、またばらまき予算で不要不急の事業に無駄遣いが目立つという反論が出されています。これは公共事業の執行に当たって、時々悪い例が新聞などに報道されていることと関連があるようです。例えば、港湾で言いますと、日本海側の都市に大型埠頭をつくったところ、当初計画通りの船が入港しないので閉店休業を続け、目下釣り客の絶好の場所となっているケース。これを日本一の釣り堀だと酷評した人がいます。また、北海道には、交通量が少なく、その上に熊が出現するという高速道路があるそうですが、このような話が公共投資には無駄が多いということになるわけです。こんな現象を取り上げて、ばらまき投資で景気浮場にならないという議論が依然として強い。これは「頭に腫れ物ができているから首ごと切れ」という論理と同じで、悪い例があるからやめろというのは極論に過ぎるのではないかと思います。
 大分県では、これまで県単事業を積極的に実施して、思い切って公共事業を重点的に実施してきましたので、一般道路をはじめ農道・林道や観光道路などが急速に整備されてきました。これらが景気の下支えとなって、雇用対策としても有効に働いていると思っています。雇用か賃金かとよく言われますが、不況になるとやはり雇用をできるだけ確保するというのが重要になってきます。

   イ 有効求人倍率にも影響

 そこで有効求人倍率を見てみることにします。これは人を求める数を職を求める人の数で割った比率ですので、百人を採用したい会社があって百人の求職者があれば数値は一になります。だから百人が職を求めているが採用する方が五十しかないということであれば、0・五となります。全国の平均を見ますと、去年の四月から八月までは0・七三、今年の一月は0・六四、二月になると0・六一です。百人の求職者があって採用は六十一人ということです。
 大分県を見てみますと、昨年四月は0・七三でしたが、七月には0・七八、今年一月は0・六九、二月では0・六六となっています。参考までに今年二月の九州の状況を申し上げますと、福岡県が0・四五、佐賀県0・五五、長崎県0・四八、熊本県0・四九、宮崎県が0・五0、鹿児島県0・四九です(表二)。これを見ますと本県は、一・00を切っていますのでまだまだ十分とは言えませんが、九州では一番高い。切れ目のない公共事業の継続によって、雇用の確保に役立っていると私は思っています。また、特に農山村など過疎地域では、圃場整備などの事業が農家の主婦の雇用の場となり、農家の収入にも上乗せできているということも見逃せない事実です。
 四月二十七日、OECD閣僚理事会で尾身経企庁長官は、公共投資の乗数効果は一・三四、減税は0・三四だ。日本は公共投資中心の補正予算を組んだので景気は上向くと述べています。もちろん、これからの公共投資につきまして、費用対効果面の再検討など、その有効適切な執行に心掛けなければならないのは言うまでもないことです。しかし今、国がやる景気対策としては、大分県みたいに交通体系整備の遅れているところに、思い切って公共投資を注ぎ込んでもらえれば、景気対策にもなるし、社会資本の整備もできる。まさに一石二鳥の効果があると考えているところです。

   ウ 道路建設費を分析すると

 高速道路の建設費について、仮に関東の東関東自動車道との対比で見ると、この東関東自動車道の建設費は、一キロメートル当たり約七百五十二億円です。これを本県の場合と比べますと、大分県が現在工事を進めている大分・津久見間が一キロメートル当たり約五十億円です。この道路はワールドカップ・サッカー開催に間に合わせるよう二00一年には完成させたいと思っております。まだ十四キロメートルほど工事が残っていますが、東関東の一キロ・七百五十億円という金額は、大分道路の十五キロメートル分の建設費に相当する額です。計算上では、東関東の一キロ相当分の費用で、大分・津久見間の高速道路全部ができあがるということになります。これはあながち数字の魔術だけではありません。
 次に建設費のうちで用地費(土地代)について見てみます。東関東自動車道では、七百五十二億円の中でなんと土地代が七百億円を占めています。大分の場合は、五十億円のうち九億円が土地代です。差し引きしますと工事費は、東関東と大分ではさほどの違いはないことになります。しかし、この工事費が重要なのです。これが材料費になり賃金になり、いろいろと波及効果を生むわけです。その反面、土地代というのは、その土地の帰属が個人(法人)の所有から国の所有に移転するだけですから、所得移転効果だけで、消費を刺激する公共支出のことを真水(まみず)といっていますが、土地代は真水ではありません。景気対策としては、むしろ波及効果の大きい工事費の方にお金を注ぎ込みなさいと言っているのです。

   エ 子孫負担論

 公共投資に対する議論のもう一つの意見は、子や孫に債務だけを負わせるという「子孫負担論」です。国でも大分県でも、財政状態が厳しい時に、なぜ借金をしてまでお金をどんどん注ぎ込んでいくのかという借金警戒論です。問題は赤字国債の発行、赤字の穴埋めのために借金をすることです。こんな借金であれば子孫の負担が残ります。しかし、一般道路やふるさと林道や文化・スポーツ施設をつくる時に、国から起債枠を取って県債を発行するというのであれば、これは財産として残るわけです。バランスシートの考えからいうと、一方に借金(負債)があれば、反対側には財産(資産)があるということになります。従って子孫が負担することになりますけれども、子孫はその建物や道路を使い、利用するわけです。言い方を換えれば、国債償還のために負担することになりますが、この国際の償還金を受け取るのも子孫であり、財産を利用するのも子孫ということになります。だから子孫に借金を残すという中身が問題なのです。

   オ 政府破産論

 もう一つの議論は、「政府破産論」という考え方です。政府の発表では、平成十年度末の国と地方の借金が五百二十九兆円、約五百三十兆円になるそうです。これは日本のGDP(国内総生産)の一0二%に当たります。平口で言いますと、一年間一生懸命に稼いでも払い切れない借金を背負っているということです。家計であればとっくに破産しているはずだとの議論です。この議論についても同じように、債務五百二十九兆円の中には、今言った道路とか鉄道といった資産が残っているわけで、赤字国債というのは比較的少ない。OECDの統計によりますと、負債から資産を差し引いた純債務は、日本は二一%にすぎません。世界の主要七カ国の中では最低です。GDPに対する純然たる債務の比率は、ドイツが五0%、アメリカは四六%です。だからこれも、複式簿記的な考え方を持たないと、非常に短絡的な考え方では、本筋を見失うおそれがあると思います。
 大分県の場合も、県の起債残高でみると、名目では一人当たりの借金が六十万円になりますが、この借金の中に、将来国の交付税でみてもらえるものが半分以上ありますので、それを考慮すると実質的には一人当たり三十万円となります。急激に借金を増やしてはいけないことはもちろんですが、有利な起債で借金を実質的に増やさぬ努力もしています。

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