『毎日新聞』7月9日号より

 この人・この3冊 

平松 守彦・選

塩野 七生

 (1)ローマ人への20の質問
    (塩野七生著/文春文庫/690円)
 (2)マキアヴェッリ語録
    (塩野七生著/新潮文庫/400円)
 (3) おとなの二人の午後
    (五木寛之、塩野七生著/世界文化社/1905円)


 塩野さんは、『ローマ人の物語』(全15巻)執筆中の「史家」、『三つの都の物語』
などの「歴史作家」であり、『男たちへ』などの辛口「評論家」でもある。なかでも
『ローマ人の物語』は「学説、史観を捨て、虚心に歴史に向いあう」姿勢で「神は細
部に宿り給う」の言葉どおり、精緻を極めた自らの手で史実の検証で、ローマ帝国誕
生からパクス・ロマーナ(ローマの平和)への過程を述べる。

 塩野ファンは国内外の政治家や経営者にも多い。2002年日韓共催W杯の立役者鄭夢
準韓国サッカー協会会長も熱烈な愛読者の一人だ。「塩野さんと対談したい」と私に語
り、昨年八月ソウルで実現した。南北統一チーム結成に執念を燃やす彼は、多民族統
一を遂げたローマ人に深く傾倒したのであろう。塩野さんは大著が多い。その中から
読みやすい本を選んだ。

 『ローマ人への20の質問』。ローマ帝国永続の秘訣は、国外の敵の防衛に成功した
だけでなく、自分たちの言語を強制するよりもバイリンガルに自分たちからなる道を
選んだという指摘は、戦前の日本の植民地政策への痛烈な批判にもなる。

 ローマは何故滅んだか。彼女の筆は、まだ衰亡期時代のローマに入っていないので
ハッキリは言えぬが「気力の衰え」に帰するのではないかという。日本国の行方を暗示
しているように思え、最終巻が待たれるところだ。

 マキアヴェッリに格段の思い入れがあり『マキアヴェッリ語録』がある。「君主た
る者、酷薄だという悪評を立てられても気にする必要はない」「人は、心中に巣くう嫉
妬心によって、賞めるよりもけなすほうを好む」など冷厳マキャベリズムの真骨頂を
知る上で政治家には必読書だ。

 『おとな二人の午後』。五木寛之さんとローマでの対談でイタリアファッションや
料理など写真入りで楽しい。

 「中年の女になっていちばんいけないのが、男に見られるってことをあきらめるの
か、その緊張感を失っちゃうことね」というあたり、色気とエネルギーを失わぬ大型
作家の面目躍如である。