〜博士の異常な愛情又は私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか〜


米ソ冷戦時代、ある噂がありました。
「ソ連は『皆殺し爆弾』っつーのを開発したらしい」
そいつが発動されると地球上の生き物はみんな死んじゃうんだって・・・。

スタンリー・キューブリックはこの重苦しい『核』の恐怖をブラック・コメディにしました。

ある軍事基地司令官、「水道水に入っているフッ素はソ連の
恐るべき謀略だ」と勝手に思いこんでしまいます。
そこで彼は国家非常事態に発動できる「R作戦」を部下に告げます。
「R作戦」・・・敵国から攻撃を受けた場合、大統領の権限に関係なく
一般下級司令官が核による報復をしてよいというハチャメチャな作戦。
その作戦を回避するためには暗号が必要。
それはこの司令官しか知らないのです。
いきなりの作戦命令で同様する爆撃部隊ですが、
暗号が本物と知ると「名誉」「昇進」に奮起、空路ソ連を目指します。





大統領以下国防省は大慌て。
ホットラインでソ連首相に連絡するが、相手は泥酔状態で
チンプンカンプン。
大統領も必死で友達口調で説得します。
それでも指令基地に部隊を派遣して、爆撃機帰還を強制
させようとします。
基地側はやってきた部隊が、敵だと思いこみ激しい戦闘と
なります。






国防省の会議の席上にはドイツから帰化してきた
サイエンティスト、ストレンジラブ博士もいました。
彼は大統領に、核戦争が起こった場合を想定しての
意見を口にします。が、どうもヒトラーを敬愛し、偉大なる
ドイツ第三帝国に心酔してるような気がします。

なにしろ手袋してる右手が勝手に「ハイル ヒトラー」
しちゃうんですから。
手、ちょっと興奮して震えてるし。





指令基地では司令官が追い詰められた、とこれまた勘違い。
遂には捕まる前にと自殺してしまいます。
副官のイギリス将校は、彼が最後に残した言葉をつなげて
遂に3文字の暗号を解読。
全機に帰還命令を打電しました。
しかし、一機だけ打電前にソ連の攻撃を受け、電気系統が
イカレテしまってた爆撃機だけは飛行を続け、遂には
手動で水爆投下。
機の隊長である少佐は奇声を上げ、ロデオのように落下して
いきました。




基地では今後の対策をケンケンガクガク。
ストレンジラブ博士が、地下の巨大炭坑跡に
20万人くらいの頭脳明晰で健康体な民間人
と国家官僚を居住させ放射能半減期の
100年を暮らすべしと進言。
そして自らも車椅子から立ち上がり、よろめき
ながらも「総統!私は歩けます!」と絶叫。
自分も居住したいのね、結局・・・。






エンディングに流れるのはヴェラ・リンの「We'll meet again」という曲。
水爆のきのこ雲のオンパレード画面に流れます。
人類滅亡の瞬間に「♪また会いましょう」だって。
キューブリックも痛烈な皮肉屋さんですね。

ウラ話しをいくつか・・・
<その1>
ところで映画は唐突に終わる感じがします。
実は、「博士の異常な愛情」には、撮影・編集されていながら、公開前の試写をした際に評判がよくなかったので
公開版からキューブリックが削ってしまった幻の「パイ投げシーン」がありました。
これは映画のラストで、地球が皆殺し爆弾による死の灰に包まれるなか、国防総省地下の作戦室で、
ふとしたことがきっかけで米国大統領やソ連大使、政府高官、軍首脳らがパイ投げ合戦をするというものです。
映画ではストレンジラブ博士が「総統!私は歩けます!」と叫んで車椅子からよろよろと立ち上がると、
ヴェラ・リンの「We'll meet again」が始まり、甘い音楽にのせて核爆発が続く・・・。
このストレンジラブ博士のセリフと核爆発の間にパイ投げシーンが存在していたのです。
残念ながら、このシーンは我々は目にすることはできませんが。

ピーター・セラーズの伝記によると、隠しカメラによる盗撮現場をおさえられたソ連大使が投げたパイが
大統領にあたり、他の将軍たちもパイ投げを始め、会議室は大パイ投げ合戦場となるって感じらしいです。
パイだらけになった大統領とソ連大使は、砂浜で遊ぶ子供のように大きなパイのお城をつくり、
やがてみなで「For he's a jolly good fellow(彼はいいやつ)」を歌い、それがラストの「We'll meet again」に
つながっていくのだといいます。

<その2>
「博士の異常な愛情」はピーター・セラーズ自身も気に入っている数少ない出演作のひとつでした。
当初は映画でスリム・ピケンズの演じたコング少佐をセラーズも演じて、大統領、ストレンジラブ博士、
マンドレーク大佐に加えて1人4役となるはずだったのですが、足のけがのためコング少佐は代役のピケンズが
勤めることになったとされていました。

しかし彼の伝記によると、実際にはセラーズがテキサスなまり丸出しのコング少佐の役を気に入らず、
けがを口実にその役を断ったのだと言うのが真相らしいです。
後日スクリーンでスリム・ピケンズの素晴らしい演技を見たセラーズは、その役をやらなかったことを
すっごく後悔したといいます。

BGM「We'll meet again」
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